見出し画像

短編小説「歪んだ草」~育ちの良さって~

※ヘッダーはふうちゃんさまよりお借りしました。ありがとうございます。
たまにはほっこりした昔話でも。
親ガチャ、発達障害、問題児。
賛否ありそうな話題だけど、書かずにはいられない時もある。
フィクションのような実話のような短編小説。(約2000字)


「歪んだ草」~育ちの良さって~

小学生の時。クラスに1~2人はどうしようもないやんちゃな男子がいた。
今思うと多動とか発達障害の気配があったかもしれない。

はっきり言ってしまうと彼らは例外なく、片親とか祖父母宅住まいとか異父兄弟が多いとか、多かれ少なかれ家庭に問題を抱えていた。(田舎なので情報が筒抜けだった)
名字が変わったり、引っ越していったり。言い方は悪いが、複雑な家庭事情は子どもに悪影響を及ぼすと肌で感じていた。

授業中に叫ぶ、立ち歩く、暴力をふるう、これが彼らの日常。
私を含め気の強いクラスメイトは、ナチュラルにやられたらやり返す、で対抗していた。殴る、蹴る、階段から突き落とす。授業どころでなかったのは言うまでもない。
いわゆる学級崩壊。発達障害とか配慮という概念がない。ごちゃまぜクラスの公立小。
修羅のような、憎しみと暴力で溢れるクラスというのは、今の若い方には信じられない人もいるだろうけど。

そんな戦々恐々としたクラスに手を焼いていたI先生(中年女性)はある日、我々にこんな説教をした。
「草はまっすぐ生えているでしょ」
「たとえ一つ、歪んだやつがあっても、周りはまっすぐ伸びていくもんだ」

聞いた当時は、勝手なことを言うなあこの先生。と思ったものだ。
日々迷惑を被って授業も聞けない民草(われわれ)の心中も考えず、気にせずまっすぐ伸びろなんて無責任すぎやしないかと。そして、歪んだやつは救いようがないのかと。

世の中には言ってはいけない真実がある。この世は冷酷だ。それでも子どもはまっすぐ伸びねばならないのだ。
それをやや感情的ではあれ、あえて言ってくれたのかもしれないなと30年近く経って、思う。

曇天が続く湖北の冬。小学4年生。窓辺のロッカーには咲き始めた白や桃色のプリムラ・マラコイデスの素焼き鉢が並んでいた。

やんちゃな男子の一人、S君は小学校卒業前にひっそりと転校していった。


その後。
S君は再びこの地域の中学校に転校してきて、私と同じクラスになった。中学2年生の春。
耳の裏が垢だらけでいつも薄汚れた服を着ていた悪ガキ、S君。
今は、別人のようにシャキッと学ランに身を包み、背が伸びて大人びていた。笑顔が爽やか、まである。

あのやんちゃで暴れ倒していた悪童を思い出して身構えたけど、授業を邪魔することもなく、口調もおだやかで別人のようだった。

私と席が近かったのと、お互いギターを趣味にしていたので話が弾んだ。
ABBAがイイとかMr.BIGが最高とか、ギターを弾く真似をしながら得意げに話すS君はどう見ても普通の、むしろ利発な中学生だった。はじめは面食らったけどすぐに良いクラスメイトになった。

70~80sの音楽は私の世代としてはフォークギターの教本に載っているような古典的なチョイスなのだけれど、私もフォークギターの教本に載っている曲を練習していたのでなかなかに話が合った。
おそらく、音楽の方向性は親かお兄さんにでも影響を受けたのかと思うとほほえましくも思えた。

恋に遊びに忙しいのが中学生の常なので、その後はよく覚えていない。
私が音楽の才能に長けていたら、音楽室のピアノでブギーとかバンドを組むとか交流があったかもしれないけれど。

卒業式にいた記憶がないので、またすぐ転校していった気もする。

エアギターでダンシング・クイーンを得意げに歌うS君。
あの憎たらしかった男子と一瞬でも魂の共鳴ができた思い出は、私の心を温めてくれる。

彼は歪んだ草ではなかった。
たとえ歪んでいたとしても、その後まっすぐ伸びてゆく生命力を持っていたと信じている。彼の聡明さと、素直さを糧にして。


※それが、今の夫です。(嘘です)

耳の裏が垢だらけ、というのはけっこうリアルですね。
親に洗ってもらえてなかったのかなと勝手に切なくなったり。
今、お風呂で子どもたちを洗う度にそのことを思い出して念入りにゴシゴシしています。

みなさまのクラスにも「やんちゃな子」っていましたか?
悪ガキだった子も今は立派に働いてたり、強みを生かして活躍していて
なんだかんだまっすぐ育つバイタリティを持っていたなと思います。
(むしろ私の方がヤバい奴だった?まである)

子は育つ環境を選べないことに対して、世は親ガチャとか、そういう表現がありますが、(私はあまり好きじゃないけど)
育ちの良し悪しっていうのは育てられ方じゃなくて、自分がどうやって育ちたいか。だと思います。冷酷だけど。他責思考→自律ってこと。

修羅に生きる私もメタ認知みたいなものに長けていればやり直せるかな。
浄土真宗の「悪人正機」(悪人こそ救済される思想※ただし全員悪なの自覚して)みたいな。
説教くさくなってしまいましたね。
まあ、耳の裏はちゃんと洗いましょう。

風呂場と、この曲で思い出すS君


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?