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大晦日イヴの初耳

元祖ころりんが本土初席巻、密回避策として不要不急の外出自粛要請が公に初告知…。

のち、一旦解除…された頃だっけか。今となってはあやふやだが、2~3年前だったのは間違いない。

占領されたか!?…と錯覚するほどワラワラ蠢いていたガイジン・ツーリストが一斉に姿を消し、ニッポンジンさえまばら…。

そんな京都から、大阪へ。

まだ馴れぬマスク姿で私鉄に揺られ、到着したのは《松下幸之助歴史館》と《パナソニック博物館》。

入館無料とは太っ腹、さすがセカイの“ナショナル”――否、今は“パナソニック”か…と、創業者“松下幸之助”!

〈経営の神様〉として商いに関する名言金言を数多遺し、彼の手腕を範に今も信奉者多き伝説級巨人。

まぁジブンは“松下幸之助そのヒト”より、普段使いしていた懐かしのナショナル製品展示を目当てに馳せ参じたのだども。

ゆえゆえ、彼への関心はほぼ0――そう昨年の大晦日イヴまでは…。

丑神もまもなく退陣の師走30日、大晦日イヴ。

一年の親不孝を1度で帳消しにしよーと企む、恒例タスク“オカンと年末メシ”。

今回は東山の麓、生家も近い粟田口の豆富料理屋に。

粟田御所と別称される青蓮院門跡の真向かい、歩けばほどなく知恩院…。

1900年創業の老舗、時代祭にも名を連ねる尼僧所縁の屋号行灯が黄昏に浮かぶ。

しかして全皿――歯に優しく、喉心地よく、腹満たされる美味な豆富三昧。

湯どうふを突っつきながら、どちらともなく生家の思い出話に。

「…ウチの裏庭に流れてた小川ってさぁ、無鄰菴から流れてたんやんな?」

「そやでー」

「今って住んでた一画、ゴッツいマンションになってもたな?知ってた?」

「知ってる、知ってる…広道沿いの5軒、全部壊してしまわはったなぁ、お隣やった松下幸之助の別邸も全部ぇ…」

“…ん、なんかサラッと――初耳!?”

「えぇぇ!!松下幸之助、隣に住んだはったん!?」

「そや。京都に来た時だけやったみたいけどな…え、知らんかったん?」

「知らん、知らん…え、ほな、いつも鬼ごっことか三輪車とか足漕ぎ乗用で遊んでた隣の前庭が、松下幸之助のって…コト!?」

「そぉや」

楓が3本ほど植えてあって、子どもだったわが身にゃお手頃な広さ…。

「普段はおばあさんがやはったなぁ」

「もしかして苗字、○○?」

「あ、そーそー!○○のおばあちゃん!」

前庭奥の木製扉は滅多に開かず。夕方、おばあちゃんが時折掃除していたのを見かけるか見かけないかくらいの、実に閑静な遊び場。

楓のタネが、プロペラみたくクルクルしながら落ちてくることを初めて知った場所。

まさか、そんな巨人の私邸だったとは!

大晦日イヴの初耳。

思わぬ事実に、豆富料理でヌクヌクしたカラダがさらにドキドキ高揚したのだった。

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