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関心領域・感想レビュー、後編(ネタバレ有り)

 少し時間を置いてしまいましたが、本日は映画「関心領域」の後編です。今回ネタバレを含む感想となりますので、未鑑賞の方はご注意願います。尚、今回の鑑賞にあたってのネタバレ無し感想(鑑賞のきっかけや予習の有無について語ってます)は下記のリンク先にありますのでよろしければどうぞ。


 多忙につきレビューを書くのに時間がかかってしまったこともあって申し訳ありませんが、今回は前回で語れなかった部分を補足するものとなります。それではどうぞ!

ちなみに、パンフは目の前で売り切れましたぁ……!(ショック)

(区切り線以下は、映画のネタバレを含む感想がございますのでご注意くださいませ)





ヘス一家について


 まず結論からですが、前回にもお伝えしたとおり、予告そのままにただ家族の日常だけが流れるホームドラマというか、ドキュメンタリーのような描き方にまず驚きました。
 家の中を歩く家族を追う形の撮影やカットが多く、また非常にロングショットも多かったので、傍観者のように観ている感覚になっている感じです。これに2時間半!?とも思いますが、個人的にはあまりその辺りは気になりませんでした。背景に恐ろしい音(焼却炉の音、悲鳴、看守の怒鳴り声、銃声など)がガンガン流れますが、それがポーランドの美しい風景と反して、引き込まれていくけどなんだかそれが複雑な感覚になりました。そんな映像がずっと続くので、途中で「これ、どうやってオチつけるんだろ?」と心配にはなりましたが、逆にラストの締めくくり方が楽しみになりドキドキと観続けていました。

 家族のメンバーは犬含めてどこか異質な人ばかり。
 ルドルフ(夫)はユダヤ人女性相手に不倫してる(しかも行為後に股間を洗う始末)し、奥さんに至っては一番わかりやすく、ユダヤ人から奪った毛皮やそのポケットに入った口紅を何も気にせず拝借するわ、気に入らないことがあったらお手伝いさんを怒鳴りつけるわ、そしてあの隣から恐ろしい音や臭いがやまない邸宅(特にあの広い庭)を大層気に入った挙句、夫の転勤話を聞いてあのキレっぷり。本当にあそこに住みたい神経がわからない……

 奥さんは「子どもを育てる環境のためにも広い家を」とか「ここがユートピアだ」みたいなことを言ってましたが、長男は外で囚人たちを見ても無関心、どこで手に入れたかわからん金歯を夜な夜な眺める、そして弟を温室に閉じ込め毒ガス室ごっこしてる姿はもう完全に毒されているというか、ちゃんと隣で何が起こっているかを理解しているんですよね。弟は隣から聞こえる音を真似したり、兵隊ごっこをしてるし、女の子は夜なかなか眠れないと目に見えて悪影響が起こっています。さらには犬もどこか落ち着かず、収容所に向かって吠えてる(おそらく看守犬がいるはずなので、それに向かって吠えてる?)し、赤ん坊も常に泣いているのでひたすら慌ただしいです。ただ誰も嫌とは言わないんですよねぇ……

あっ!

 そういえば唯一違和感を感じている人物がいましたね、義母(奥さんのお母さん)。昼寝してたら銃声の音で目が覚めて、夜は煌々と燃え、悲鳴の聞こえる焼却炉を見て愕然とし、どこかへ消えてました。
 じゃあ彼女は普通の神経を持った人間なのか?と思ったら、そうでもないんですよね。庭で娘である奥さんと一緒に話しているときに「収容所に連れて行かれた知人のユダヤ人の家のカーテンを狙っていたのに他人に盗られた」と言っていたので、娘同様盗人なのです。差別意識はしっかり持っている、けれども実際に現場に来ると恐ろしい。でもこれって現代でもよく見る光景ではないですか?こういう人物を登場させているのもまたまた皮肉を込めていて恐ろしいです。今まで無関心だった人がその領域に入ることによって、今までのコンフォートゾーンに戻るべくその事実に蓋をする。戦争に限らず、こういうことは日々よくあるよなぁとあの義母を通じて気付かされました。


サーモグラフィーの女の子


 全編通して大きく気になった点が2つあります。

 1つは気になったというか、??と疑問符が浮かんだシーンですが、長女?の女の子が夜眠れず、ルドルフが娘にヘンゼルとグレーテルの絵本を読み聞かせするシーンに挟み込まれる、サーモグラフィーで映し出された女の子の映像。最初はヘンゼルとグレーテルの話かと思いきや、リンゴを地面にめり込ませているので、「ナンダコレ?」と白黒の映像の奇妙さも相まって不思議なシーンでしたが、初見ではなんとなく収容所のユダヤ人のためにしているのかな?というのはなんとなくは理解したかな?という感じでした。のちに映画の解説で、当時近所に住む女の子が本当に夜見つからないように収容所の作業場にリンゴを隠して埋めたというエピソードを監督が聞いて採用した、と聞きました。その女の子はリンゴと引き換えにユダヤにまつわる曲の楽譜をもらいピアノでそれを弾いていましたが、あの歌はユダヤでは有名な歌なんでしょうか?
わざわざ違うカメラで撮ってまであのシーンを挟むとは、よほど監督が入れたかったのだと思います。暗闇に白く光る少女が不気味に見えるか、一筋の光に見えるかで受け取る意味合いもガラッと変わるでしょうね。



ラストシーンの意味


 もう1つ気になった点はドキドキして待ったラストの現在のアウシュヴィッツ収容所のシーン。切り替わった瞬間、おもわず「あ、あれ見たことある」って声出そうになりました。

 最初に焼却炉の外観が映り、毒ガス室(あの廊下みたいに虚無の広い空間の所がガス室です)、焼却炉、収容者(被害者)の遺影が飾られてる廊下、山積みの遺品が並んでいる展示室でスタッフが掃除機をウィーンとかけながら清掃しているシーンがひたすら映ります。掃除機の音は怖くないはずなのに、今まで耳を恐怖で煽られ続けたせいか嫌な音に感じてしまいましたね。ただ掃除をしているだけなのに。

 感想を書かれてた方の中には「あのシーンに意味はあるのか?」「あのシーンって必要だったの?」って声もいくつか見受けられました。確かにずっと戦時中のシーンから急に現代のシーンが入ると抵抗してしまうのは良くわかります。
 それでも私は、あのシーンは必要だったと思っています。何よりあのラストシーンが一番わかりやすく胸が詰まりました。それは過去に訪れたことも大きいと思いますが、何よりあの清掃スタッフ達がヘス一家との対比になっているのではないでしょうか?あの掃除は彼らにとっての日常、焼却炉の燃える音や銃声、悲鳴はヘス一家にとっての日常。観光客だった私のように、一度訪れるだけの人間ではわからない感覚です。清掃スタッフの彼らも慈しむ気持ちはもちろんあるのでしょう。でも彼らは無表情で仕事に没頭している。何故ならそれが日常だから。その状況が当たり前であり、習慣になってしまっているのです。だからあの悲しい遺品の数々を見ても、いちいち胸が張り裂けそうになったり泣いたりすることはない。あのシーンが挟まることでこの映画に対する理解もわかりやすかったかな?と個人的に思います。

 あとラストシーンだと、ルドルフが何度も嘔吐する場面。「あれ?健康診断で特に異常がなかったはずだけど……やっぱ病気?」とよく理解できなかったのですが、TBSラジオポッドキャストでの森直人さんの解説がすごく目が鱗でした!健康に異常は無いけど、これから起こる惨劇を想像して、というのはとても腑に落ちました。

 このトークショー、関心領域関連の解説では一番わかりやすかったので、鑑賞後に聴いてみてください。すごくオススメです。リンク貼っておきます!!




最後に


  長くなりましたが、私の感想はこれで終了です。最後まで読んでくださりありがとうございました。ホロコーストの問題は今続いているイスラエルとパレスチナの紛争にも通ずるものがありますが、あのリンゴを埋めていた少女のように、目を背けず何か微力ながらにできることはあるのかな?と考えさせられる良作映画でした。

 話は変わりますが、実は今週、多忙の合間に「フェリオサ」も鑑賞してきました!本当は来週観に行きたかったのですが、あまりにも興行収入が良くないので応援のために早めに観に行きました!!こちらも方向違いますが、すごく面白かったのでスキあらば感想書きたいです。

というか皆さん、フェリオサ観てくれ〜〜っっっ!!!


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