見出し画像

関心領域・感想レビュー、前編(ネタバレなし)

 よし、久々にnote更新!やった!!

 さて今回は先月29日に鑑賞した「関心領域」の感想です。カンヌ、オスカーでの受賞で大変話題となった作品の待ちに待った日本公開!やっっっっと観ることができました。

 鑑賞後に他の方の感想をも気になり色々な意見を拝見しましたが、それを見てぜひ自分もコレ言いたい!という気持ちが高まって来たので、感想を書くことにしました。結論から言うと、人は選ぶかもしれませんが「自分に問いかける」と言う点ではどの人にも観てもらいたいほどにお勧めしたい映画です。今回は鑑賞のきっかけとなる個人的なエピソードと共に、予習が必要か否か、そしてネタバレ無しの感想をお送りします。後日、後編としてネタバレ有りの感想もあげる予定なので鑑賞された方はそちらもよろしくお願い致します。

「関心領域」予告動画↓





鑑賞する動機〜過去のアウシュヴィッツ訪問〜

 今回久々に映画を鑑賞してきたのですが、この「関心領域」をどうしてもすぐに観に行きたかったのには理由があります。実はかれこれ15年ほど前に、私はアウシュヴィッツ強制収容所跡である博物館へ訪れたことがあります。会社の研修でポーランドの首都・ワルシャワを訪れていたのですが、滞在中に急遽1日休みができまして、当時の同僚と数人で1日かけてアウシュヴィッツへと足を運ぶことになりました。しかしまあ〜国内とはいえ、ワルシャワからは電車でクラクフを経由して片道5時間ほどかかりました。

気楽に行くと決めるにはあまりにも遠すぎた……

 しかし、行くのが難しいところであればあるほど、感動とか得るものが多いことが多いです。

 かつてのアウシュヴィッツ強制収容所跡地は、オシフィエンチムという村にあります。最寄りの駅から降りると、そこにはとてもそんな悲劇があったとは思えないほどに自然豊かで、のんびりとした美しい場所がありました。『本当にここにあるのか!?』と疑うほどに美しく閑静な住宅街でしたが、駅の広場でうろうろしている日本人達にふと掃除をしていたおじさんが『あっちだよ』と優しく指を刺して教えてくれました。そのことで間違いなくアレがそこにはあるのだと確信しました。だってこの外れの村にとっては珍しいはずの外国人が訪れに来る理由なんて明白なのですからね……

 駅から徒歩で約10〜15分ほどでアウシュヴィッツの博物館に到着しましたが、まず初見に私が驚いたのは、塀で覆われた収容所の横に建っている高級そうな住宅街。そう、これこそが今回の映画、「関心領域」の舞台である邸宅であろう建物です。その当時はこの住宅に人が住んでいるのかはどうかわからなかったのですが、収容所の塀にピッタリ真横にある邸宅を見てかなり強いインパクトがあったのを覚えています。あの収容所にピッタリとくっついたところに人は住めるものなのか?そんな強靭な心?を持った人間とはいかに??

 10数年前にそんな体験があったからこそ、この「関心領域」という映画が公開されると聞いたときは(ちなみに「関心領域」は収容所の横に住む家族の物語だという話です)、真っ先に早く観たい!となりました。その気持ちは日に日に高まり、そして5月下旬に待望の公開となりました。

 それが私の今回の鑑賞理由です。私が鑑賞のきっかけをぐだぐだと続けてまで言いたかったのは、あの映画の家は決して架空のお話ではなく、本当に存在しているんだという事実をまず伝えたかったのです。それはアウシュヴィッツの博物館内での見学でも同じく感じる、そしてこの映画の全体に漂う「同じ人間とは考えられない程、とても異常で狂気の世界」の象徴なのです。ジョナサン・グレイザー監督もアウシュヴィッツを訪れた際に私と同じ感覚になったもだろうか?まずは監督にこの映画を制作してくれたことに感謝を伝えたいです。




予習は必要か?

 感想を話す前に今回の鑑賞に向けて予習の必要性を話しておいた方がいいかもしれません。個人的には今回の映画は予習が無くても鑑賞自体は出来ると思います。強いて言えば、「あの場所で当時何があったのか?」、「ホロコーストとは何か?」がざっくり理解している程度であれば大丈夫かなと思います。
 しかしその当時の背景を知っていれば知っているほど、この映画の重みや理解はかなり上がるのは確かです。実際、日本で公開されてからYouTubeやSNSでアップされた感想は割と賛否が二分化されていました。絶賛されている方々はわりと当時の造詣も深く、所々で挟まれる映像の意味も自分なりによく噛み砕いていた印象があります。一方、否定的な意見の方は「退屈」「つまらん」「よくわからん」と言う意見がわりとありました。そう言った方の中にはアウシュヴィッツがドイツにあると思っている方(この映画は登場人物がほぼほぼドイツ人なのでドイツ語で話が終始進みます)、この映画よりもオッペンハイマーの方が優れていると言う方や挟まれる映像の必要性がわからないという方も多く見受けられました。

 私はその否定的な意見もすごく理解できます。なぜなら過去のホロコースト映画もありましたが、そのどれも私たち自身が理解しているかは疑問に近いからです。
 前出のアウシュヴィッツの訪問の際、私たちは欧州の観光客から不思議な目で見られました。確かに周りを見たらアジア人の観光客はほとんどおりません。そう、彼らからしたら被害者の方々が自分の祖先や身内であったり、または近所の人や友人の身内だったりと、ホロコーストが幼い時からかなり身近な存在であったのに対し、私たちのようなアジア人のは身内の被害者は一切いないので、いわば遠い国の関連性のないお話なのです。「関心領域」はまさにそこを問いかけているわけであり、近くても遠くても自分の知らない場所で起きている悲劇に私たちはどう向き合っているのか。その観点で鑑賞して貰えばいいのかな?と思います。ネタバレ後でも非常に考察しやすい作りになっている映画だと思いますので、複数回の鑑賞もお勧めしたいです。

 どうしても予習したい!という方はこの動画がお勧めです。日本からはなかなか行けない場所ですし、私が訪れた当時は写真撮影もできなかったので、今こうして動画で見れるとは良い時代になりました。とても隅々まで撮影されているので、この動画を見れば現在のアウシュヴィッツへの把握はできるかなと思います。


 映画ではナチス政権当時の言葉も数多く出てきて(例えばカナダ、とか)理解できないシーンも多々あるかもしれませんが、このアウシュヴィッツの映像から色々感じ取ってくれれば予習はそれで良いかな?と思います。私自身、見学をしたことでこの映画もしっかり鑑賞することができましたので。




軽く感想(ネタバレ無し)

 最後に軽くネタバレ無し感想をお話します。この映画は一切残酷描写が無いですが、多少ホラーっぽい表現はあります。ただ歴史映画というよりはホームドラマのような感じで観ていました。家族の心情(犬、お手伝いさん、義母含む)がそれぞれどこかおかしいホームドラマという感じです。映画自体も五感を研ぎ澄まされるような作りになっています。視覚はもちろん、オスカーで音響賞を受賞しているだけあって聴覚をとにかく抉られる仕様になっています。また4DXではないので嗅覚は直接は無いのですが、所々に嫌な臭いのような異常を感じるシーンもあります。基本家族の生活を長時間垣間見る映像が続くのですが、所々に「うわ……」て声を出してしまいそうになってしまう作りになっています。特に母親役のザンドラ・ヒュラーがすごいです。異常です。よくある「意味がわかると怖い話」に近いかもしれません。

 残虐描写が無い分、ただただ家族の生活シーンが大半で105分あるので人によっては退屈に感じるかもしれませんが、シーン一つ一つは丁寧に撮られていて芸術的にも素晴らしい作品だと思います。カットだったり一部サーモグラフィーカメラで撮られているシーンもあるので、ホームドラマにしてはかなり作り込まれた映像になっています。あの音の効果の面でもぜひ劇場で観ていただきたいので、まだ鑑賞されてない方はお早めにどうぞ。

 今回は長くなりすぎましたので、感想(ネタバレ有)は後編でお話します。鑑賞されてない方は是非お早めに劇場へ!!

この記事が参加している募集

#映画感想文

67,269件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?