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時間旅行【#あのころ駄菓子屋で】

拝啓 あんこぼ-ろさんのこちらの企画に参加しています。

やれやれ…

場所が変わるといつも変な夢をみる。

さて、どんな夢だったのか、思い出せない。

けだるい体をゆっくり起こすと、ポ-ルは窓から外と見る。

隣のアパルトマンの窓が目に入ってくるだけ。空はほんの少ししか顔をだしていない。


そうだ、昨日から娘のマリ-のところに来ているんだっけ。

明日から春休みに入る孫のエミリーの世話をするために。

世話といっても やることはただ学校にエミリーを迎えに行って いっしょに家に帰ってくるだけだ。

エミリ-は今年で10歳になった。

来年からはもう一人で登下校をしていいことになる。

だから今年は最後のお役目。

おじいちゃんとしてできるちょっとしたお手伝いだ。


夕方4時まで ふらっとパリの街を散歩でもしようか。



あっという間に4時になった。

学校の校門でエミリ-を待つ。まわりには沢山の大人達がそれぞれの子供達を待っている。

「おじいちゃ-ん、来てくれたの-!」

エミリーが飛びついてくる。

年に数回しか会えないのに人懐っこくて、かわいい。

「はい、これね、おじいちゃんの分。あげる。いま食べようよ。」

ポケットから出したのは、飴。イチゴの絵が描いてある。

「わたしのもイチゴ味だよ。」

そう言って すぐに口に放り込む。

「学校に飴なんか持って行っていいのか?」

「ううん、これね、今日いいことをしたから先生がくれたの。」

「へぇー、いいことをすると飴か…」

学校教育も随分と変わったもんだ。学校で先生が生徒に飴か…

「ねぇ おじいちゃん、帰りに【ボンボンパラディ】に寄っていこうよ」

【ボンボンパラディ】とは飴を量り売りする飴専門の店だ。

いろんな種類の飴を好きな分だけ袋に入れて買うシステムになっている。

このタイプの店はフランス中、どこに行ってもある。田舎を除いて。

ポ-ルが住んでいる田舎の村には こんな店はない。

【ボンボンパラディ】は、エミリーの家の近くにあり、寄らずに帰るのは

一苦労だ。それでいつも寄ることになる。

やれやれ…



自分が小さかった頃は、村にはいわゆる よろず屋しかなかった。

生活に必要なものはそこで買った。

飴といったら、四角いキャラメル。

今でいう アンテ-ク調のガラスの大きな蓋つきの瓶に入った

キャラメル。

バターと牛乳のたっぷり入った甘い塩キャラメル。

地元 ノルマンディーの飴。

透明のフィルムに包まれたキャラメル。ひとつ1サンチ-ム。

毎日なんて買えなかった。

ときどきのお楽しみだった。


エミリーがお店で飴を選んでいる間、そんなことを思い出していた。

やれやれ…



今日はなんだか疲れた。早めにベッドに入ることにしよう。

また変な夢をみないように。




「おい、ポ-ル、何やってんだよ。おれ、今日100円持ってる。」

「…」

「たくみ、おれは、今日50円。でも絶対に【妖怪けむり】だけは買うぜ。
競争だもんな。」

「ケン、なんだおまえも50円か。おれもだ。」

「あ、あの、ぼく…」

ポ-ルは ポケットを探ってみる。

「なんだ、ポ-ル、100円持ってやがったのか、行こうぜ」

4人で駄菓子屋に入る。

それぞれがお菓子を選ぶ。

あんこ玉、よっちゃんいか、ミルクせんべい、きなこ棒、それから

いちばん肝心の【妖怪けむり】。

ポ-ルも遅れをとらないように同じ物を買う。もちろん

【妖怪けむり】も。

「早く、公園行こうぜ。先生に寄り道してんのみつかんないように。せーのでダッシュだ。」

ポ-ルも走る、走る、走る。



「なんだ、おまえ、やり方忘れちまったのかよ。ポ-ル。」

「ほら、こうやって、親指と人差し指にちょっとつけて、こする。」

「あ- もうじれったいなぁ。おれに貸してみぃ。」

4人の指から もくもくとゆっくり煙が立ち上る。

「やべ-っ、先生だ-。」

みんな一目散に走って逃げる、走る、走る、走る。

ポ-ルも走ろうとする。でも足がもたついて思うように動けない。

走れない、走れない、走れない。



そこで、目が覚めた。

寝汗をかいている、汗でパジャマがぐっしょりだ。

やれやれ…


はて 何の夢をみていたんだろう。

思い出せない。

けだるい体をゆっくり起こすと ポ-ルは窓から外を見る。

隣のアパルトマンの窓が目に入ってくるだけ。空はほんの少ししか顔をだしていない。


でも、きのうの朝と違うのは右手の親指と人差し指の先が

べたついたような妙な感覚。

やれやれ…


おしまい

あとがき

フランス在住ということで、こちらの駄菓子について書きたかったのですが残念ながら駄菓子のようなものがなく、駄菓子屋ノスタルジ-も描けませんでした。それでもフランスの子供は飴が大好き、飴との関係が日本の子供たちよりも近いことを表現したくて、自分の駄菓子の思い出とからませてお話を書いてみました。
ぎりぎり、なんとかやってみました。こんなので、いかがでしょうか。
拝啓 あんこぼ-ろさん よろしゅうお願いしますぅ!












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