【かぁ(火)曜日はカラスのジュ-ル】(最終回) ジュ-ルが私にくれたもの
カラスのくちばしの中の色は、成長によって変化する。
ひな、幼鳥の時は、赤い。
ふたつきもすると、ピンク色に。
衰弱したり、瀕死の危機の時は、白っぽくなり、
成鳥になると、喉の奥が黒くなる。
そう、ジュ-ルは、もうすでに、大人になっていたんだ。
私が気がつかなかっただけなんだね。
* * * * *
みなさま、こんにちは。かぁ曜日はカラスのジュ-ルの時間がきました。
毎週火曜日に、この台詞で、お話を始めるのが好きでした。
でも 今回で、ジュ-ルのお話は終わり、最終回です。
突然のお知らせで、みなさまの驚きの声をコメント欄からいただきました。
同時に、みなさまのジュ-ルへの想いが私の心を打ちました。
今日まで応援してくださりありがとうございます。
寂しいけれど、こういう形で終わりを迎えることができて、よかったのだろうと、そう思える私です。
* * * * *
そう、ジュ-ルは、旅立った。野生に帰ったんです。
なんの前ぶれもなく 突然に。
それは、9月のある土曜の午後。
出かけていた私と娘が家に戻ると、ジュ-ルの姿が見えません。
いつもジュ-ルがいるキッチンのテラスにでて、
大きな声で呼んでみる。
すると、遠くの木から バサバサッと飛んできた。
テラスに舞い降りて、私の手にとまり、肩にちょこんと乗って、そして頭にもとまってくれた。
それから、ジュ-ルは、テラスに降りると、私のスカ-トの裾をグイグイとくちばしで引っ張り、まるでそれは、
「おがぁさん、どこへ行っていたんだよぅ」って言われているみたいだった。
日が暮れる頃には、ジュ-ルは、何処へ飛んで行ってしまった。
でも これはいつものこと。
夜は何処で何をしているのか私にはわからない。
翌朝になってもジュ-ルは姿を見せることはなかった。
それまで時々していたプチ家出。冒険の家出。
またか、と家族の誰もが思っていた。
日曜日の夜は、娘が中学校の寮へ戻る日。
日が暮れる前にジュ-ルが顔を見せてくれるといいねと言っていた。
そして、そのみんなの気持ちが通じたかのように、夕食時にテラスに戻ってきたジュ-ル。
ありがとう、ジュ-ル。今週も娘に
「寮にいってらっしゃい」って言いに来てくれたんだね。
テラスにでて、ジュ-ルに近づく。
あれっ、くちばしに何かをくわえてる。
それは、
どんぐり
夕食後、娘を車で寮まで送り届け、家に戻る。
どんぐりを持ってきてくれた あの日が 最後の日になるなんて。
いつものプチ家出とは、なにか違うと感じていた私。
その予感のとおり、もう、ジュ-ルが戻ってくることは、なかった。
ジュ-ルが野生に帰ること、それは、私がいちばん望んでいたこと。
巣から落ちたジュ-ルを保護し、育て始めた時から、一緒にいられる時間は限られているとわかっていた。
でも、
こんなに寂しくて、悲しくて、涙がでるなんて。
あの日から、もう3週間。
今でも、つい窓を見てしまう。
娘の部屋の窓から、彼女を見ていたジュ-ル。
毎朝、玄関先で靴磨きをする主人のところへ飛んで来て、磨いていない方の靴紐を引っ張って遊んでいたジュ-ル。
洗面所の窓から、歯磨きをしている主人を見ていたジュ-ル。
お皿洗いをしている私を窓越しに見ていたジュ-ル。
部屋から部屋へ移動する私に合わせて窓から窓へ移っては、私を見ていたジュ-ル。
未だにジュ-ルの姿を探してしまう自分がいる。
でも、もう、ジュ-ルは、いないんだ。
ジュ-ルが私にくれたもの、それは、一粒のどんぐり。
そのどんぐりには、きっといろいろな意味がある。
と、私は思っている。
ジュ-ルといっしょに過ごした、この5か月半という時間。
この時間を一瞬たりとも無駄にすごしたことは、ない。
いつかは、なくなってしまう目の前にあるこの時間を精一杯、私は生きた。
それは、今までの人生で、感じたことのなかった時間を大切に想う心。
ジュ-ルは、それを私に教えに来てくれたんだと、そう思う。
生活の中でつい忘れがちな、当たり前にあるものの尊さ、なんとなく流されて1日を終えてしまうことの愚かさを。
そう、当たり前にあるものなんて、ない。
時間って限られている。だから、この瞬間が大切なんだ。
私達夫婦には、13歳の娘がいる。
この子が独り立ちする日は、そう遠くない。
彼女といっしょに居られる時間は、限られているんだ。
ジュ-ルは、それを教えに私の所へ舞い降りて来た。そう思う。
10月のある日、主人が学校の校庭にいる一羽のカラスを見た。
そのカラスは動きを止めて、主人のことをじっと見ていたという。
野生の鳥が、人を長い間、見つめることはあまりない。
きっと、あれは、ジュ-ルだったのだと、主人は言う。
カラスは集団で暮らす鳥。
あの日、独りで、校庭にいたジュ-ル。
きっと、パ-トナ-を見つけて、集団の中で暮らしていくのだろう。
そして、もしかしたら、来春、家族を連れて、また、ここに来てくれるかもしれない。
ひなが巣から落ちても、
「ここにはね、おがぁさんがいるんだよ」と
ジュ-ルは、そう思ってくれるかもしれない。
カラスは、いや、ジュ-ルは賢い鳥だから。
ジュ-ルの物語を最後まで読んでくださりありがとうございました。