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【掌編】影の中

街角のカーブミラーと街頭が入口をもう作ってくれていた。
あとは午前二時になったら片足を丸い影にのせ、踏み入れればいい。あちらへ行ける。半信半疑ではあるし行ったところでという気もしなくはない。今よりひどい可能性だって無くはないのだ。
「どうするの、来るの来ないの」と影の中から声がした。「そっちはどうですか」と思わず声の主に尋ねていた。
ややあって、「食い物は不味いし、水も汚い、まあ言い出したらきりがない」
何だ、つまらないことを聞いた。いや助かったのか。
「帰って寝ます」
「そうか」
足音がはなれていく。
「あんたは人を信じ過ぎるな」
そうつぶやいて、彼はめくるめくすばらしい影の中へ、帰っていった。

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