【咲くと散るけれど、また咲く】
散りはじめましたね、桜
2月半ばに美容院へゆきました。
ウィルスなんて大丈夫っしょ、と思っていた方も多かったでしょう。私も大丈夫っしょ、と思っていました。この多量で針金のような髪の毛はコンスタントにカットしないと落ち着かない。
この日、予約をキャンセルするという選択肢はなかった。
チリンチリーン…ドアベルとともに入店する私。
なんだか店内の空気が重い。
曇り顔のショートヘアが迎えてくれた。
もうお世話になって3年、担当のお兄さんである。
「いらっしゃいませぇ」
なんだか元気がない…とても。オーラがヒョロヒョロしている。
「どうかしましたか?」
「いやぁ…予約のキャンセルが相次いでまして…今日はご来店本当にありがとうございます」
それもそうだ。ライブハウスよりこじんまりとした店内で2メートルの距離間もくそもない。そして、カットしてもらう側はマスクをつけたままではおれんのです。
「薬局やなんかをハシゴしてやっと買えたのがマスク3枚ですよ」
疲れきっていた。マスクが入手困難である日々、増える予約キャンセルの電話、お店で感染者が出てしまうことへの恐怖、営業停止になる可能性への不安…。接客業の疲労感がひしひし。
元気のない担当さんではあるがやはりプロ。
オーダー通りの素晴らしいカット。
帰り際に次回の予約をする。ドアベルを鳴らし外へ出る私に続いて担当さんも出てくる。いつもお店の外までお見送りしてくれる。
「今日は本当にありがとうございました」
曇りがかった笑顔を見ていると胸が痛かった。
そして本日である
いや、本当は予約日を1週間後に予定していたのだけど、昨日担当さんから連絡があったのだ。営業時間を短縮することになったので予約を改めてとってほしい、ということだった。
ですよね。
世の中がいまそういう流れでもって色々守ろうとしてる。色々犠牲にしながら。
私は悩んだ。休日は自宅待機~!と会社の偉い人からいわれている。平日は今後の仕事のスケジュール的にいつ行けるか分からない…いつだ…いつがいい……あ、明日しかない…でもこの季節柄…美容院に…距離間2メートル…ウィルス…予約……キャンセル……曇った笑顔…………うっ。
かくして本日、担当さんに温かく迎えられたのである。いつものドアベルは鳴らなかった。ドア全開で換気満点の営業だった。もちろんお店の方は全員マスク着用。
換気は完璧であったけれどやはり店内の空気は重い。担当さんの顔もまだ曇りがち。というか降りそう。
「どうしようもないですよね。できる限り気をつけるしかないです。お店を閉めるという選択肢はないです…生活できなくなりますからね、ほんと」
近所の桜が綺麗に咲いていること、
缶チューハイ片手に花見をしたいこと、
担当さんのヘアカラーが桜色(色落ち)だったこと、
最近スタイリングが楽しくなったこと
…なんて話しながら。
帰り際、開け放したドアの外までお見送りしてくれる。春風はまだ冷たい。
「今日は本当にありがとうございました」
すぐにでも降りそうな笑顔を見ていると胸が痛かった。悩んだけれど、ゆくと決めて良かったと思った。
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