見出し画像

『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(加藤陽子、新潮文庫)

本書を読んで

本のタイトルには「それでも」という接続詞が使われている。あえてこの言葉をタイトルに入れていることの意味が明らかになったとき、教科書とは別の視点から描かれる日本の近代史が浮かび上がってくるのではないかと思う。

日清戦争から太平洋戦争の終結までを高校生にした授業を本にしたもの。あくまで高校生向けの授業として作られているため、とても丁寧な説明がなされていて読みやすいし分かりやすいと思う。また、歴史を学ぶ上で重要なことの一つとして、現在の感覚で考えるのではなく、その当時の状況やものの考え方を踏まえなくてはいけないということが挙げられる。この点についても筆者は丁寧な説明をしておられるように思う。

国際連盟からの脱退

本書で最も「ヘ〜、そうなんだ〜」と思った箇所をあげるとしたら、国際連盟脱退に至るまでの経緯だろう。

教科書的な理解は次のようなものだと思う。私の記憶の範囲内ではあるが・・・。柳条湖事件についてのリットン調査団の調査結果に不満があったから、日本は国際連盟を脱退したというものである。これでは当時の外相松岡洋右は、積極的に国際連盟からの脱退を主張する立場の人物であったと思うのではないかと思う。

しかし本書を読むと、これとは異なる見方をすることができる。中国側は日本との提携路線を考えていた。日本は中国のこの姿勢を踏まえて、中国に対する強硬姿勢というポーズをとった。この時点では、日本は国際連盟から脱退する予定はなかった。また、陸軍からも国際連盟との妥協を推す声があったという。しかし、満州にいた陸軍が連盟規約に反する軍事行動をとった。連盟規約に違反した行動をとったことで国際連盟からの制裁や除名といった不名誉を受けることを避けるため、国際連盟を脱退するという道を選んだ、というものである。

私の理解していたよりも数段複雑な過程を経て、言ってしまえば「やむを得ず」日本は国際連盟を脱退することになったのかもしれないと思った。これは教科書的な理解?をしていた私にとっては、意外なことであった。

やはり国家の統治者が、軍隊という実力組織をしっかりと統制することができなくなったことが、日本が敗戦への道を進んでいくことになる契機だったのかもしれない。

過去を直視するとはどういうことなのか、今一度考えてみても良いのかもしれない。


サポートしていただいた場合、書籍の購入にあてさせていただきます。