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学位こそ大学存立の根拠でありレーゾンデートルであった

書誌情報
安原義仁、『イギリス大学史 中世から現代まで』、昭和堂、2021年.

イギリスの高等教育の歴史について、その起源である中世から現代に至るまでを扱った通史である。通史であるため、本書はまさに鈍器本のような厚さになっている。読み切るのもそう簡単ではない。しかし、本書は平易な文章で貫かれており、興味さえあれば読みやすい本になっているといえるだろう。

章の節構成は、その内容によって異なるが、おおむね以下の通りになっている。最初の節では、その章の外観について述べ、以降の節で具体的な内容を扱うというものである。ただし、節によって時系列が前後することがある。このため、年号に注意しないと時系列を誤る恐れがある点は注意が必要だろう。イギリスと一言で言っても、そのなかにはイングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズが含まれており、それぞれの時間の流れは単線的なものではないという証左でもあるように思う。

本書のなかには現在に通じるような内容が盛りだくさんである。今回はその中の一つを取り上げたい。最近話題?の経済安全保障というものと大学の関係である。なお、本書で経済安全保障という単語が使われてはいなかった点は指摘しておく。ただ単に、私が経済安全保障と同じことではないかと思ったことである。

第一次世界大戦の際、イギリスは国防に不可欠な物資の多くを危険なほど敵国に依存していることが明らかになった。これはイギリスに衝撃を与えたという。この欠陥の是正策の一つが、大学などの研究機関への国家による全面的支援体制の整備である。研究開発に国を挙げて投資をすることで、防衛物資についての敵国依存度を下げようとした。防衛関連の研究をするという、特に戦時下において政府から大学に課される役割というのは、もしかしたらこの時から始まっているのかもしれない。

太平洋戦争の頃には、日本でも旧帝大を中心に多くの附置研究所が設置された。大学と戦争あるいは防衛産業とは、大学の歴史からすれば短い期間でしかないが、急速に距離を縮めた関係だったのである。 


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