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『ヒトラー』(芝健介、岩波新書)

ナチス研究の入門書ともされる石田勇治さんの『ナチ・ドイツとヒトラー』と比べると、第二次世界大戦中についての記述が充実している。また大木毅さんの『独ソ戦』で述べられているような最新の研究成果が盛り込まれている。刊行が2021年秋だったことを踏まえると、本書を通して最先端をいく研究を知ることができるのではないかと思われる。

特に第6章は、文献だけでなく映像作品についても取り上げて叙述がなされている。ここから時系列的な研究史の理解も進めることができるだろう。また、研究の道を歩まなくとも、例えば学校の教員でも、ナチス研究の歩みを知ることは授業作りに有益かもしれない。

ただし石田勇治さんの著作と比べると、表現が固いことは確かで、それゆえに思考が妨げられ、読みにくさを感じてしまったのも事実である。私の知識にもよるのだろうが・・・。そういう意味では、石田勇治さんの著作でアウトラインを掴み、それから本書を読んだ方が理解しやすいかもしれない。さらに興味があるのなら、先ほど出てきた独ソ戦のように、テーマを狭めた文献に手を伸ばせば良いと思われる。

ナチ党の活動

ナチ党はどのようにして国民の支持を獲得していったのか?
本書では、以下のことが述べられていた。

・組織的なプロパガンダ
・他の政党を圧倒する高密度で、集会や演説などを実施
・演説をする弁士を養成するための学校を作り、弁士を増やす

こうした活動に対して、共産党を除いて追随できる政党はなかったという。ナチ党はヒトラーによる指導のもと、他政党よりも高度に組織的な活動を強力に行なっていたと言えるだろう。

これまでの政党とは異なるスタイルで政党活動を行うことを思いついたのだから、ナチスの内部には前例に囚われない、優秀な人物が活動内容を立案していたことになるのかもしれない。現在はもちろん、当時も圧倒的な支持を得るまでの段階では危険政党と見られて然るべき政策を掲げていたにもかかわらず、なぜ優秀な人はそのような危険政党に加わることになったのか、不思議な気がしなくもない。あるいは、他の政党がただ惰性で活動をしていただけで、そこに「真面目に」活動を展開していたナチ党が現れ、求心力を集めたということなのだろうか。

いずれにせよ、手段を問わず権力の座までナチ党は上り詰めた。それまでの間にナチ党を阻止することはしようと思えばできたのだろうが、結局それは現実のものとはならなかった。国民が政治やあらゆる政党を厳正に監視することは重要なことだろうが、それだけで暴政を防ぐための抑止力になるのか、それはまた疑問ではある。


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