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『暗号解読 上』(サイモン・シン著、青木薫訳、新潮文庫)

あらすじ

歴史の節目というべきところで、暗号は重要な役割を果たしてきたという。上巻では、古代ギリシャとペルシアとの戦い、スコットランド女王メアリの暗号、ルイ14世の暗号、第二次世界大戦中にドイツが使用したエニグマ暗号の開発と解読といった内容が扱われている。

換字式暗号に始まり、電信を利用した通信でも情報保全に寄与したというヴィジュネル暗号、そしてドイツのエニグマ暗号など、上巻だけでも多様な暗号が登場する。

これらの暗号にまつわるエピソードから、筆者は教訓めいたものを述べている。それは、弱い暗号を使うくらいなら、最初から暗号など使わない方がマシだ、ということだ。たとえ秘密にしたい文章を暗号化しても、それが絶対に安全だという保証はない。相手に解読されてしまうこともあることを考えれば、たとえ暗号化しても、その内容は慎重に書かれるべきであると述べているのである。

また、アメリカで宝のありかが書かれているとされる暗号があり、多くの人がその暗号解読に挑んだが解読に至らなかったというエピソードの中で、筆者は趣味で暗号解読に挑む人たちに警鐘を与えている。それは生業の余暇だけに取り組むことということだ。そして余暇がなければこの件には関わらぬこと、としている。夢かもしれないことのために自分と家族を犠牲にしてはならないからだ。

思ったことなど

第一次、第二次世界大戦中、ドイツ軍は非常に難解で解読は不可能とも言われていた暗号を使っていた。ドイツ軍内にもそういう自負があったと思われる。しかし、実際には、どちらの戦争においても連合軍側によって戦前、あるいは戦中にドイツ軍の暗号は解読されていた。自らの使用している暗号は強力で解読は不可能という自負がある時、自らの暗号が解読されていたという結論を下すことは非常に難しいことであると感じた。(連合軍もドイツの暗号を解読していることをドイツ側に知られないような工夫を凝らしていた)

こうしたことから、暗号に限らず、自らが相手よりも優れたものを使っている、持っているという自負がある時、そこには慢心が生まれていて、それが一番危険な状態なのかもしれないと思わされた本である。



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