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『罪と罰 上』(ドストエフスキー著、工藤精一郎訳、新潮文庫)

あらすじ

主人公はラスコーリニコフ。ペテルブルクで一人暮らしをする大学生で、母親と、結婚を控えた妹がいる。

主人公は、高利貸しの老婆殺害を決心している。すでに頭の中で何回もイメージトレーニングを重ねている状態である。主人公にとっての懸念事項は、高利貸しの老婆の妹が不在時に殺害を行えるかどうか、ということだった。妹が不在時を知り、そのタイミングを狙って殺害を実行するが、偶然、その妹が戻ってきてしまい、顔を見られたため妹も殺害してしまう。

殺害後、すぐに自首か逃亡か、でさまようが、凶器の処理や高利貸しから盗んだものの秘匿はすぐに行っている。これ以降、主人公は周囲の人々の言動、警察の動きに極めて敏感に反応するようになる。


まだ気持ちが落ち着かない状態で、妹の婚約者との会合をする。婚約者が主人公のもとを訪ねてきたのだ。これにより、主人公と婚約者の話し合いは決裂、婚約者は主人公との今後の面談を拒絶する。

一方で、主人公は別件で知り合った警察官と親しくなる。この警察官とは、殺人事件についても議論をしており、このなかで主人公は、自らが犯人であると解されてもおかしくないような発言をする。しかし、この時点では主人公が捜査線上に上がることはなかったものと思われる。

それから、母親と妹が結婚準備のため、田舎からペテルブルクにやってくる。妹は主人公と婚約者との和解を模索するが、婚約者の側は婚約解消もちらつかせて揺さぶりをかけてくる。

こうした状況で上巻は終わる。

自首か逃亡か

老婆殺害後の主人公は、自首することと隠し通すことの間を行ったり来たりしている。自首を考えたり、決意しかけたりするときは、基本的に一人で施策にふけっているときである。一方で、隠し通そうとするときは、誰かと話している時である。

精神的に不安定な状態で一人でいるときは、多くの人がネガティブな思考に陥りがちである。ここでも、主人公は自首という「ネガティブ」な考えに陥っている。

しかし、誰かと話していると自身が犯した罪がまだ誰にもばれていないということが分かる。そのため、まだ隠し通せる、と考えるようになり、自首という考えが薄れていくのだと思われる。

殺人に対する後悔

主人公からは老婆を殺したことに対する後悔のようなものは全く見られない。一方で、殺人を犯したことで、自分が苦しめられることに対する後悔のようなものは時々あらわれる。自分が苦しめられることは実行前からわかっていたことではないか、と自らに言い聞かせてはいるが、あくまで殺人についての後悔はしていないようである。

https://www.shinchosha.co.jp/book/201021/



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