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PandaShoujoの秘密兵器? ゲームシナリオライター『おおるりしん』の実力とその魅力(後編という名の反省会) ※ネタバレ&エロ要素有


前書き

 前回の記事サイバーステップのプラットフォーム『PandaShoujo』から発売された『強運傭兵と宝石の姫騎士 - Fortunate Duo -』の解説をした。元のエロゲーからエロを取り除き、代わりに詳細な設定を詰める事でダークファンタジーとして一本立ちした作品だった。今回は前回の記事に引き続き、ゲームシナリオライター『おおるりしん』氏の仕事について語っていきたいと思っていたのだが
 前回の記事ではダラダラと長く書きすぎてしまったこともあり、その反省として今回はコンパクトにまとめようかと思う。それ以外にも反省点はあるのだが後述する。
 今回紹介する作品は2024年2月29日に配信された『ぽかぽかママ恋温泉 ~Mommy's Warm Hot Spring~。原作はインカローズより2017年11月24日に発売された『筆下ろしママ ~溢れる白濁&ミルク~』(公式サイト。18禁なのでアクセス注意)。いつものように元になったゲームを原作、PandaShoujo製はPS版と記述させてもらう。

原作のあらすじと感想

 原作のあらすじとしてはこうだ。
>主人公、一条 直斗は年上の女性…しかもママさん達に人気のある男。
>そんな環境で育った彼がママさん好きになるのは自然の流れだった。
(公式サイトより一部抜粋)

 あまりにもリビドーに忠実すぎるあらすじのため、ほんの少しの引用だけに留めておいた。原作タイトルから分かるかと思うが、直球の、ガチガチの抜きゲーである。PandaShoujoが選ぶタイトルとしては珍しいことではなく、この抜き部分をどういう風に改編するかがスタッフの腕の見せ所になる。

 登場人物は主要4名+サブ2名。紹介はすぐに終わる。ちなみにCVについては原作・PS版双方とも同じである。

  • 一条直斗(いちじょう なおと) 主人公。極度のマザコン&年上好きの少年。自分より二回りは年上の女性でなければ恋愛対象にならず、守備範囲外の女性に対しては冷淡とも言える態度を取る。

  • 宮崎紅音(みやさき あかね CV:伊ヶ崎綾香) 直斗の幼なじみ、宮崎礼太郎の母親。幼い頃から直斗も世話になっていた。割といたずらっぽい性格で、直斗をからかったり甘やかしたりしている。他人の耳かきが得意。

  • 一条鶫(いちじょう つぐみ CV:花蜜) 直斗の義理の母親。直斗の実母が他界したのち父親が再婚して母になった。その後父親も亡くなったため、現在はOLをしながらシングルマザーで直斗を育てている。包容力があり何かと直斗を甘やかしがち。料理が得意。

  • 霧山香央里(きりやま かおり CV:桜水李) 直斗たちがよく行くスーパーの店員。普段は明るく振る舞っているが、夫と息子を事故で亡くしたという過去を持つ。穏やかで礼儀正しい性格。自分に懐いている直斗を頼りにしており、息子に重ねて見ているフシがある。

  • 宮崎礼太郎(みやさき れいたろう) 直斗の幼なじみで紅音の一人息子。作中に出てくる人間の中では直斗にとって唯一の友人。お節介焼きだが空回ることもよくある。ゲームが非常に上手い。

  • 幼なじみの女子(おさななじみのじょし) 直斗の幼なじみその2。裕福な家の生まれで、さらに才色兼備でクラスの人気者。バレンタインデーで直斗に告白したが、直斗の恋愛守備範囲外だったため玉砕した。それでも諦めずに何度も直斗にアタックを仕掛ける。幼なじみの女子、という名前は正式名称で、本当の名前で呼ばれる事は一度も無い

最初から最後までずっと「幼なじみの女子」

 ガチの抜きゲーであるこのゲームの内容に突っ込むのも野暮なので、細かい事はスルーする。メインヒロインの3人と会話をし、選択肢によってエロシーンが何度か挟まれて個別ルート行きとなる。
 EDは5つで
・紅音ED
・鶫ED
・香央里ED
・ハーレムED
・幼なじみの女子を加えた4股ED
 となっている。最後の4股EDにおいては幼なじみの女子はあくまでうわべだけの付き合いで、直斗の本命は他のママ3人である。だいたい幼なじみの女子には名前もなければ立ち絵もない。礼太郎にも立ち絵はないが。

 私が原作を終えて最初に抱いた感想は「こんなゲームSwitchで出せるか!」だった。徹頭徹尾実用性に重きを置いているため、直斗がちょっと出歩くとすぐママたちとのエロシーンが挟まれる。ママたちの直斗に対する好感度は最初からマックス状態で、二言三言会話すればすぐエロシーンを拝む事が出来る。選択肢もわかりやすいほどわかりやすく、ルート分岐も容易だ。
 ルートによっては直斗がゲスすぎる行動に出るとか、たまに登場人物が変なことを口走る(幼なじみの女子を「クラスのマドンナ」「美女」と表現する礼太郎、いい仲になったママ相手に「彼女と一度でもまぐわいたい」「乳繰り合い放題だ」と言う直斗)とか、紅音EDでかつてヤクルトや巨人でプレイしていた元プロ野球選手ペタジーニも真っ青なトンデモ展開が待ち構えていた(後述。とてつもないネタバレなので注意)くらいしか気になるところはなかった。あのルートの礼太郎は頭がいかれているとしか思えない態度だった。
 PandaShoujoはこれをどういう風に全年齢向けに落とし込むのか。私はてっきり「宿主ガードマンのように何から何まで換骨奪胎して来るんだろうな」と思っていたのだが、予想は外れた

温泉要素=エロ

 PS版のあらすじは以下の通りである。
>同級生の告白を「君のお母さんくらい年上の人が好きだから」と断った主人公、一条 直斗。
>なぜか年上女性に好かれる直斗は、自然と年上が好きになっていた。

>ある日、近所の香央里さんが、昔あった銭湯に行きたいと話していた。
>直斗の前でもお疲れの様子。家では継母の鶫さんも体調を崩している。
>年上の女性たちはみんな疲れているようだ......。

>学園では年上好きの直斗に対する、同級生たちからの嫌がらせがあった。
>背後から物をぶつけられて以来、なぜか直斗の嗅覚が異常に発達してしまう。

>鋭くなった嗅覚により、直斗はとある方向から温泉のにおいがすることに気付いた。
>温泉のにおいを辿っていくと、ひと際においの強い場所を発見する!
>直斗は温泉を掘り当て、日々の疲れに効く銭湯を再建できるのだろうか?
(e-shopの説明欄より)

 これだけ聞くと原作と全然違うように思えるが、実際のところ大筋では変わっていない。確かにエロ要素はカットされてはいるが、選択肢の内容や選んだ後の反応などは概ね原作と同じである。
 かなり年上の女性、しかもルートによっては義理の母親とも恋愛関係になれるというのは、SFC版同級生2で美佐子さんや片桐先生を攻略出来なかった時代を考えると隔世の感がある。

 あらすじにもあったとおり、直斗は突然背後から物をぶつけられた結果、嗅覚が発達する。ぶつけられた物というのが直斗の亡くなった父が生前作っていた皿で、直斗の通う学園(エロゲーやその移植作特有の曖昧な言い方だが、高校で確定である。ルートによっては直斗と礼太郎は時が経って大学に進学している)の美術室に寄贈されていたものだった。後頭部に皿ぶつけられたのに頭より鼻が痛くなったことを気にしている直斗も変だし、その後皿を片付けに来てくれた近所のおばさんのセリフも仕方ないとは言えおかしい。下の画像を見てほしい。

「今日学園?」というすさまじい違和感の問いかけ

 ちなみにこの皿を一体誰が何の目的で直斗の後頭部にぶつけたのかは、ゲームをクリアしても分からない。なぜ嗅覚が鋭くなったのかは、PS版で追加された直斗の両親の話を勘案すれば何となく想像がつく。だが確証はないし、当たっていても納得しづらい。
 多分「かつて湯治目的でこの街にやってきていた一条夫妻の想いが皿に込められており、その想いのこもった皿をぶつけられたことで息子の直斗に何らかの変化が起きて嗅覚が発達した」といったところなのかも知れないが、なんともいえない。

 嗅覚が発達した直斗は、自分と仲良くしているママたちが疲れていることを改めて知る。義母の鶫は季節の変わり目に体調を崩しやすくなっているし、スーパーの店員香央里は肉体的・精神的な疲労で目の下にクマができるほど。紅音はそれほどでもないが、かつてこの街にあったが枯れてしまった温泉「轍原(わだちはら)の湯」を懐かしそうに思い出す。直斗は自分の嗅覚を使って、再びこの街に温泉を掘り起こそうと画策する。
 というのがPS版で追加された展開である。

 過程をすっ飛ばすと、新しい温泉は見つかった。直斗、礼太郎、そして温泉がありそうな地域に住んでいる後藤老人の3人で温泉を見つけたのだ。そして後藤老人から温泉発見の立役者である直斗にこんな提案がされる。温泉施設の名前を決める事になって、
「惚れてる女性の名前とか、つけてみい。絶対、ビビリあがるぞ」
 と言われるのだ。惚れてる女性、つまりヒロインであるママ3人のうちの誰かだ。つまるところこれは「温泉に名前を付ける事で愛を告白する」というちょっと常識外れなプロポーズといえる。ちなみにこの温泉施設、水着着用の混浴だ。意中のママと温泉デートをする事が出来るのだが、ここで何枚かCGが入る。物によってはエロシーンと呼んでも差し支えないようなものだ。

原作よりPS版の方がデカい香央里
公衆浴場でイチャイチャすな

 上記の2枚は原作のエロシーンに水着を着せたものである(正確には微妙に異なっているのだが)。温泉デートがカットされたエロシーンの代わりを果たしている。

原作とPS版の差異、それ以外のあれやこれや

 原作とPS版の違いをいくつか挙げておきたいと思う。

  • 直斗の実の両親の描写の追加。幼い直斗が鶫と初めて会ったときの描写も追加された

  • 全体的なテキストのブラッシュアップ

  • キャラグラの変更(後述)

  • 香央里の私服が和服から洋服へ。美人過ぎるゆえ過去の職場で整形疑惑を受けた事もあった

  • EDが各ママの3種類のみに。ハーレムEDと4股EDは削除

  • マザコンであることを『直す』べきなのか迷う直斗

  • 幼なじみの少女の(一定の)キャラの掘り下げ

 さして特筆すべきものでもないが、最後の点だけは割と重要である。原作の幼なじみの少女はゲーム中を通して完全な恋の当て馬であり、自分の方を全く見ようとしない直斗に対して幾度もアタックを繰り返し、最終的には手ひどく振られ直すというあまりにもあまりな扱いを受けていた。
 PS版では台詞が増えており、鶫ルートでは直斗に対して辛辣な言葉を浴びせている。
「自分の傷が痛むからってお母さんを束縛して、一生迷惑かけてなよ! 直斗くん、それじゃあどんな女子とも付き合えないし、家を出る事も出来ないじゃん。私、やだよ。そんな男の人」
 こう言われるに至ったきっかけは礼太郎のお節介で、「まともな恋愛をしているうちにマザコンが直るかも知れないから」と言われて迷った末に幼なじみの少女と付き合った直斗が、やっぱり鶫が好きなので無理だったと告白しての返しだ。至極当然の説教である。これだけやるなら名前と立ち絵くらい用意してあげればよかったのに。

 EDに関してはどのママも原作と同じような流れ、同じような内容となっている。ただ他の二人と違い、鶫だけは原作に比べて多少身持ちが堅く、すぐに絆される訳ではなかった。この辺は上手い改変がされている。
 香央里EDだと香央里の両親が勧めるお見合いを蹴って直斗と結婚。鶫EDだとすぐに結婚というわけにはいかないものの、二人揃って台所に立って「新婚さんみたいだね」で終わり。そして問題なのが紅音EDなのだが。

問題の紅音ED

 礼太郎に誘われて宮崎家に泊まりに行った直斗が紅音と関係を持ち、子供が出来てしまうのだ。ここも原作と全く同じ展開だ。

画像のテキスト、上から3番目と4番目の間で原作だとエロシーンが挟まる。
PS版は描写がカットされただけでやる事はやっていた。

 紅音の夫は男性不妊で、礼太郎を授かったのも幸運によるものだった。礼太郎が「弟か妹が欲しい」と言っていたので渡りに船とばかりに不貞の子を育てる方向で話が進む。直斗が礼太郎に「紅音さんとの間に子供が出来た」と伝えても礼太郎は怒るでもなく、「そうなんだ、俺に妹か弟が出来るんだラッキー」くらいの態度を取る。ちなみに旦那には知らせないでおく方向で話がまとまって、最後はお腹の大きくなった紅音のCGでED。主人公がヒロインに托卵させる。PCで出ているエロゲーなら許されるが、これはニンテンドーSwitchで出ているゲームである。
 見ているこっちは「?」だ。最初に言った通り、ペタジーニも真っ青になる。友達が自分の母親を妊娠させたと聞いて「そうなんだ」で済ませられるだろうか。直斗はことに及ぶ前に「紅音さんの家庭を壊すつもりは無いんです」と言っていたが、とっくのとうに宮崎家は壊れていたのではないかと思ってしまう。原作のハーレムEDでまるで宮崎家を捨てたかのような態度をとる紅音と相まって、意図しないホラー感が出てきている。

グラフィックの差異

 今作も宝石の姫騎士と同じように、steam版の商品紹介には
>The original illustration is loaded and the illustration is generated by AI.
(オリジナルイラストを読み込み、AIがイラストを生成します。)
 とある。原作とPS版の同じシーンのCGを並べてみた。

原作
PS版

 この2枚は鶫が料理をするシーンのCGだ。正直これなら原作版でもよかったのではないかと思う。原作の方は鶫が左薬指に指輪をしており、未亡人ではあるが人妻、つまりママというアピールになっている。しかしPS版では指輪が消えてしまっている。意図がよく分からない。

反省と謝罪

 前回あれだけ大見得を切って「設定自体をいじくってシナリオそのものを変えてしまう」作品について語る、と言ってしまったが、出てきたのはこの作品であった。これはひとえに私の確認不足であり、サイバーステップ及びぽかぽかママ恋温泉の開発スタッフには一切の非はない
 前編の記事を書いた時点で筆降ろしママのコンプは終わっていたのだが、そこからさらにぽかぽかママ恋温泉の検証が出来ていなかったのが原因である。「あらすじ見る限り全然別物なんだから、宿主ガードマンみたいに魔改造してるんだろうな」という思い込みがあったためだ。私にはゲームに対する真摯さ、検証に対する真剣が足りていなかった。今後このようなことを二度と起こさないよう、猛省することしきりである。

終わりに

 今回ではあまり多くは語れなかったが、おおるりしん氏のものと思われる独特のテキストは今作でも随所に見られた。スーパーでの買い物中に精肉コーナーを通ったときの、
「スーパーの肉売り場には、いつも少しだけグロテスクの残り香がある。俺はなんだかそれが好きだった。綺麗にされてしまった現代の中で、ほのかに自然のにおいがあるからだ」
 とか、振ったにも関わらず何度もアタックを繰り返してくる幼なじみの少女に対して、
「どうしてかな、彼女は他人とも思えない。まるで俺の心の弱さを、鏡に映したものを見ている気がして、俺も苦しい。俺が年上の女性達に振られたとして、どう振られたら傷つくか…やめよう」とか。
 たまに見せる悲壮感と、どこか人ごとのような無機質なテキスト。こういうものを見る度、おおるりしん氏のテイスト全開の作品を遊んでみたいと思うのだった。


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