さよならは突然、たばこの煙みたいに訪れる。


さよならは突然やってくるもので。それ以上でもそれ以下でもない、ただ目の前にあるのは人がいた形跡だけで、ぽっかりとその場所だけ霞んで見える。最近私の住む街では霧が立ち込めるときがある、梅雨のときなんて、それはもう、現実味もなくなるほど、異世界のような、歯にものが挟まって取れないときの、異物のような違和感が心を揺らしていく。今日は寒くて鼻がつん、と小突かれた感覚になる程、澄んだ冬の景色がみえるけれど、それなのに視界が曇ってみえるのは、コンタクトよりも、古臭くなっていくデザインの眼鏡みたいに、いつまでも傍にいてくれた君がいないせいだろう。新しいものに取り替える気もなく。妙に愛着が湧いてしまうその笑顔が私を救ってくれていた事実に、今更気付くなんてもう遅いなんてね。よくある話じゃないか、それでも痛くて堪らない。ぼーっと煙草に火を付けて煙に思い出を重ねながら吹き消していく。さようなら、私のものじゃない人よ。さようなら、ここにはいない人よ。誰のものにも、もうなれない君を。

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