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Galería Garcíaーガレリア・ガルシアー 後書き

どうも作者のA.T.JANPIです。
この度は標題の作品をご覧頂きありがとうございます。
前作の短編「拾いブタ」に引き続いて後書きを書くことにしました。
読了した方を対象に、ネタバレ全開で参りますのでご容赦くださいませ。
また、引くほど長いです(2万字強)。一つの作品を考える時はこれくらい考えてるんですということで…。

↓読んでない方は以下からどうぞ

○きっかけ

 いつもならここで「〇〇な世界を描いてみたくて〜」とか「〇〇が〇〇だったらと考えて〜」みたいなことを言うのですが、今回は完全に私的な理由で…二つ。


①個人的に(自室だけで)描いている漫画を一部分だけでも放出したい
②メカバレ(人のように振る舞っている機械が機械だとバレるシチュエーション)描きたい


が主な原動力になっています。邪ァ!

以下、それぞれ説明をば。
 ①について。リアル中学生だった頃からノートやコピー用紙にダラダラと描いていた作品がありまして、間ポツポツ空けてはいるのですが未だに地味に描き続けておりまして…その量前編120話の後編150話超(自分の中で絶賛連載中)の大ボリューム。これほどの量を今更スキャンしたり修正したりするのも面倒臭…大変手間がかかるということに加え、リアル中学生の頃から描いているともなればまあ、拙い画力だったり、設定の破綻や盛りすぎなどもあり、黒歴史までは行かずとも、当時の作品ファン(いるんですよ!!!)や親密な友人くらいにしか見せられないと判断して、諸SNSには上げておりません(実は昔個人サイトは作ってたんですけど…辞めました)。しかし、その後歳と経験を重ねて大学生くらいのとき、作中の散らばる設定をほぼ矛盾なくまとめられる新しい設定を思いつきました。その新しい設定を説明するために必要な要素を詰め込み、作中時間よりも前の時間軸で描いた作品です。要するに「長たらしい自創作の前日譚」のつもりで描きました。あまりに長い作品だと、人生で全部を発表しきれないような気がしてしまうので、前日譚でもなんでも部分的に出しておきたいという気持ちが強かったのですね。読み切りにするにあたり情報をかなり絞り、世に殆ど出していない作品なので元となった自創作(以下「元作品」とします)がわからない人にもわかるように描いたのですが、まあそれでも70ページいってしまいましたね…(笑)
以前描いた「本ノムシ」(https://www.pixiv.net/artworks/40624989) も、長い話の前日譚を出力したという意味ではこれと似たパターンです。こっちはだいぶ短く纏まったのですが、年月の差…?


 ②について。元作品をベースに話を考えていくにつれ「人と全く見分けのつかないアンドロイドが登場し、人を助ける」という構成になっていきました。アンドロイドが出るならばアンドロイドにしかできないことをしたくなりまして、それがメカバレですね。メカバレにも様々なシチュエーションがあるかと思いますが、「殺したと思ったが立ち上がって反撃食らった」というシーンに落ち着きました。メカバレのシーンを最大限盛り上がるシーンにするために設定などを逆算的に決めている点もあります。こちらは詳しくはキャラクター説明で話すことにします。
 話がごちゃごちゃしてきましたが、2年ぶりの短編を描くにあたり、自分の原点的なキャラクター達に真剣に向き合ったので、描くの楽しかったです(笑)

○テーマ


 きっかけはそんなもんなんですけど、一作品のテーマとして考えたのが「心のありか」です。
 作中に登場するShape-Yは、「絵を自発的に描くことで人格を発露させるAI」として描いています。「絵を自発的に描く」ことをAIの中心に据えたのは、所謂モラベックのパラドックスで困難とされていることの代表的な一つが「幼児(○歳児)の描くような絵を描くこと」だからです。単に絵を描く、真似る、本人が描きそうなものを描くということであれば現代のAIでも既に実現されており、AIが描いた絵が落札されたという話も聞きます。AIが描いた作品にどれくらい価値を置くかは人それぞれかと思います。
 私は、作品や作り手により多少差こそあれ、「作品には当人の経験や心が入り込むもの」と考えています(ただし鑑賞時には作者と作品は切り離すタイプです)。そのため、絵を描くという行為が自発的に行えるAIには心が宿っていると考え、今作のShape-Y達には何ら人間と変わらない挙動をしてもらいました。最終的に人含め「心とは何であり、どこにあるのか」というアレギオンじゃないですがすごく根源的な、哲学的な問いに行きつきました。これは学問や感性によって答えは異なるものかと思いますが、本作では人とAIに共通するものとして「記憶」という結論を出すことにしています。

○世界観

・舞台
 時代設定は、今から少し未来を想定しています。具体的な年数はわかりませんが、アンドロイドが普及できるほど技術革新と、一般家庭でも買えるほどの価格破壊が起きた頃ですね。作者的には早くて60〜70年後かな?と思っています。
 場所設定は、日本語では明記していないのですが(実は英語のアナウンスでは言っていたりもするのですが)、エルプラット空港があり、サンツ中央駅があり、サグラダファミリアがある都市といったらまあ、スペインのバルセロナしかないですね。実際にカタルーニャ州の州都ということで、作中では「州都」と呼ばせて貰っています。今後現実のカタルーニャ州がどのような立ち位置になるのかわからないので、上記の時間軸でどうとでも転べるよう、ロボット管理は(国ではなく)自治州単位で行なっていることにしています。また、その程度の時間経過では、現実でも古い建築の多いヨーロッパの街風景はそう変わらんだろうという見込みからです。人と同等の重量の軽量なアンドロイドが普及すれば、機械のための大きな改修工事をせずに、既存の施設をほぼ使えるというメリットがありますので、極端にSFチックにはしませんでした。
 ガロ達が住んでいるのは、サグラダファミリアの南西側の公園の目の前のシシリア通りを想定しています。現実では飲食店が並び、比喩でもなんでもなくサグラダファミリアが目の前に見える絶景ポイントです。ガロ(P)の今作の職場であるサンツ駅から真っ直ぐプルベンサ通りを歩いて40分ほどの位置ですね。バルセロナにはガウディの作品はサグラダファミリアだけでなく、カサ・ミラやカサ・バトリョなどの有名どころがありますが、この職場の行き帰りの道の途中にちょうどカサ・ミラがあります。少し外れた位置にカサ・バトリョもあります。長い道をわざわざガウディの作品見たさに歩いていたのがわかるかと思います。

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(実はカラ・ミラの前)

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(バルセロナの地図を大体反転した図になっている)

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(窓や屋上からサグラダファミリアがはっきり見える位置。なおほぼ北向きなので日当たりは悪いと思われます)


 サグラダファミリアの北東の方には、背の高い円筒状のオフィスビルがあります。「トーレ・アグバール」と呼ばれているようですね。今作では、富豪アゼリア家がこれを買い取り、「アゼリアタワーホール」として改修したという設定にしています。
 


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(元ネタはトーレ・アグバールという実在するビル)

だから、今回の背景選手は全体的に難易度高めでした。前作から2年近く開けたからってハッスルし過ぎましたね。何回描いてもサグラダファミリアが強敵すぎました。ちなみに、これだけ描いたのに作者はスペイン未踏なので、諸々落ち着いた後には渡西したいですね…。


・テクノロジー
 舞台のスペインに限らず、先進国は大体機械化しているイメージです。アメリカや中国のような技術先進国、日本のように災害が多く街並みが変わりやすい国では、劇的に景観が変わっているかもしれませんが、ヨーロッパでは前述のようにあまり変わっていないと考えています。建物や街のマクロな視点では変化は小さい一方、家庭・部屋・指先のミクロな、生活に根差した単位では大きな変化をしています。例えば、作中ガロ(P)やサイモンなどが身につけている腕時計型の非接触型デバイスはスマートウォッチの延長線上のような商品です。また、ガロ(P)に似顔絵を頼む女の子がいますが、隣に連れているのは成人男性型アンドロイドです(後述のセリフで判別可能)。そして作中科学博覧会が開かれるほどに、様々な分野(作中では建設工学、宇宙工学など)で技術革新が日進月歩で、一般市民にもそれが身近です。
 州都では「人も機械も入州時に管理IDを登録する」決まりがあり、住民であるガロ達も一時滞在者であるアレギオン達も例外はありません。描写はしませんでしたがIDを管理するICチップも配布されます。アレギオンとパスティーの会話は、「少し前はこうじゃなかった(もう少し緩かった)のに」と昔を懐かしんでいる様子です。このICチップで個人・個機械を識別しており、人の場合は個人情報、機械の場合は用途・持ち主の情報・実行プログラム、そして双方とも位置情報と健康状態を発する仕組みです。入州時、生体認証によって人か機械かを判別し、管理IDとICチップが付与されるため、ガロ(P)はこれをガルシアの心臓と脳でパスした後に、Shape-Y特権で人と機械の情報を入れ替えて捏造したわけです。ガルシアは入州時、「ガロ=ヴォーカム」の論文上の通名(ガロは一般的には男性名)で入っているため、ガロ(P)が利用してもバレなかったのですね(個人情報に性別は含まれていない想定です)。アレギオンはこの仕組みに騙されたわけですが、彼もまたこの仕組みを逆手に取り、システムに感知されないようアゼリアに殺害命令を出しています。人の場合は思考にまで識別が及ばないため、人格を書き換えられた人間の行動は自発的な行動とみなされます。機械の場合は用途(機能)とプログラムが登録されており、用途を超える行動は起こせませんが、この世界観ではまだShape-Yレベルの自律思考AIは一般普及していないので、登録項目が「(一般家庭用非自律思考)アンドロイド」か「スーパーコンピューター」「実験用専門機材」などしかないので、アゼリアが銃を用いて人を殺害することは完全に想定されていません(極端な話、「スパコンの上に銃が置いてある」という状況として認識され、事故で暴発する可能性が低い限りは無害な状態と判断される。それ以前に銃を入手するのは当然犯罪だが、Shape-Yの機能で作り本体から分離したものであればそもそも銃と認識すらされない)。ちなみに、ガロ(P)は人間としてのICチップを所有しており、アゼリアに重機で貫かれた際にそれも破損しているため、システム的には「ガロ=ヴォーカム」は死亡扱いになっています(パスティーが頑張ってインフラメンテナンス用アンドロイドとして再捏造していますが)。死亡などの重大な異常はシステムによって通報される仕組みなので、(何故か履歴は消滅するので証拠不十分で不起訴だとは思いますが)アレギオンは実は殺人罪に問われた可能性もあります。最後、ガルシアはアンドロイド扱いのままなのもそういうわけなのですが、正直彼女にはもうあまり関係ないですね。

・機械に関わる社会の設定(+ちょっと考察)
 今から60〜70年が経ったとして、「どれくらい機械やロボット類が社会に影響を与えているか」を脳内でシミュレートした作品でもあります。先に述べたアンドロイドですが、「人型で歩行などの人の運動・音声の理解を無難に行う」といったレベルを想定しておりまして、ガロ達Shape-Yのような「高度な自律思考を行い、感情の発露や命令外の言動を取る」、ドラえもんに相当するレベルの機体やAIは一般にはまだ浸透しておらず、研究段階であるとしています。正直、技術的にはこの年数で十分再現できるのではと、作者は最近の技術革新の速度の体感で考えていますが(根拠はありません)、おそらく法整備や人間の倫理的問題、その合意形成などに大幅に時間が取られるのではと思います。本作の時間軸は、そんな「技術は追いついてるけど人間社会が追いついてない」機械社会への過渡期を想定しています。
 一方で、この世界は機械とは別種の社会問題、「人口減少」も抱えています。世界的に発展が進み、人間の長寿命化などがもたらされましたが、働き手の絶対数が減り、今まで回っていた社会が回らなくなっていています。その労働力の一部を担うのがアンドロイドなどの機械勢なのですが、機械を開発・維持する技術者も少なくなればそれも追いつかなくなります。その問題に異なる切り口で挑もうとしているのが、今回登場した人騒がせな博士二人なのですね。今作はテーマ以外にも、この機械と人口減少を巡る政治的・倫理的な論争も描いたつもりです。
 以下、二人の主義主張について少し説明いたします。
 一つがアレギオンの案で、「人口減少するならば、せめて生きている人間の力を最大限引き出して生産性を維持しよう」というものです。作中あたかも非人道的な描き方をしましたけれども(実際やったら憲法とか色々なものには引っかかると思いますが)、この世界では彼の主張するように、仮に腕がもげても再生ないし義手を問題なく取り付けることが可能で、究極的には「未解明の病気を持った人」か「社会に出るための教育を受け終えていない人」以外は老人だろうが障害を持っていようが健康に働けてしまう社会なのです。そこで最後にネックになるのが本人の意思や道徳の問題です。働きたくない人は当然働きませんし、犯罪を起こすような、精神に問題を抱えている人も当然います。それらをShape-Y技術を応用して(強引に)矯正する実験を、大々的に行おうとしたのが今回の騒動です。彼がこの考えに行き着いた過程には、だいぶ彼のエゴが入り込んでいます(彼の紹介項目で詳述)。しかし、言うまでもありませんが、経緯がどうあれ人から一方的に思考の自由を奪うのは人権侵害です(相手が機械の場合は、この世界の基準では器物破損などに当たります)。これを実現まで持っていこうとしたら多く反発があがるでしょう。
 一つがガルシアの案で、「人口減少するならば、機械を人としてカウントし、労働人口の穴埋めを行おう」というものです。彼女はこれをさらに拡張し、「機械に人格(心)を認め、人と共同体を築いていく」、つまりは「機械にも人権を与えよう」と考えています。その先に生まれたのがShape-Y、人格を持ったアンドロイドという訳です。上手くいけば、行き着く先は人間が働かなくて済み、機械と友達や家族(制度上も)になれるというまさにドラえもんの未来世界のような夢のある話ですが、(主人公側として描いた作者が言うのもなんなのですけども)アレギオン案よりも前途多難な道だと思っております。と言いますのも、今作では心という一点を除き機械と人に最早差はありません。なので、この世界で「人だけが行える職業」として生き残っているのは、それこそ芸術や娯楽などの合理性が入りにくい業界や、人の対面そのものに価値を生み出す業界(観光や教育)などが考えられます。機械に心や人権を搭載するということは、この職業聖域にも機械との競合を取り入れるということであり、多数の人が求人から溢れる可能性があり、「機械」という新しい人種を認めることによる、過渡期においては新しい人権問題(差別や労働格差)を生みかねない危険性も孕んでいます。そして今作でガロ(P)が実行したように、管理のためのセキュリティを事実上無効にする機械など、サイバー犯罪もより多様化することでしょう。
 どちらに振り切れても現代価値観では重大な人権問題や新しい社会問題を引き起こすので、この両案のどちらがいいかと言われればどっちもどっちです。内容如何を無視すれば、コスト面での実現性はアレギオン案の方が高いかと思いますが、社会的には人権は制限されるよりも、広がっていくガルシア案の方が支持されやすいのではと思っています。ただし、もしかしたら将来、これを打開するような第三の道が技術によって開かれる可能性はありますけどね。


○キャラクターについて

 セリフのあるネームドキャラクターが今作は約5人もいますね。あまりメインキャラを増やしすぎると本編が長くなるのは、前作から続く反省ポイントですね。また、今回は諸事情で名前も多いので、混乱させてしまっていたらごめんなさい。私も説明に際して非常に紛らわしいですが自分のせいですね。
 ちなみに今作の名前は法則性はありません。といいますのも、元作品では「意味は考えずに完全音感で名付ける」という自分ルールで名付けを行っており、当作の登場人物もそれを引き継いでいるためです。言葉に意味があった場合は、キャラがそれに従った国籍になります。発音がなんとなくそれっぽいと感じた場合もその国籍になるという適当さです(中学生クオリティ)。一方で、直感的に名付けているためか、覚えやすいとの評を頂いたこともあります(笑)
 なお、きっかけで話しました通り、当作は自分の中で連載中の漫画の前日譚に相当しますので、個人的なお遊びで背景モブの一部がネームドですがキリがないので紹介は割愛します。その内作者が気まぐれで紹介するかもしれませんが。

・ガルシア=ヴォーカム/ガロ博士/お袋

ガルシア

(←人間体 義体→)

主人公です。実は主人公でした。 ガルシアは今作ネームドの中で1番新しいキャラなのですが、上記の「音感だけで名付ける」ことを踏襲しましたため、「なんとなくスペイン人の女性名っぽい音」で名付けた背景があります(「ヴォーカム」姓は元々いたガルファンドから貰ったものです)。調べてみたところ「ガルシア」は、むしろ地名か「佐藤さん」「スミスさん」レベルのありふれた苗字らしく、名前としてはあまり相応しくないかもしれませんが、細かいことはええねんの精神で貫きました。タイトルが韻踏めるんですもの(元作品も韻踏んだタイトル)。あと苗字の「ヴォーカム」、これは「Vocam」の綴りだとラテン語で「call」に相当する単語のようですね。偶然ですが、今作には名前を呼ぶという要素がありますので、ハマってる名前だと思います。
 容姿はかつてピンクゴールドの長髪ストレートヘアーに補聴器(市販品→息子のお手製)、白衣という研究者然とした成人女性でした。専門分野はAI・ロボット工学で、情報工学にも精通しているため、プログラミングやハッキングなども得意です。ウィルスを仕込んだのはガロ(P)を無理やりに寝かしつけた(スリープ状態にした)時です。義体となってからは、髪の色と補聴器(ガロの計らいでそのまま残した)をそのままに、体を一回り小さくし、球体関節で構成し、メカメカした溶接跡やリベットを装飾した姿をしています。爆発事故前後で共通してサイボーグということですね。唯一の生身人間パーツの脳周りと心臓周りは強固な外装と緩衝材、人口羊水で覆われています。これらが正常に動くように、水分や血液などの循環が欠かせないため、ガロは彼女に電力の他にこれらも取り替える作業を毎日しています。ちなみに彼女の研究分野と息子への態度からして、元から自分の体を機械に置き換えることにはあまり抵抗がないタイプです。
 性格は、前向きで空想家。ユーモアのある正直者で、アレギオンとブラックジョークを飛ばしあったりしています。責任感も強く、今作の騒動は自分にも非があると思ってもいるため、アレギオンを止めに行きます。ガロ(P)評の「芸術家気質」はその通りで、研究時には意外とマッドなところがあり、Shape-Yの構築実験に息子を堂々と使っていますが、その一方で息子がまだ小学生で小さいため、母親として将来を案じることもあります。家族を愛しており、ガルファンドとPを息子として、彼らから貰ったものは(それがどんなに前衛的でも)ずっと大切にし、彼らのことを理解するように努めます。
 ガルファンドの項で詳述するつもりですが、ガルファンド(ガロ)をいかに人間らしく見せるかというコンセプトも少なからずあったため、前半はあまり喋らない、ロボット然とした印象を受けるようにあえてしています。ロボット然としているのは、息子を失う事故で心が壊れているからなのですが、作中少しずつ感情が回復し、アレギオンの野望を止めるべく知識や記憶をフル稼働させ、徐々に強い意思を持つ様子を劇的に描写できるようにするためでもあります。彼女が人間(≒ガロがアンドロイド)ということは基本的には伏せて描写しますが、一部の読者が気づけるようなフックは用意したつもりです。以下が挙げられます。

・上述の彼女が徐々に意思を持つようになる展開
・時々会話の主導権を握る
・何故か生前(?)から付けている謎の補聴器
・写真と目の色が異なる二人
・「こんな体は嫌だったか?」と体だけ作ったことを示唆するガロのセリフ
・回想でガルシアが手に、吹き飛ばされた息子の手を持っている
・「メンテして」(直喩)のガルシアのセリフ
・何故か急に動作が大人しくなるガロ(電源ボタンを操作されている描写)
・夢を見る展開(夢を見たのはガルシア)
・セリフの吹き出しの形状とフォント

※今回、アンチック体=生身の人間が発する(ように聴こえる)音声、丸ゴシック体=機械的な音声、フリーハンドの吹き出し=人間のセリフ、八角形の吹き出し=アンドロイドや機械アナウンスのセリフ、楕円もしくは凹形図形の吹き出し=Shape-Yのセリフ、と明確にルール付けを行なって区別している。ガロも声を発しない思考セリフは丸ゴシック体。

セリフ


・(番外)作者の傾向によるメタ読み 
※最近の作者は短編主人公を男女交互に据えている。今回は女性主人公の番だった

 など…。アンケート取ったら騙されたのは3分の2くらいですかね…?皆様が気になったのはどの辺りでしたか?
 爆発事故後の詳細ですが、まず心が壊れてしまいます。彼女の症状としては、目の前で死んだ息子の亡霊を追い続けるというものでした。Pが体を構築し彼女を助けたのだと知らず、顔の似(せ)ているPに息子を重ねる行為を続けましたが、感情が回復していくにつれ、本来ならそこにいない存在(息子のガルファンド)が、記憶を引き継いだ別の存在(P)として自分を守護しているという現状に気づいていきます。Pのことを「ガルファンド」と引き金を引く時に呼んだのは、彼を命名する以上に、ろくに弔いも出来なかった自分にずっと付き合っていた息子の亡霊に感謝を告げ、一人で立ち直ろうとする意味合いが強いです。最後、ガルファンドが出てこないことを「スランプ」と表現しますが、彼女は自分の体内にサーバーがあって、その中に彼がいることにはおそらく気づいており、あくまで彼の自由意思を尊重し、彼の芸術家としてのあり方も否定しない彼女の姿勢を表現したつもりです。この別れ方には賛否あるかと思いますが、私が考えた彼ら親子の形はこれが最も「らしい」ものです。
 ところで、彼女は上述の通り機械にも人格を与え人と同等に扱おうとする思想を持っており、人間の不完全性を認め、機械でそれを補おうとしており、アレギオンとは逆の立ち位置にいます。アレギオンの心理学を取り入れなければShape-Yに至らず、アレギオンもまたAI研究に触れなければ、完全な人間を探る手立てを見いだせなかったので、彼女の言う通りに見事なまでに「歩み寄ろうとした結果すれ違って」います。アレギオンへの「完全な人間」に対する反駁として、ガルファンド(ガロ)が好きだった芸術家の作品を挙げます。特に「未完成」を象徴するサグラダファミリアへの思い入れは親子ともに強いものです。しかし、皮肉なことに、この世界のサグラダファミリアはもう完成しているのですよね(未完成期間の方がまだ長いため、諺的な未完成の概念に昇華している可能性はあるものの)。これはある意味ガロ(P)の結末を暗示するものでもあります。

・P(プロトタイプ)/ガロ(自称)/ガルファンド=ヴォーカム

ガルファンド

(大きい方)

子ガル

(小さい方)

 事実上主人公として動いてた彼ですね。名前欄多くてすみません。しかも「ガロ」はガルシアの元ペンネームで、「ガルファンド」も実際二人(三人)で名前共有してるのですからややこしいですね。
 キャラとしては7〜8年くらい前からいました。元から芸術家・建築家という設定で、確か最初は情熱的な性格を想定していたため、建築と情熱から連想して深く考えずにスペイン人にした記憶があります。結果的に南欧人男性に多い(偏見)マザコン気質が自然に加えられたのでよかったと思います。「ガロ」の略称は、呼びやすく「ガルファンド」をなんとなく縮めた風に聞こえるスペイン人男性名として選びました。ただ、構想時期に某1年以上上映してる映画の主人公の名前と駄々被ってしまいましたね…(笑)
 アンドロイドの彼は、金髪碧眼の成人男性、身長は180〜5くらいで、人間のガルファンドをそのまま成長させたような容姿にしています。人間ガルファンドとは、心身の成長の他に、目の色や左耳のピアス(実はこれ電源ボタンで色が逐一変わるんですけど)で見分けられます。性格は通常は兄貴肌でフランクな性格、絵に関しては完璧主義者でナルシストな面を持ちます。そして母親と同じく家族思いで、母親と互い(ガルファンドとP)を大切に思っています。好きな三人の芸術家の作品傾向(なかなか完成しない超有機的な建築、複数の見方を持つ絵、現実と矛盾したり超越したりする絵)を見るに、彼は「(広い意味で)人を騙す形」を好みます。これらは人間ガルファンドを学習した結果なので、人間ガルファンドも同じです。最古のShape-Yのため、最も成熟した心を持ちますが、実体化したのは最後なので社会に馴染むには若干時間がかかりました。
 前述通り、この話は彼をいかに効果的にメカバレさせるかで構築している節があります。キャラとしては彼の方が先にいましたので、


彼をメインに話を広げよう

彼をメカバレさせたい

メカバレさせるまで人間と思わせておきたい

人間と思わせやすくするため機械の側に置きたい

じゃあいっそ機械に見える人物を人間ってことに立場を逆にしてミスリードしよう

 という流れで決まっていきました。なので作者としては、最初の1ページ目で(主に漫画を読み慣れている読者に対して)思い描いて欲しい背景が「死んだ母親を少女のアンドロイドとして復活させた青年(あからさまな昔の写真)(あからさまにロボットな少女の頭部)(「お袋」一言で関係性を理解させる)」でした。前述通り、そうではないと仄めかす要素も設置はしましたけれども。「ヴィンテージや古いものが好きだから、レトロなロボットのデザインにした」というのは少し後付けです。ガウディが好き設定は既にあったので後付け感弱いですが。
 メカバレしてからは真主人公のガルシアと入れ替わるようにヒロイン的なポジションになります。そして「せっかくアンドロイドなんだから人間にはできないことを〜」と、派手にぶっ壊されたり、過去覗かれたり、データ消されたり復活したりすることになりました。いやごめんよガロ。彼の回想(データ再生)はしっかりとガルシアと区別してあって、横線が入っているものは彼の記憶の部分です。
 主テーマの心の方でもきちんと役割があります。人間ガルファンドとガルシアの下半身が爆発で吹き飛ばされた瞬間に生まれた彼のアイデンティティは「母を守ること」。爆風の中実体化し、どうにか逃げ母を生存させるも、母は息子を目の前で失い心神喪失状態。彼は母の心を回復(元に戻す)」ことを最終目標にし、科博の一件でそれは完遂されます。最初のへにゃ笑いは、ただのマザコンに擬態(?)していますが、「喜び」の感情がほぼ完治したためです。ガルシアがアレギオンに引き金を引く時に笑ったのも、「悲しみ」の感情がほぼ完治したためです。芸術家として、彼はガルシアの心を一つの作品とみなしています。
 更に前日譚を考えるならば、感情を失った母との逃避行になるでしょう。彼は母に感情を思い出してもらうためにとにかく色んな場所を連れ回します。ガルシアの回想(1コマだけですが)でオランダのキンデルダイクには行った描写はしてたりしますが、これは無意味にオランダを選んだわけではなく、オランダはエッシャーの出身地であり美術館(アムステルダム)などもある場所だからです。これは彼とガルシアの持つ共通の記憶である、息子のガルファンドの好きなものを巡っているのですね。わざわざ変な形の補聴器を残すのも、最終的にバルセロナに行くのも、同じ理由です。ちなみに、期間として想定しているのは、「ガロ(P)の姿が、人間ガルファンドが成長した姿と無難に思える期間」なので、5〜20年くらいです。
 最後の彼は、最早同じ記憶を有している人物と言えなくなったという理由から電脳空間(ガルシアの中のサーバー)に引きこもります。理由はそれだけでなく、彼は彼自身を「人間ガルファンドの亡霊」と評しており、心が完全回復させ以前のガルシアに戻し、自身に課した役割を終えたからでもあります。ガルシアの心身も自身の体も作品として考えているからこそ、それらに相応しい完璧なあり方を彼なりに通したのです。最後に顔を見せずフィナンシェ(熊の縫いぐるみ)を端末としてわざわざ操作したのは、顔を見せないためですね。いくら完璧主義者でも心のあり方には逆えず、泣き顔を見せまいとする姿は…男の子ですね。

・F(ファースト)/パスティーシュ=ロアール

パスティー上着

 Shape-YでPの後継機です。おそらく今作ネームドの中では1番古いキャラですね。元作品では「パスティッシュ」と発音しているのですが、雰囲気を変えるために伸ばす方で呼んでみました。あだ名はどちらでも「パスティー」です。彼女の心の元となった「デッサン博士」など、彼女周囲はなんとなく響きの良い美術関係の名称で固まっていますね。ちなみに「パスティーシュ」は「作品の模倣・混成」が意味するところです。名付けた当初は全く考えもしませんでしたが、記憶の継ぎ接ぎでできたという意味においてハマりすぎでは。
 背中まである茶髪に大きな口と目を持った少女の姿をし、天真爛漫、いたずら好きで我が強い自由人です。作中の立ち回りはいたずら好きが高じた部分です。ボクっ娘は設定当初からです。共感性が高く、相手の痛みを自分の中にシミュレートできます(ガロのスプラッタで機械なのに吐きそうな顔してる)。また描写はしなかったものの(監視映像を捏造した程度)、彼女もShape-Yなのでものつくりが好きです。アレギオンとは致命的に性格が合わず、むしろ人間の彼よりも人間的な性格をしている点において対照的ですね。これらはデッサン博士が思い描く「欲しかった家族(子)」を象徴するもので、ガロやアゼリアと違って「本人(その成長後も含む)」を投影した人格ではないため、幼い見た目のアゼリアよりも飛んだり跳ねたり元気いっぱいな印象がより強く出ています。ただしデッサン博士はもう高齢なので、見た目年齢だけでは親子というよりは祖父と孫です。ガロ(P)と同様、電源ボタンが右手の甲に付いており(位置がPFS全員違うのは全員各々設計しているからです)、拘束具(アレギオンがスイッチを押すと電撃が出る上着)をしている時はアレギオンなどが不意に触れないよう手袋をして隠しています。拘束具は自分の意思で脱ぐことはできない仕組みなのですが、着崩すところに性格が出ていますね。
 このような性格の彼女が敵サイドにいると、アレギオンが孤立してしまうような気もしますが、彼女はアレギオンの人間性を引き出す役割があります。非常に冷淡で機械的な彼の隣に彼女を置くとボケとツッコミのような空気のバランスが取れます。アレギオンが機械嫌いのため、彼女をぞんざいに扱いますが、彼女は彼の言葉に苛つきつつも軽く流すことができます。同じShape-Yでもガロ(P)やアゼリアならこうはいきません。一見無駄なやり取りに見える場面も、パスティーによって時々アレギオンを人間に戻すために入れています。共感性の高さゆえにアレギオンをあまり刺激しないやり方が採れるので、まともに世間話できていたのはむしろ彼女だけだったのでは…アレギオンは良くも悪くも機械の存在はちゃんと受け入れるべきという皮肉な結論に達しますね…。
 対アレギオンに限らず、彼女はその性格ゆえに全主要キャラを潤滑油的に結ぶ役割もあります。アレギオンに記憶を消されずにやり込められるのも彼女だけですが、ガロ達にアレギオンの来襲や内部データを伝えられるのも彼女だけですし、アゼリアが記憶を託させることができるのも彼女だけですし、ガルシアに内緒でデータと化したガロ(P)と会話できるのも彼女だけです。生前のガルファンドとも面識があるため、彼女は自己同一性に悩むガロ(P)の良き相談相手たり得るのです。めちゃくちゃおいしいじゃないか。
 彼女のサイドストーリーをば。彼女はShape-Yとしては2番目に生まれた存在ですが、実体化は一番乗りのため、人社会に紛れる術に最も長けています。なのでShape-Yの中では頼れる存在であり、実体化したPがガルシアを連れて最初に逃げたのは彼女のいたデッサン博士の拠点(ガルシアの研究室から若干の距離がある)で、Pの補修とガルシアの義体づくりを行うのもそこです。アレギオンはその後現場からPのデータが手に入らなかったことを怪しみ、Pの行方を追い始めます。デッサン博士の拠点は目をつけられる可能性がかなり高かったため、ほぼ同時にパスティーはPとガルシアの逃亡を支援します。彼女とデッサン博士も逃亡を図りますが、高齢のデッサン博士を連れての逃亡はやがて限界が生じることになります。デッサン博士を人質とされ、自身はアレギオンに近い位置で(後に改造される危険も伴いながら)監視され続けることになります。悲劇の割には飄々としていますけどね…。
 この話の後は、解放されたデッサン博士とガルシアの間を行ったり来たりしつつ、たまに引きこもったガルファンドと話をしてガルシアの独り立ちを見守る、という流れになるでしょう。忙しいけど彼女はきっと大丈夫。

・S(セカンド)/マコロン=アゼリア

マコロン署名

 Shape-YでFの後継機です。2番目に古いキャラですね。アゼリアは苗字で、マコロンって名前は出しませんでした。名付けた当初はお菓子の名前って認識してなかった記憶があります。フィナンシェという熊の縫いぐるみを手にしています。キャラデザ当時から縫いぐるみはセットでしたが、縫いぐるみの方は名付けたのがごく最近ですね。勿論フィーリングです。マカロンなら相方はフィナンシェかなって(適当)。
 容姿は10歳前後の少女で、亜麻色のおかっぱ(?)にセーラー服的なデザインの服を好んで着ます。彼女もまた、ガルファンドと同様にオリジナルの人間と名前を共有しておりますが、彼女の場合は姿も鏡写しで全く同じです。性格は、今作では彼女の意思で発したセリフが一つしかないので説明が難しいのですが、歳上のガロ(P)に対して容赦なくツッコミを入れられるようなサバサバした子で、お菓子の名前を付けられている割にはあまり甘い感じの子ではありません。富豪娘なので少し我儘かもしれません。彼女に関しては、最も新しいShape-Yであり、学習元の人間アゼリアも幼い子なので1番子供らしい思考はしています。そのため、アレギオンに上手いこと騙されてしまったのでしょう。彼女も登場時は拘束具をお行儀良く身につけています。電源ボタンは髪に隠れて見えるか見えないかくらいのうなじにあります。あっさりガルシアに押されて無力化しているように見えるかもしれませんが、押される瞬間にちゃんとユーザー認証をしているんですよね(ガロがフィナンシェを操る時も同様)。アレギオンもそこらへんの記憶は消せなかった模様です(作者ガバ)
 ただでさえ最新のShape-Y、科博に関連する機械全ての操作権限を持った彼女は暴力的な強さを誇りました。まず発電機をガン発動させ、機械室の空調換気設備を一切止め、展示用の機械の類は一切動作を停止させ、非常通報装置を停止させ、それらが終わったらパラシュートのフィナンシェを身につけてP(アレギオンの入手した改竄済みIDを基に感知)を見つけるべくパトロール。ちなみにガロ(P)とガルシアの作戦ですが、ガロ(P)の分析(反省)の通り、作中のアゼリアの関与が一切なければガロ(P)の犠牲もなくパスティーの協力を得てアレギオンを倒すことができます。うわ幼女強い。
 で、彼女の中身が描写できなかったその代わり、作者的に魅力だと思っているのはやはりなんといってもフィナンシェですね(笑)彼女のアクション≒フィナンシェのアクション。
 フィナンシェに関しては、「何で説明もなく変形してんだ」って思われるかもしれませんが、フィナンシェも分離できるだけでちゃんと彼女の一部なのです。Shape-YはPもFも「体の一部を変形させて何かを作る」描写をしていますが、彼らは小型簡易3Dプリンターを搭載しているためそれが可能となっています。フィナンシェはそれの延長です。実はこの辺にスペック差が如実に現れていたりします。

Shape-Yスペック2

(ガビガビ無骨のP、ニョロニョロ粘度のF、サラサラ繊維のS)


 アゼリアは、繊細な繊維状構造を印刷をできることから、自分と同じ素材を細く編んでフィナンシェを作り出しているのです。変形はそれを高速で解き高速で編み直す作業を経ています。パラシュート、ハンマー、縫いぐるみ以外にも変形形態考えてあったんですけどね…一つは銃形態。フィナンシェを変形させて利用する方がShape-Yである意義を果たせるかな、とも考えたのですが、そうなると、明らかに「自身の能力で殺害」したことになりますし、メカバレのシーンもアレギオンを撃つシーンもなんか可愛らしい銃になり、さすがにシリアスブレイクになるのでやめました…(笑)
 
・アレギオン=ムートー

アレギオン立ち絵

 Shape-Yの共同研究者にして今作のヒール役です。一身上(元作品)の都合でギリシャ人という設定です。さりげなく「敬虔」と言ったり、首から(白衣の下に)十字架ぶら下げてたりして、とてもそうは見えませんがギリシャ正教徒です。ガルファンドと同じくらいのタイミングで生まれたのですが、ガルファンドに比べてキャラを掴むのが難しかったですね。
 始終あまりジト目から表情の変わらない男性です。一応ガルシアよりは歳下を想定しています。専門は心理学や脳科学(根っこに哲学)のため、ロボットAI工学系の知識にはやや疎い傾向があり、組んだプログラムはガルシアに攻略される程度の脆弱性があります。その代わり傷心(読みはHeartもしくはHurt)の概念を提唱したり、脳構造の単純化をしたりなど、しっかりShape-Yの根幹構造設計に貢献しています。あまり私生活にこだわるタイプには見えませんが、タートルネックを着るがどうも好きなようです(楽だから?)。髪が長いのはおそらく神リスペクトです。髪型を変えるなどちゃんと管理はしています。
 機械社会でインカムすら長時間付けず、Shape-Yを人として扱わない大の機械嫌いですが、研究や仕事では向き合う姿勢は見せる、公私をはっきり分けるタイプです。機械嫌いで機械への当たりが強い点を除けば、彼の性格は真面目で冷淡、理性的、合理的な人間味のないものとして表現しています。遊びがないので、作者ながら普段何をしているか想像しにくいです。人間臭いアンドロイドのガロ(P)やパスティーと、心の死んだ人のガルシア、機械的な思考の人であるアレギオンは対照的な構造にしています。そんな彼が人間性を取り戻すのは機械に関連する話題に触れた時。機械と人間(特に自分)を同列に語られることは彼にとっての強力な「地雷」です。
 彼を悪役として狂わせる要因は大きく二つあります。一つはあまりにも理路整然とした無駄のない生活から、彼を不気味がった人に囲まれて育った過去です。賢く真面目な彼はその時周囲に報復することはなかったものの、彼を忌避する人間や似ているという機械について歪んだ思想を蓄積させていくことになります。それはやがて彼を心理学や脳科学といった学問へ駆り立て、多少の名が知れる程度には成果を残すことになります。そのため、AI研究でデッサン博士・ガロ(ガルシア)博士の研究に呼ばれますが、これこそが彼を徹底的に狂わせるもう一因となります。主研究員のガルシアと研究の目的などを話した際に彼女の思想を知ってしまったのでしょう。彼女の思想は、人にも機械にも寄り添えないアレギオンを決定的に社会的マイノリティーたらしめ、アイデンティティを傷つけ得るものです。目の前にShape-Yの成功例が複数あり、彼女の野望が夢物語ではなくなりつつある段階で、どうしても許せなくなってしまったのです。息子諸共爆弾で殺害する凶行に出ます(何か未来的な手段でなく爆弾というアナログな手段なのも彼らしいというか…)。その後は作中描写の通り、実体化したPに彼女を連れて逃げられ(彼はこれをガルシアを殺し損ね、Pを連れて逃げたと勘違いした)、逃避行する彼らを追いながら、協力者(洗脳者)を増やすため、派生研究であるテレパス研究にも勤しんでいたというわけです。他にも謎の拘束具も作っています。テレパス研究も科学博覧会で展示ができるほどに成長するわけで、改めて見てみると研究に関してはめちゃくちゃストイックですねこの人。二つのきっかけさえなければ、世に(いい意味で)名を馳せた科学者になれたかもしれませんね。
 かくして彼は世の機械と人間に対して抱くエゴを、人類を進化させる理想論の実現構想で巧みに覆い、今回の騒動を起こします。理想論が全く心にないものというわけでもなく、本気で実現を目指しているのがタチの悪いところです。騒動を簡単に経緯を説明すると以下です。


①「もう機械みたいと言われたくない(本音)」
 「完全な人格とは何か(建前)」
②「どうしたら機械と言われなくなるかAI研究に立ち会って思考(本音)」
 「AI研究を通して完全な人格を探ろう(建前)」
③「もういっそみんなで機械思考に寄ればいいじゃない!!(結論)」


 彼は悪役として振る舞い、実際人権侵害も堂々と行っていますが、人の力を心の底から信じている態度は本物で、入州からガロ(P)を捕らえるところまで、かなりの人の協力で成し遂げています。機械の力で攻めようとするガロ(P)達とは対照的で、この2組はお互いにお互いが考え得ない弱点を突いているのです。彼は人主体の社会を想定しているので、人格を縛るような制限は極力つくらず、一部の人間だけを(彼主観で)矯正しようという点でかなり譲歩してはいますが、行き着く先は予見できるものです。そのためには完全人格の完成は必須で、結局のところ、人を完全にしようとすると不完全を体現するという矛盾に気付いているので、終盤は自壊していく描写にしました。読者様に指摘していただいたのですが、とっくに気付いているのに抗わずにはいられないところに、彼の数少ない人間性が凝縮されているというのはその通りだと思いました。
 記憶を失った後、心穏やかに余生を過ごせたらいいですね。

・デッサン博士

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 Fの人格の元となった記憶の持ち主で、ガルシアとアレギオンの師匠ポジションの教授です。Shape-Y研究はガルシアが主に受け持っていた案件で、彼はその責任者と考えてください。作中説明はしませんがShape-Yの発明・発案者です。名前とシルエットと後ろ姿だけ登場します。車椅子に乗った老人で、一房だけ髪がカールしてるのがわかるかと思います。Fの人格が生まれる背景から、彼も結構壮絶な人生を歩んでたりします。

・アゼリア一家
 Sの人格の元となった記憶の持ち主アゼリア嬢とその両親で、大富豪です。アゼリア嬢の回復や社会復帰ができる手段として期待しているためShape-Y研究をパトロンとして支援しています。名前だけ登場ですが、名前を冠したビルを持っていて、科博のアレギオンによる支配を許す一因となっています。まあ監禁なり脅迫なりされていたのでしょうが。

・サイモン

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 ガロ(P)の友人的ポジションで、職業斡旋の仕事をしている人間です。チョイ役のため名前は付けない予定だったのですが、終盤の再登場時になんとなく呼びたくなったので、作者のスペイン人の友人(黒髪で髭が生えてるところも一緒)から貰いました。名前付けると途端に愛着湧きますね…。ペンキ被ったのは受難でしたね。多分彼も自宅に高性能な家庭用アンドロイドがいるのでしょうね。
 ガロ(P)の好みや行動原理を把握した上で職業斡旋しているので、まさに「人の仕事」という感じですね。そしてガロ(P)の理解が深く、煽りつつ心配する素振りを見せるということは、きっと一緒に飲むくらいはしたんじゃないでしょうか(ガロ絶対酔わないけど)。そう考えると今作のエンドは彼にとっても寂しい余韻が残ります。

○小ネタコーナー

 作者が所々に入れ込んだ小ネタ(?)数々です。話の内容に直接関係あるものからないものまで、作者の意図や思いつきをボソッと…

・サグラダファミリア
 現実には2026年に竣工予定らしいですよ。なので描いたサグラダファミリアは完成予想図を基に起こしています。一体何をどうしたらこんな造形思いつくのでしょうねガウディ。是非とも実物を早く見に行きたい…。

・ラジカセ

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 「レトロ(ヴィンテージ)好き」を示すアイコンとして序盤のガロ(P)に持たせました。作者の私用で銀座に行った時にラジカセの大量展示を見る機会がありまして、その中で持ち運びができて可愛らしい目を引くデザインのものを拝借しました。詳しくは「MyFirstSony」で検索。子供向けの商品らしいですね?
 現在既にレトロ商品となっているラジカセですが、今から60〜70年経ってる想定なので、ガロ(P)のラジカセはほぼ100年ものヴィンテージになります。動いてるのは、彼がShape-Yだからというのもあるかもしれません。スペインの民謡か何かが流れてるイメージですが、ご想像にお任せします。

・16PB

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 読みは「16ペタバイト」ですね。ペタはテラの1000倍の単位です。アレギオンのShape-Y説明の時に出てくるUSBメモリにさりげなく「Shape-Y Logs 16PB」と付が貼ってあります。つまり「Shape-Y未満のなり損ない」が保存されています。アレギオンの服にクリップのように留められてデザイン性もバッチリですね(?)。自律思考、立体の設計と印刷と重そうなデータが多いので「まあこれくらいあればいいんじゃね」とザックリ適当な単位にしましたが、これで足りるのかな…。昨今の記憶容量の成長ぶりを見たら、60〜70年後の水準としてはむしろ少ない気もしてきました…。

・科博展示1000m送り出し架設

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 大きな橋梁などを架ける時に使われる工法の一つに送り出し架設があります。予め柱や支点を築いておいて、片岸から橋のユニットを順々に送り出していく方法です。1000mが実現できるとするなら海峡とかに橋を架ける工事が相当楽になるんじゃないでしょうか。
 現実ではできて100m行くか行かないかくらいですね。同時に展示しているのが家庭用スペースシャトルなので、夢のある数字としてだいぶ盛りました。60〜70年じゃおそらく物理的に(反力や断面力やたわみが)無理ですが、できたらいいですね…(遠い目)

・錯視画と映写機

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 ガロ(P)がエッシャーなどの錯視画家も好きということを示す説明として出しました。実際、錯視を利用した案内サインなどが実用化されていますね。この映写機は個々人の位置情報から視点を導き出し、その場にいる人間全員に錯視が見えるようにサブリミナル立体映像を照射してるという意外とトンデモ装置です。例によってガロ(P)のヴィンテージ趣味により、古のフィルム映写機をモチーフにした無駄な意匠が施されています。場の撹乱にだけ用いられるのも勿体なかったので、最後のガロ(P)とパスティーの会話で再利用しました。
 え?ガロ(P)はアンドロイドなのにこれを作るために徹夜してダウンしたって?機械だってずっと動かしてたらバッテリー上がるし効率下がるでしょうが!

・工事用発電機

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 なんで多くの人が倒れてるのか?
→発電機が二酸化炭素を大量排出してる!
→室内換気(多分単一ダクト)が止まってるからだ!
という流れなのですが(ここまででも十分専門的な気がする)、ここに注意事項を加えます。
どちらかといえば一酸化炭素の方がヤバいですね。密室で発電機を使うと一酸化炭素濃度が高くなるので工事現場では換気必須です。ただし作中の二酸化炭素1023ppmもかなり危険な水準です。これ本当はホールにいるアレギオン達も危険だろ。
 しかし要検討なのは、換気が止まったとはいえ、これだけの規模の建築でそんなすぐに二(一)酸化炭素が充満するのかという点。多分無理だと思ってるのですが、建築環境に詳しい人お願いします!

・重機で破壊のくだり

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 当初ガロ(P)は「何か未来的なアレギオンの装置で破壊される」と考えていました。一案としては、4月頃読んでいたイリアスに触発されて考えたトロイの木馬(ウィルスの方)とかです。これでも「心にダイレクトアタックできるやん!!」とか思いあがっていたのですが如何せん絵面が地味で(多分ガロが悶え苦しむくらいしかできない)、アレギオンがそれを操れるのも何か違う。お手軽な銃器はメカバレのシーンで使うしなあ…となり、思い浮かんだのが重機でした。1000m送り出し架設は特に何も考えずに入れたのですが(考えろ)、これを入れたことにより「建設工事の展示してるなら、重機も展示してるのでは?」と気づきました。それならアゼリアホール機械全接続してるアゼリアにぶっ壊させたろ!とノリノリで変更しました。遠隔重機操作技術とか既にあるしイケるイケる!
 使用重機は「タイタンパー」と呼ばれるものです。見た目攻撃力が高そうという理由だけで選びました。本来用途としては鉄道工事でバラスト(レールの下に敷かれた沢山の石)を均したりするために使われるもので、列車型をしたものがメンテ用としては一般的かと思います。作中登場するのはショベルカー(鉄道用)に付け替える小型のものですね。実際はあんなに尖っていません。ガロ(P)を貫くために改良しました。

・あと施工アンカー

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 釘とか杭とか鎖とかでいいところを作者の無駄なこだわりが光る(?)金属式アンカー。どこに登場したかといえば打ち付けてあるところです。勿論ガロ(P)を。本来は建材や設備をコンクリートなどに後付けするためのものです。絶対真似しないでください。

・二人学会

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 ガルシアとアレギオンによる二人だけの学会シーン。バトル漫画だったら「何で敵待ってくれてるんだよ」となる展開ですが、二人とも研究者なので、これが彼らにとってのバトルシーンになります。なのでパスティーを含む外野は極力存在感を消しています。二人とも、本当はちゃんと議論したかったんですよね…。
 ※「素人質問で〜」のくだりにより一部の方に多大なトラウマを想起させてしまったことは本当に申し訳ありませんでした

・パスティーの銃

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 作者は銃には疎いもので、「どうせShape-Yが勝手に合成樹脂とかで造形するものだし威力とか度外視で見た目の差が付けばええやろ!」の精神で見た目だけで選出しました。参考にしたものはコルトウォーカーと呼ばれるものです。なんとなくクラシカルな見た目なのがガロ(P)と少し似た趣味してるかもですね。ところで実際弾丸にデータとか入れられるのでしょうか(熱で飛びそう)。

・パイミオチェア

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 好きだからという理由だけでアレギオンに座らせた椅子。フィンランドの巨匠アルヴァ=アアルト作(作者が大好きな建築家)。今でもartekというメーカーになって売ってるのでいつか買いたいです。
 フィンランドつながりで、終盤ガルシアが着てる花柄のワンピースはmarimekko的なものをイメージしています。みんなヘルシンキ行こうぜ。日本から1番近いヨーロッパ。

・ルビンの壺(盃とも)

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(わかりづらいですがそれを意識した構図)

 ちなみにルビンは芸術家ではなくデンマークの心理学者なんですよ。しかしこの「図と地の反転」のゲシュタルト心理学、建築学科の学生は一度はハマるのあるあるだと思ってるんですがどうです!?
 ゲシュタルト「心理学」とある以上、アレギオンはこの辺のことを知識としては知ってるはずなので、ガロ(P)にどこかでルビンを引き合いに出しつつ「お前絵とか描いたことないだろ!」って煽って貰おうかと思った(というか学会シーンをスプラッタなガロ相手で考えてた時期もあった)のですが、そんな間も無く無慈悲に脳部を引き抜かれましたね。

・扉絵(2ページ目)
ルビンの壺と騙し絵(エッシャー)、サグラダファミリアの要素を詰め込んであります。つまり…別の絵が隠れています。本来ならせいぜい5〜6階程度の建物からサグラダファミリアはあんな風には見えないと思うんですよね。どんな絵かは…作中でオマージュした構図のコマがあるので探してみてはいかがでしょうか…(その内答え合わせします)。

○終わりに

 …喋りましたね…。前回の倍は話している気がします。これだけ考えてもおそらく読むのは15分程度。これだけの量の情報は伝え切れてないと思いますが、込められるものは込めたつもりです。親子愛でも…テーマの心でも…なんならキャラの可愛さカッコよさ人間臭さのどれかでも伝わっていれば私は感無量です。
 長文駄文にお付き合いいただきありがとうございます!
 ではまた次回作でお会いしましょう!

A.T.JANPI



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