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銘柄研究NO1インプレスホールディングス③〜Amazon参入と電子書籍の拡大

前回までで、出版業界の基本的な構図を見てきました。人口が減少していく中では本を読む人の数が絶対的に少なくなっていくわけですので、出版業界は今後全体のパイが減少する中で、各プレイヤー間の体力勝負、資本力の勝負になるのではないかと思います。

さらにこの環境に拍車をかけそうなのが、アマゾンの「買い切り」方式での出版業界への参入と電子書籍の拡大です。

アマゾンの「買い切り」方式がなぜ脅威かというと、これまで出版業界の拡大を支えてきた2つの制度を壊す可能性があるからです。

それは「委託販売制度」と「再販売価格維持制度」です。

まず「委託販売制度」とは出版社が販売活動を取次と書店に委託することで、書店は売れ残った本を取次を通して出版社に返品ができるというものです。この場合返品にかかる損はすべて出版社が負うことになりますので、書店は実質ノーリスクで本の販売ができることになります。

どんな本が何冊配本されるかというのは主に取次会社が決定するため、実は書店というのは、独自の経営方針で利益を上げてきたというよりは、本を販売するための場所貸しとしての性格が強かったようです。

「再販売価格維持制度」とは、書店は本を出版社が決めた価格以外では販売できないという制度です。もともとの目的としては、文化、教養としてのメディアである本の特性上、価格競争などによって地域差、書店によって価格差が出てはならないということで、価格の統一が図られているようです。

書店が割引きセール等を行わないのはこういった事情があったからなんですね。

それに対して「買い切り」方式とは出版社から直接雑誌や書籍を購入し、売れ残っても返品しない方式です。

ネット通販大手のアマゾンジャパン(東京都)が、出版社から本や雑誌を直接購入し、売れ残っても返品しない「買い切り」方式を年内にも試験導入すると発表した。取次会社を通して仕入れ、返品できる従来の流通の仕組みを大きく変えるもので、出版業界に大きな波紋を広げている。アマゾンは値下げ販売も検討するとしており、本の価格を維持してきた再販売価格維持制度(再販制度)の形骸化を懸念する声も上がっている。【山口敦雄】
 「買い切り商品を作ることで、書籍の返品率を下げることにチャレンジしたい」。1月31日に記者会見したアマゾンジャパンの中崎吉記・書籍事業本部事業本部長はこう強調した。返品率の高さは、出版業界にとって長年の課題だ。出版科学研究所によると、2018年の書籍返品率は36・3%。出版不況の影響に伴って高止まり状態が続く。
 アマゾンによると、年内にも試験的に始める「買い切り」の対象は書籍、コミック、雑誌などだ。出版社と協議して対象となる本を決め、一定期間は出版社と決めた価格で販売する。売れ残った場合は出版社と協議して値下げ販売なども検討するという。逆に、最初にキャンペーンで値下げ販売し、その後値上げして定価販売をするなどのケースも想定している。

引用:毎日新聞2019年3月18日 東京朝刊https://mainichi.jp/articles/20190318/ddm/004/020/025000c

これは2019年の記事ですが、Amazonと直接取引をする出版社は着々と増えているようです。

またこの記事から

再販制度というのは、独占禁止法の例外によって「認められている」と書きましたが、再販制度に反して本を値引きしても、法律で罰せられることはありません。独占禁止法はあくまで、書籍の価格拘束を認めているだけで、義務付けているわけではないのです。
では、書店を「拘束」しているものは何か?
これは「契約」です。
出版社・取次(本の問屋)・書店は「再販契約」というものを結んでいます。
書店はこの契約を結ばなければ取次と取引をできません。
この中で、お互いに「再販売価格を守る」ということを約束しているのです。
書店は値引きをしない、そのかわり、出版社には他の書店でも値引きをさせない。
このような関係があります。
したがって、この契約は書店が出版社から書籍を買い取る(=返品できない)場合にも適用されており、書店は返品できない本だからといって値引きしたりすると、取次から取引を停止される恐れがあります。

引用:


再販制度とは義務ではないため、Amazonと出版社の契約により一定期間が過ぎた本を値引きできることが可能だということがわかります。

ちなみに電子書籍についても再販制度の対象にならず、値引きや、ポイントの付与が可能ということです。

そのため電子書籍の拡大についても、取次を介しての取引の減少をもたらし、出版社、書店間の価格、サービスの競争を促進させるという従来の制度に守られてきた業界構造を一変させる環境の変化となります。

とはいえ、文化、教養メディアとしての出版業界においては競争の促進はデメリットもあります。

次回は上記の環境変化の中で各プレイヤーの動向がどのように変化しているか見ていきたいと思います。

出版業界というと素人目には拡大が見込めない=投資機会のない業界という目で最初は見ていました。

しかし競争環境が変化しているということは、各社、生き残りをかけて対策をとらざるを得ないということでもあります。

日本の会社はサラリーマン経営者が多い影響か、前年比増収、増益であることが良しとされています。しかし私は単純に前年比の数字で見ることにずっと違和感を覚えていました。

業界全体が縮小傾向にあり、今後競争環境が厳しくなるとわかっているのに、自社の根本的なビジネスモデルや業界での立ち位置に目を向けず、単純に社員を増減させたり、値引き交渉、在庫調整等一時的な対策でしのいだり、他社の取り組みに盲目的に追従するような会社が多いように思います。

投資としての難易度としては高くなりますが、なまじ今利益が出ている会社より、一般的には衰退している業界とみられているなかでも、変革をリードしていく会社に投資をすることも面白いなあと思いました。

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