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【後編】直木賞候補作を全部読んでみた。

後半です。どれを読んでも面白くてまいってしまいます。オルタネート、アンダードッグス、心淋し川についての感想です。

前半はこちら。八月の銀の雪、汚れた手をそこで拭かない、インビジブルについての感想になっています。

オルタネート 加藤シゲアキ(新潮社)

アイドルのNEWS加藤シゲアキのファンという度数の強すぎる色眼鏡をかけた状態で初めから読んでしまっているので純粋な感想文が書けない…

彼の書いた物語を一番“アイドルの書いた本“という色眼鏡で見てるのは私たちファンなんですよね。仕方がないけれど少し悔しい。

気を取り直してバイアスのかかった感想です。

この本の魅力は22章「祝祭」です。ここがやっぱりどうしても凄い。加藤さんの文章は映画のようで文字から映像が浮かんできますが、この章は本当に情景が文章に映るようでした。冒頭から積み重ねられてきた物語がここで爆発します。多幸感と今しか無い感、青い瑞々しさが本当にすごい!

これは多分私が未熟すぎる故なのですが、小説を読んでいるときに自分と重ねたり、共感性羞恥が発動してしまい、恥ずかしい気持ちや辛くなってしまいがちです。(普段人間が自意識と向き合い苦しみもがくような物語を好んで読んでいるからですが)

でも、オルタネートでは私がダメージを受けるポイントはあまりなかったかも…?純粋にエンタメとして面白かったです。

加藤さんの作品は“読者をえぐってくる“描写がが多めなので、特に爽やかさが印象に残りました。

アンダードッグス 長浦京 (角川書店)

裏切り、暗躍、崖っぷち。騙し合いに殺し合い。とにかくド派手にドンパチやっちゃってる。読むハリウッド超大作だし、劇場版コナンですか?ってくらいアクションシーンが派手で目に浮かびます。作者すごい。

ポケット版の辞書くらい分厚いのに、疾走感が半端ないおかげで最後の1ページまでハイテンションで駆け抜けられます。ちょっとスピードに置いていかれるくらい…(これは、私の理解力の問題)

主人公の古葉がハイスペック超人です。これ以上はネタバレせずに何も書けないような気がするので読んでください。(笑)

ミステリというよりも、アクション?伏線やトリック、誰が裏切り者なのかじっくり考えるよりもこの超流に身を任せるのが良さそうです。この本は一気読み推奨です。一度止まってしまうと違和感を感じる部分も出てきてしまうかも知れません。

ユニバとかにあるアトラクションのような作品でした。本を読んでこんな体験ができると思わなかった…とにかく楽しいの一言です。ヒャッハーー!



心淋し川 西條奈加 (集英社)

心淋し川沿いに住む人々の人情もの。

歴史小説ですが、短編連作集なのでそんなに気負わなくても大丈夫。いつか国語の教科書に載るのかな?なんて思いました。中学3年生〜高校2年生くらいまでの教科書に載ってそうです。

歴史小説全般に言えることでもありますが、日本語って美しいなぁ〜と思う表現が随所に見られました。辞書を引きながら読むのも楽しかったです。

誰の心にも淀みはある。事々を流しちまった方がよほど楽なのに、こんなふうに物寂しく溜め込んじまう。でも、それが、人ってもんでね。(p38)

どうしようもないこと、分かっていても抜け出せないこと、江戸も令和もありますよね。

決して華やかじゃなくても、最後にはぽうっと竹灯籠に火が灯るくらいの柔らかい光が差す。心の隅々まで明るくする力はないですが、それで良い気がします。


全作読んでみて

今回直木賞候補作を全作読んでみて、エンタメ小説の幅広さに衝撃を受けました。全部テイストは違うし、読後感はバラバラでした。共通しているのはめちゃめちゃ面白くて読者を「楽しい」と思わせてくれるポイントがそこかしこにちりばめられていること!!!!!!

受賞作の予想合戦も文学賞の醍醐味だと思うので、私も予想してみたいと思いますが、あまりにもジャンルがバラバラなので、直木賞初心者の私には、傾向や“直木賞らしさ“もわかりません。

何が選ばれるかは選者の好みでしかない気がしました。どれが選ばれても、もちろん「わかる!良いよね」ってなります。

じゃあ、私の好みはどれなのか。

出会えて良かったと思えたのは「八月の銀の雪」でした。

私の足取りを重くする重力。でもその大元となるマントルの内部に降る“雪“が、人には気づかれなくても不器用でも、私の芯をゆっくりと着実に太くしていく大切さに気づかせてくれました。この暖かさに出会えただけでも、全候補作読んだ価値があったような気さえします。

直木賞を含め文学賞にはどうしても堅苦しいイメージがありましたが、エンタメ小説をみんなで読もう!という大読書イベントなのだと今は認識しています。文学賞メッタ斬りも楽しみだし、様々な書評や感想を読んで、私が日本語にできなかった感覚を言語化してもらっている様な気になるのも楽しいです。

1月20日が楽しみだなぁーー!!!


拙い文章で、読書家の皆様や直木賞ファンの皆様を嫌な気持ちにさせてしまったかもしれません。また、誤字脱字もあると思いますが、ご容赦ください。

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