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【エッセイ】永遠のワナビ

あなたは「黄泉のツガイ」という漫画を読んだことがあるだろうか?
これは「荒川弘」先生の最新作で、1話目から物語に引き込んでくる超展開を見せる。
名作を予感させる作品となのでぜひ読んでみて欲しい。

オススメしたくなるほど面白い「黄泉のツガイ」だが、僕からするとやはり「荒川弘」先生と言えば「鋼の錬金術師」だ。
この作品は「人生面白かった漫画TOP10」の中でも上位に食い込むほどドはまりした漫画である。
そして僕をオタクの世界に引きずり込んだ作品だ。

きっかけは中学生の頃、クラスメイトからハガレンの1~3巻をもらったことから始まる。
家に帰って読んでみるとなんと面白いこと!
すぐに続巻を買い、最新刊まで買い終わると、次は雑誌を買い始めるようになった。
別の女の子とは、僕の持っていたCD「明日への扉」のシングルとハガレングッズを交換したこともある。
オタクの道へとまっしぐらに進んでいった。

やがて僕は漫画家になりたいという夢を描くようになった。
漫画家になって、荒川弘先生のように人を感動させられる作品を作りたい。
そう思ったが絵は全く描けず、今の時代のようにスマホなんてものはなく、PCだって普及していなかった。
そのため情報を手に入れる手段も限られており、どうやったら描けるようになるかわからずすぐ諦めることとなった。
だが、何かを作りたいという情熱は残り続けることとなる。

高校生になってからは携帯電話のゲームで「歪みの国のアリス」や「ひぐらしのなく頃に」にハマった。
そうなると次は「ノベルゲームを作ろう!」と思い至る。
携帯電話の普及で情報が少し手に入りやすくなっていたが、ググるなんて言葉がない時代。
僕はなけなしの頭と勇気を振り絞って、携帯ゲーム会社のHPのお問い合わせから「ゲームクリエーターを目指したいのですが、どうやったらなれますか?」とダメ元で問い合わせた。

そんな問い合わせに返信が来ると思うだろうか?
普通は来ないだろう。
その会社は普通ではなかった。
そう。
来たのだ。
返信が。
しかも長々と、丁寧に。
携帯を水没させてデータを失った今でも内容は覚えている。

簡単に言うと「ゲームクリエーターにもいろいろな役割があって、様々な人がかかわってできている」と、シナリオライター、グラフィッカー、サウンドクリエーターなどいろいろな職種について教えてくれ、さらに「ユーザーさんにプレーしていただいて初めてゲームが完成する」と書かれていた。
最後には「いつか、あなたと一緒に仕事ができる日を楽しみにしています」とまで書かれていた。
僕は感動した。
何度も何度も読んだ。
そしてゲームクリエーターになりたいという思いを強くした。
だが、専門学校に入るなどの挑戦をする勇気がなく、無難な文系大学へと進学することとなる。

大学に入るとPCも手に入り、時間も作りやすくなった。
そんな中、仲の良かった友達とゲームを作ろうという話になり、三人でそれぞれ役割分担を決めた。
夢に1歩近づいた瞬間だった。
まあ、経験者ならわかるだろう。
身内でゲームを作ろうとなったときどうなるか。
そのほとんどは空中分解する。
我々も例に漏れず空中分解した。
短命だった。

ひとりになった僕だったが、無駄ではなかった。
ゲームを作るために必要なことを一生懸命調べたことによって、ゲーム制作がどれほど大変なのか、どんな労力がかかるのかがわかったからだ。
一人でゲームを作ることは相当難しいことを理解すると、次に一人でできることを考えた。

その結果、僕は小説を書き始め、新人賞へいくつも作品を送ることとなる。

結果、気付けば今35歳。
小説家にはなっていない。
前職はゲームとは全く関係ないシステムエンジニア。
現在うつ病闘病中。
物語は一行たりとも書いていない。

それでも心の中には面白い作品を書いて、誰かを感動させたいという思いがいまだに残っている。
そう。
永遠のワナビの完成だ。

だが僕は今宵も物語を書くことなく「黄泉のツガイ」を読み進めるのだろう。

※ワナビとは
「ワナビー=want to be=~になりたい」の意味で、夢を追いかけている人の事を指す。しばしば蔑称として使われるケースもあるため、人に対しては使わない方がいい。

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