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『夜をこめて 鳥のそら音は はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ』清少納言

《意味》
まだ夜の深いうちに鶏の鳴き声を真似てうまく騙そうとしても、中国の函谷関ならともかく、逢坂の関の関守は騙されませんし、私も騙されて戸を開けてあなたに逢うなんてことはありませんよ。

社交的で機知に富んだ、清少納言らしい一首です。
清少納言は父・祖父共に著名な歌人という和歌の家系に生まれ、周囲の影響もあり幼い頃から才能を発揮します。漢学、中国の文学や中国の故事に詳しく、その才を買われ宮中で活躍しました。
今回の一首はそんな清少納言の知識と頭の回転の速さがよく表れています。

ある夜、同じく宮中に勤めていた藤原行成と遅くまで話をして盛り上がっていましたが、急に行成が用事があるからと帰ってしまいました。翌朝になって行成から、「昨夜はごめん、鶏の鳴き声が聞こえたから帰ったんだよ」という言い訳の手紙が届きます。そこで清少納言は中国の故事を引き合いに出して、「鶏の声っていうのは、函谷関を鶏の鳴き真似で開けさせたっていうあれのことでしょ?本当はただ早く帰りたかっただけのくせに!」と皮肉を返します。するとそれに対し行成は、「その話は確かに函谷関の話ですが、私たちの場合、関は関でも逢坂の関ですよ」と男女の逢瀬、恋愛関係を匂わせる言葉を送ってきました。そこで清少納言が返したのが今回の一首。「あなたと私が恋愛関係になるわけないですよ」と痛烈に返したわけです。

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