見出し画像

|dialogue #03-1|NPO法人博多ミツバチプロジェクト(前編)

「asumin note」第3弾。今回は博多のまちの中で、日本ミツバチを育てながら、地域交流活動や環境問題の重要性の普及・啓発活動を通して、自然豊かで美しいまちづくりを目指している、NPO法人博多ミツバチプロジェクトの代表、吉田倫子(よしだのりこ)さんにお話を伺いました。


01 活動のきっかけ

何がきっかけで「ミツバチ」だったのですか?

それはもうっ、ハチミツが食べたかったからです(笑)
本当にそれだけなんですよね。もともと、自宅の改装をする際の施工業者さんがたまたま養蜂家で、「この家はハチを育てるのに良い環境だね」と勧められことからミツバチに興味を持ちました。自家製のハチミツが博多のまちの中で採れるなんてすごく面白い!という感じです。私は、「なんでもいいからやってみる、だめだったらやめればいいや」という考えなので、躊躇なく飼い始めてしまいました。その時点では、ミツバチに関する知識なんてほとんどなく、ニホンミツバチは在来種で数が少ないからハチミツも希少なんじゃないかなくらいでしたが、飼い始めて勉強するうちに、その生態にどんどんハマっていきました。


一つの巣箱に、沢山のハチたちが一緒に暮らしています。

02 ミツバチの特徴

「ミツバチ」って、どこがそんなに面白いのですか?

実はハチって、とても賢い昆虫なんです。『社会性昆虫』などと呼ばれるんですが、巣の中でお互いにコミュニケーションを取って、餌の場所の情報などを共有しているんです。そしてそれぞれが、エサを取ってくる係、巣の中を掃除する係、女王蜂の世話をする係と役割を決めて動いています。
私たちの生活にも大きく影響を与えていて、「ミツバチが飛ぶ街はよいまち」だと言われていたり、アインシュタインが「ミツバチが絶滅すると、その4年後に人類は滅びる」と言っていたくらい大切な生き物なんです。その大きな役割の一つが『受粉』です。ミツバチがいなくなったら全てではないですが、野菜や果物が受粉できなくなって収穫量も減り、物価が高騰します。やがては家畜も育たなくなり、人間の食べ物は無くなってしまいます。

育てていると、そんなことを実感するものですか?

実感できちゃうから面白いんでしょうね。ミツバチを飼い始めると、自宅の庭にも変化が起きました。ミツバチ以外の生き物もやってきて、これまで実がならなかったイチジクに実がなったり、さくらんぼが1.5倍の大きさになったり。こんな都心部でも環境の循環が生まれるということは、これを福岡市、福岡県、九州と広めていけば、とても素敵な好循環が生まれるじゃないかと思うんです。しかも、無農薬なので、誰にもリスクがないというのもいいですよね。

自宅の庭には、ミツバチたちによって受粉されたきれいな花が咲いています。

普通はあまり選ばれない「ニホンミツバチ」を育てているそうですが、
その理由ってなんですか?

プロの養蜂家さんは当たり前に、外来種である「セイヨウミツバチ」を選ばれます。なぜそうなるのかというと、それは採蜜量がニホンミツバチよりも数倍と多いからです。病気のなりにくさでいうとニホンミツバチの方が丈夫なのですが、安定した蜜量が取れない。どうしても商売の面から見ると、セイヨウミツバチが選ばれてしまいます。養蜂家の中で、ニホンミツバチというのはノーマークだったんです。
だけど、採蜜量は少ないとはいうものの、良いところもたくさんあります。ニホンミツバチはいろんな花から蜜を取ってくる、いわゆる百花蜜と呼ばれるもので、毎年味が違って同じ蜜は二度とできないブレンド蜜なんです。商売からすると均一じゃないのは困ってしまうことかもしれませんが、その土地ごとで味が全然違ってくるということは、むしろ私はそこに価値があるとさえも考えてしまいます。巣箱の中で半年間熟成しているのも特徴で、だからこそ濃厚で美味しいハチミツになります。同じハチミツでも全然違っていて面白いでしょ。

ニホンミツバチの巣蜜

ミツバチにとって今の日本の環境ってどうなんですか?

気候変動や地球温暖化はやっぱりミツバチにとってもよくないですね。暑すぎるのは全然良くない。あとは農薬ですね。ミツバチにとって一番いい環境って、野山で飛び回っている姿だと思います。ですが今、日本の野山を見てみると、近くの田んぼで農薬が多く使われています。他にも今は、田舎に焼却施設や工場が増え、ミツバチにとっては本当に過ごしにくい環境になっています。そうなってくると、実は、都市部の方がまだ安心安全にミツバチたちが暮らせるのかもしれません。それは福岡だけでなく、東京や大阪、世界で見るとフランスのパリなどでも同じ現象が起きています。

03 博多ミツバチプロジェクトについて

そんな中で生まれた「博多ミツバチプロジェクト」について、教えてください。

2021年に設立したNPO法人です。現在コアメンバーは15名くらいで、あとはボランティアの皆さんに手伝ってもらっています。ボランティア希望者は、市内だけではなく全国から来てくれていて、今年は大学のボランティアサークルが一緒にしたいと手を上げてくれたので、総勢150人くらいになりそうです。

大学生が一気に150人とはすごいですね。

何をしてもらおうかなと考えているところですが、一番気にしているのは彼らにとってのメリットってなんだろうということです。せっかくボランティアをしてもらうのであれば、メリットがないと続かないし意味がないですから。なぜ彼らがボランティアをするのかというところに、自分なりにですが答えを出そうと思っています。
ここでボランティアをしたいと言っても、おそらくこのあとハチを育てたいわけではないでしょう。きっと、ボランティア活動の場を探していた時に、たまたまここを見つけただけだと思うから、彼らにとってのメリットは何かと考えると悩ましい所です。一度つまらないって感じると、その後の活動も全部つまらないと思っちゃうかもしれないので、最初のきっかけは大事にしていこうと思います。

ニホンミツバチについて語る博多ミツバチプロジェクトの代表吉田倫子さん

事業を見てみると、多くの企業のお名前があると感じます。
いろんな企業とのつながりがあるんですか?

そうですね。ウチの場合は、こんなことやるけど協力してくれませんか?と企業さんに声をかけることが多いですね。企業さんは各専門分野で事業をされているので、そこが企業の強みだと思っています。私達はミツバチという昆虫を題材に、経済、環境、食、健康とあらゆる分野に紐付けて企業様と一緒に啓蒙活動をしています。皆さん、地域社会の一員でもありますから、自分たちが住んでるまちが豊かになることは嬉しいことですし、企業としてもメリットがあるように思います。どんどん繋げてミツバチというファンタジーの世界が繰り広げられると活動の輪も広がりますし、携わる方々のコミュニティも楽しくなりますね。

最近では、教育の現場にも登場されていると聞きました。

そうなんです。昨年、県立太宰府高校で16週33コマの授業をさせていただきました。最初にお話をいただいた時に担当の先生と打ち合わせをしたんですが、授業の中身は自由にしていいと言われたんです。それでどうしようかなって思って、スタッフを含めた何人かで集まり話した結果、「ミツバチから見える世界」というテーマで、企業や銀行、病院の方たちにも入ってもらって一緒に授業をすることにしたんです。

花粉をつけて飛ぶミツバチ

後編へつづく