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新世界でも逃げられない  叶

『あすかも』の女の方兼ミーハーな方であるわたし叶は、
また新しいものに手を出した。
所謂メタバースと呼ばれるものである。


わたしが今回使ったのはVRChatというプラットフォームで、
仮想現実SNSとでも表現したらわかりやすいだろうか。
プレイヤーは自分の分身であるアバターを纏い、
マイクあるいはテキストで交流ができる。
イメージとしては細田守監督の映画『サマーウォーズ』に出てくるOZにかなり近い。

VRChatではプレイヤー同士が直接交流できる部屋を『ワールド』と呼び、
公開されているワールドはほぼ全て自由に出入りができる。
また、VR専用機器を持っていなくても、
手持ちのPCや一部スマートフォンでもプレイできる。
(新しい用語にわたし自身が戸惑っているため、
情報の正確さには自信がない)


知人から設定についてひととおりの説明を受け、
一応使える状態にしていざプレイ。
結果として、インターネットに棲息すると必ずぶつかる問題にまたぶつかった。
つまりはちょっと変わった人と出会った。

とあるワールドにひとりで入り動作確認をしていたところ、
知らない人に「コンニチハ」とカタコトの日本語で話しかけられた。
二次元の美少女アバターから明らかに成人男性の声がするとやはり多少驚く。
わたしは形式的に「こんにちは」と返し、
自分の作業に戻った。
わたしが動作確認をしている間、
先程の美少女男性は壁にとても直接的で性的なイラストを描いていた。
本来ならここで逃げるべきかもしれないが、
インターネットの悪い文化に慣れてしまっているわたしは無視をしていた。


わたしが前後左右の動きプラスいくつかのアクションを会得した頃に、
美少女男性から今度は外国語で話しかけられた。
他人との交流はそもそも嫌いではないので、
少し会話をしてみることにした。
わたしには彼の言葉が韓国語のように聞こえたので「Are you Korean?」と尋ねてみた。
イエスともノーとも返ってこなかったが、
雰囲気から彼が気分を害していることは伝わってきた。
暫くして「チュウゴク!」と言われた時は触れてはいけないものに触れてしまった気がしてそれなりの気まずさを覚えた。

長くなるので省くが、
その後は彼はカタコトの日本語わたしはカタコトの英語という完全アンバランスなコミュニケーション手段をとっていた。
改めて考えると向こうが日本のサーバーに入ってきて日本語で話しかけてくれてるのに、
わたしが英語で返すのは間違っていたと思う。


さて、VRChatのワールドはよく作り込まれている。
わたしがいたそのワールドは食べ物や飲み物が置いてあり、
お箸やコップを使って飲食の疑似体験ができるようになっていた。
彼はひっきりなしに惣菜を箸でつまみ、わたしに食べさせてくる。
それをわたしが「Thank you!」と受けとる時間が続いた。
一度二度なら体験としておもしろいが、
間を置かず次々に食事を与えられると若干の恐怖が伴う。
そして彼はついに「ボクモ タベサセテ」と甘えた声を出した。
内心勘弁してくれと思ったが、
先程爆食いしている手前、断るのもなんだかなと応じることにした。
食べさせ、食べさせられ、お礼を言い合う。
彼は時折「ン〜…」と変に上ずった声を漏らしていた。
それをひたすら繰り返す混沌とした空間。
さすがにこれ以上付き合うと精神的な不調を起こすと判断したわたしは、ワールドから去ることにした。
しかし操作がわからない。とにかく美少女男性にバレない内に穏便に済ませたい。
とりあえず流れを変えようと箸を止めて「かわいい!」と言ってみたところ、
「オマエモ カワイイ!」と返ってきた。
会話は成立してる上ちょっと褒められてるのに、
何かが違う気がするこの感じこそ世にも奇妙な物語なのではないか。

ややあってから、ホームに戻る手段を見つけた。
わたしは「See you!」と声をかけ、
返事を聞く前に自分のホーム画面に戻った。


やはりこの手のものは知人と内輪ネタで盛り上がるのがわたしにとっての最適な遊び方なのかもしれないなと蒸れたヘッドセットを外しながら考えた。


それではまた。



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