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メモ読) 気候カジノ_第 II 部 気候変動による人間システムなどへの影響(前半)

第 II 部 気候変動による人間システムなどへの影響

第6章 気候変動から影響まで

影響を予測する作業こそ最も難しく最も大きな不確実性を伴っている
「人為システム」資源の効率化かつ持続可能な活用を確実にするため社会が策を講じているもの
「非人為システム」人間の介入をほとんど受けずに機能しているシステム
「エコシステム」微生物、菌類、植物、動物といったさまざまな生物に加え、そうした生物との相互作用の関係にある物理環境を指す
過去の社会の衰退や崩壊の原因は、人為的に管理されていない、あるいは適切に管理されていないシステムに過度に依存し、他地域からの供給を可能にする交易ルートをもたない不安定な経済構造にあった
ショックに直面した際の回復力を高める策は、例えば、移動や適応するための技術を発明すること
人間の技術がもつ最大の強みの一つは、特定の小さな領域の環境をコントロールできること
人間の営みを管理する最も重要な例は、現代医学の進歩である

図表6−1
包括的人為システム
 ほとんどの経済部門:製造業、医療
 ほとんどの人間活動:睡眠、インターネットサーフィン
部分的人為システム
 脆弱な経済部門:農業、林業
 非市場システム:浜辺や沿岸の生態系、山火事
非人為システム(人為的な管理が不可能なものを含む)
 ハリケーン、海面上昇、野生生物、海洋酸性化

我々の分析の際に講じられるであろう適応策を考慮に入れ、かつ日々の気象イベントによる変動と気候の影響を区別するなど、十分に注意しながら気候の影響について考える必要がある

気候変動政策や被害軽減策について研究してきた経済学者や技術者によれば、地球温暖化対策にはコストがかかる
排出量の削減に向けた取り組みには、将来の気候被害を軽減するための今日の貴重な財やサービスを犠牲にすることが求められる
合理的な地球温暖化政策には、コストと便益の間である種のバランスが求められる
経済的に好ましい政策とは、最適な方法で排出量を削減する手段のこと(除去費用を追加投入してもそれに見合って効果が得られなくなるレベルまで)
「経済破壊」アプローチ 全ての化石燃料の利用を直ちに禁止する
「地球破壊」アプローチ 未来永劫、もしくは少なくとも当面の間、何もしない
「焦点設定型政策(フォーカル政策)」コストと便益を比較した上で、具体的な目標を明確にした政策

第7章 農業の行く末

気候変動と経済成長の関係に関する2つの重要なポイント

  • 気候変動の程度や、農業のようなシステムが受ける被害の規模と深刻さは、主に今世紀以降の経済成長のペースによって大きく変わってくる

  • 将来、地球温暖化による危機に直面することの社会は、今よりずっと豊かになっていると予測される

「経済が成長する場合」と「成長しない場合」の未来を比較する
「ベースラインシナリオ」二酸化炭素排出削減策やその他の気候変動政策が実施されない前提で、経済成長、排出量、気候の変化を予測したもの
イェールDICEモデルを利用したベースラインシナリオでは、一人当たり消費支出は今後数十年間、急激な増加を続け、世界の1人あたりの生産高の成長率は21世紀で年2%弱、22世紀では年1%を若干下回る水準と予測される
「経済成長なし」開発または改良された製品およびプロセスがない。全要素生産性の成長が率がゼロ
気候変動問題は基本的に、排出削減策が実施されない社会における急速な経済が急成長したために生じる副産物である
排出削減策が実施されない社会における急速な経済発展は、急激な気候変動と甚大な被害を引き起こす↔︎穏やかな経済成長は我々を豊かにすることはできないが、気候変動による損失は少ない

気候変動が農業に与える影響

世界全体では、地域の平均気温が1〜3℃の幅で上昇すると、食糧生産能力が増加すると予測されるが、これを超えれば減少すると予測される。干ばつと洪水の頻度の増加は、地域の作物生産、特に低緯度地域における地元での自給作物生産に悪影響を与えると予測される。小規模な温暖化に対しては、栽培品種や播種時期の変更のような適応で、低〜中緯度から高緯度地域における穀物収穫を基準の収量またはそれ以上に維持することが可能である

環境省翻訳『気候変動に関する政府パネル 第4次評価報告書に対する第2作業部会の報告ー政策決定者向け要約』から引用

地球温暖化が農業に与える影響に関する悲観的な評価報告では根拠として主に二つの要因が挙げられている
1、気候変動は気候が元々耕作限界に近い地域の大半に、土壌水分量の低下を伴う気温上昇を招く恐れがある
2、気候変動は「水循環」、つまり農業に水を供給するシステムに、負の影響をもたらす可能性がある

適応策と緩和策

・二酸化炭素施肥_二酸化炭素は多くの植物にとって肥料となり得る
・適応_人間システムや自然システムが環境条件の変化に応じて行う調整。播種や収穫のタイミングの調整、種子や作物の変更、施肥や耕作手段、穀物乾燥といった生産技術の変更など
・農業部門における貿易の役割。ある地域の生産が打撃を受けたとしても、その衝撃は世界の市場によって吸収される
・経済や労働力に占める農業の比率の低下

食料価格決定における、技術革新と気候変動の相互作用
アメリカにおける過去60年間の農産物の実質価格は大規模な技術革新によって下落傾向にある
『IPCC第4次評価報告書』で提示された、適応作と貿易を考慮した研究は、気温上昇幅が3℃以下の場合、地球温暖化は「温暖化なしベースライン」に比べて世界の食糧価格を低下させる結果を示した
農業モデルから得られる結論は、地球温暖化によって食料価格は今後数十年間は下がる

こうした傾向が今後も続けば、気候変動による農業への打撃が経済にもたらす影響は多くの地域において限定的なものとなり、しかも徐々に減少する

農業は気候に最も敏感な産業分野であり、気候変動と適応行動のせめぎ合いをよく表している
特に適応策が限られている場合、一部の地域は確実に深刻な被害を受ける一方、適応しようとする力もまた非常に強大である
今後、50年ほどの間に農業が受ける影響は限定的とする研究結果がある一方で、長期的な懸念についても天秤に載せる必要がある

まとめ

気候変動が今後数十年の間に農業を通じて経済全体に与える影響は僅かである、というのが最も有力な推定
国が発展し、労働力が農業部門から他にシフトするにつれて、影響は軽減される
長期的視点では、特に気候変動が抑制されない状況では今後の見通しは不透明
世界の気温が一気に上昇すれば、降水パターンの変化や急激な気候変動によって、食糧生産はおそらく大きな打撃を被る

第8章 健康への影響

「世界平均気温が産業化以前の水準からたった1℃上昇するだけで、気候変動による年間死者数は少なくとも30万倍に増幅する。ー気温がさらに上昇した場合には、栄養失調で命を落とす人が毎年何百万人も増加するなど、死亡率は急激に上昇する」

『スターン・レビュー』

温暖化が健康にもたらす潜在的影響

気候変動が健康にもたらす影響の推定は、あくまで今日の知識に基づいた裁量の推定に過ぎず、蓋を開けてみれば、健康被害はゼロかもしれないし、深刻かもしれない
健康に影響をもたらす2つのメカニズム
(直接的影響)熱波や汚染、洪水の発生により人間が受ける環境ストレスの増加
(間接的影響)地球温暖化によって起きるかもしれない生活水準の低下、マラリアをはじめとした感染症流行地域の拡大、栄養失調や下痢性疾患の深刻化

研究チームが特定した三つの重大な懸念分野
・栄養失調(低水準の所得によるもの)
・下痢性疾患(劣悪な衛生環境や不十分な医療システムによるもの)
・マラリア(マラリア感染地域の拡大によるもの)
障害調整生存年数(Disability Adjusted Life Years = DALY)さまざまな病気によって失われた健康な年数を示すもの。余命損失年数と健康損失年数の2要素から成る
(前提条件)
・1人あたりの所得が年間6000ドル以上の国は気候変動による負の影響を受けない
・低所得国における下痢性疾患の発生率は高位推計で気温が1℃上がるごとに10%以上、定位推計では変化なし
・6000ドルという閾値未満では栄養失調や下痢性疾患、マラリアに対する人々の脆弱性は、所得や医療技術の向上によって緩和されない
この推定によると、気候変動は、アフリカにおける1000人当たりのDALY損失を計15DALYほど悪化させる=1人あたりの寿命が0.015年、5日ほど短くなる
アフリカは気候変動に起因する推定DALY損失は、すべての疾病によるDIY損失の約3%
先進国(主にアメリカ、西ヨーロッパ諸国、日本)は全DALY損失の0.01%
世界全体で見ると健康リスクの増大は特にアフリカと東南アジアで顕著
気候変動による世界の健康リスクのおおよそ半分は下痢性疾患、25%ずつがマラリアと栄養失調となっている

経済成長下での健康リスク

低所得国における人々の健康状態は近年急速に改善している
1980年時点で1人あたりの所得が2000ドル未満だった六十の国々の過去30年間での平均寿命は14年上昇している
経済研究では1人あたりの所得が10%増加すると、平均寿命は0.3年延びるとされている
低所得国における健康への最大の脅威は気候ではなくエイズ

適応策と緩和策

所得が急速に増加している世界では、気候変動が健康に及ぼす深刻な影響のほとんどが人為的に管理可能であり、また、実際に管理されている可能性が高い
気候変動の影響評価における人為システムの役割という、より根本的なポイントが浮かび上がる

まとめ

未来を予測する際、所得水準が上昇するにつれて人々が自らの生活の繁栄を環境条件から守ることに資源を割くようになることを考慮に入れる必要がある
気候変動が人間の健康に与える負の影響を無視することは賢明ではないが、市場経済に与える影響の度合いという点では非人為的システムとは全く異なる

第9章 海洋の危機

深刻かつ管理不可能な脅威「海面上昇」「海洋酸性化」「ハリケーンの強大」「生態系の崩壊」

海面上昇

海洋の熱慣性と兄弟表彰の誘拐にかっかる時間の長さに起因する海面上昇の進行の遅さが、政策に立ちはだかる障害の一つとなっている
予測される気候の変化を今日の社会に当てはめて考えてしまうと、経済的影響を過大評価する可能性が高い
危機的な気候変動が生じるとされるシナリオのもとでは、ほとんどの国が今よりもはるかに豊かになっている
社会が構成メンバーをあらゆる負のショックから守るようになるのは経済発展の一法則

地球はおよそ2万年まえに氷期最盛期を迎えた
当時の地球の平均気温は今日の水準を水準を4〜5℃下回り、海面は120メートル程度低かった
海面上昇の要因は主に「熱膨張」と「陸氷の融解」
経済・海面上昇モデルは今後の数十年の予測ではほとんど差がない(DICEモデル(排出抑制なしの場合、気温上昇を2℃に制限の場合)、IPCC予測(SRES-A1Bシナリオ))
今後500年間の予測では、非常に意欲的に気候政策を実施したとしても、海面は次の数百年で大幅に上昇する
気温上昇幅を2℃に制限しても、海面は500年間で最終的に1.5メートル上昇する

世界人口の経済生産の約4%が、海抜10メートル以下(レッドゾーン)の地点に位置している
移住パターンの長期的予測は難しい
特に大きなリスクを抱えているのがオランダ、バングラディシュ

世界遺産のうち54件が危険遺産リストに追加されている(2017年11月現在)
ロンドン、ヴェネツィアの市街地と、低い海抜に位置するいくつかの沿岸生態系が海面上昇に関係する主な危険遺産
自然・文化遺産のような代替の効かないシステムで生じた経済的損失を適切に評価することは極めて難しい
海面上昇を止めることは難しいが、被害を軽減するためには「退避」か「防御」かを選択することができる

海洋酸性化

全ての民に伝えよ
王の力がいかに虚しく、価値なきものか
その永久不変の法のもとに天地海さえも統べることができる神を除けば、全能と呼ぶにふさわしい者など存在しないのだ

デンマーク王 クヌーズ1世(995〜1035年)

海洋繊細化は「もう一つの二酸化炭素問題」とも呼ばれている
二酸化炭素が海水に溶け込むと、海洋の酸性度が増し、海水中に含まれる炭酸カルシウムが減少する
多くの海洋生物の殻や骨格は炭酸カルシウムからできている
海洋酸性化は主に炭素循環によるものであり、気候モデルに絡んだ不確実性は存在しない
この現象の全貌が明らかになったのは最近である(2009年頃)
海洋酸性化説が唱える主な予測は、世界中の海洋から得られる実測データによって立証されている
いくつかの研究では、二酸化炭素濃度が現在の3倍以上になると、魚の死亡率が急激に高まるという結果が示されている
たとえ最も有能で熱意溢れる科学者たちが影響の解明に取り組んでいようとも、実際に問題が起きるまでは、我々が海洋酸性化の影響を完全に理解することは難しそうだ

(後半に続く)

読んで少しでもあなたの世界を豊かにできたならそれだけで幸せです❤