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なぜ渋谷の路上でファミマの袋に嘔吐している酔っ払いを助けるのか

ロンドンから帰国した当日の夜10時頃、本来なら部屋で休んでいるはずの時間に、私は渋谷の路上でファミマの袋に嘔吐している酔っ払いを運んでいた。

右腕を私の夫が支え、左腕を酔っ払い(女性)の友人と思しき男性が支え、私は彼女の髪をかきあげて自分のヘアゴムで結び、衛生的にファミマの袋に嘔吐させる。

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彼女は「ごめんなざぃ…っ!お兄さんもぉ、お姉さんもぉ…っ!ちょうやざしい!」と言いながらヨタヨタ歩きつつ、ときどき思い出したように吐く。連れの男性は気が動転したのか「大丈夫です!」を繰り返していた。

我われが通りかかったとき、彼女は地面で吐いており、連れの男性はひとりで抱き起こすこともできず、タクシーにも乗車拒否されていた。ぜんぜん大丈夫ではない。

そんなふうに私はたびたび、路上に放置されている人に、声をかけたり、水を渡したり、ときにはこの例のように運んだりしてきた。

その根底には、高校の授業にゲストとして登壇した、全盲の女性の言葉がある。

「目が見えなくても、イタリアで困ることはあまりありません。日本と比べると、バリアフリーになっているところは少ないですが、周りの人が助けてくれるのであまり困らないんです。日本にいると、ハードは強いけどソフトは弱いと感じます」

この授業以降、私は自分の振る舞いにすこし気を配るようになり、そして海外での生活を(ぼんやりと)目標にした。

「ハードは強いけど、ソフトは弱い」

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私がこの言葉を久しぶりにはっきりと意識したのは、2016年頃、田園都市線の用賀駅のホームでのこと。

電車の中で突然具合が悪くなって、途中の用賀駅でなんとか降りたものの、ベンチに座っていることもできずにずり落ちて、地面から通り過ぎる人の靴をボーっと見ていたときだった。

電車が停車してたくさんの人を吐き出し、下車した人びとがキビキビと去って、また電車が停車し、下車した人が去る。

ちなみに、私がベンチに座っていたとき隣にいた男性は、私がずりおちると、私がいた席に「やれやれ」というかんじでリュックをおろしていた。泣くぞ?

結局、私は地面から親子を呼び止めて、駅員さんを呼んでもらった。5歳くらいの女の子を連れたお父さんは、私に声をかけられて、なんとなく怯えているようなかんじだった。ゾンビに話しかけられた、みたいな。

ハードは弱くてソフトが強い街、ロンドンへ

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なんだかんだあってイギリスに移ってから(イタリアではないものの)、私はあの女性の言葉の意味をより鮮明に理解した気がする。

そもそも、日本に比べて街の人とコミュニケーションを取る機会が多い。私が住んでいた街では、目があったら、微笑みかけないのは不自然だった。

ホームレスのおじさんにホッカイロをあげたら「さっきそこで人が刺されたから危ないよ」と教えてもらったこともある。ホッカイロ一枚で繋がる命。

街の人たちにとって、人はみな等しく、ちゃんと人だった。目があったら挨拶するし、ぶつかったら声をかけるし、困っていたら助ける。

そして、バスが突然動かなくなってその理由を運転手も「わかんない🤷🏻‍♀️」こともあれば、配管工が寝過ごして約束の時間に来ないこともある。人なので。

「ハードは弱くてソフトが強い」というのは、ハードのぶんのパワーを節約して、心の余裕をソフトにまわすということなのかもしれない。

一人ひとりがソフトを形成している

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そんなこんなで私は2019年10月末に日本に帰ってきた。

帰ってきた私にとって、東京はまさに「ハードが強くてソフトが弱い」街だった。それどころか、バスの中にベビーカーや車椅子用のスペースが予め設けられていないことなど、ハードでも負けている点すらある。

しかし、そうやって文句を言っていても、東京がいきなり変わるわけではない。

だいたい、私もなんだかんだ「まぁ酔っ払いは放置でいいか」と思っていた節があった。でも、私が用賀駅で倒れていたときも、「まぁ酔っ払いは放置でいいか」とみんな思っていたんじゃないか。ちなみに私は貧血かなにかだった。

そもそも、自業自得で物事を片付けるのは危険だ。人生なんて自業自得の繰り返しだし、自業自得でも、助けが必要なときもある。

だから渋谷の路上でファミマの袋に嘔吐している酔っ払いを助けました

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渋谷の路上でファミマの袋に嘔吐している酔っ払いを助けたあとの気持ちは、渋谷の路上でファミマの袋に嘔吐している酔っ払いを横目で見ながら通り過ぎるよりも、晴れ晴れとしたものだった。

なんとなく東京という街に人間性をすこし取り戻したような気すらした。

「この人大丈夫かな」と思った際には、気にしつつ通り過ぎるよりも、ぜひ手を差し伸べることをおすすめしたい。そのとき助けているのは、未来の自分自身かもしれませんよ…

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