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ジュエリーは自己表現:ジェンダーの流動性から考えるジュエリーデザインの再考察

ジュエリーは、金属と宝石などを使ったエレガントな表現で、古代から「守護」としても身につけられており、本来、男女問わないものです。しかし現代では、ジュエリーは宝石が華やかに輝き女性を美しく見せるものとして、主に女性向けに販売され、多くは女性が身につけてきました。

しかし近年、男性モデルやセレブリティがバロックスタイルのイヤリングやパールのネックレス、装飾的なブローチやダイヤモンドなど、より印象的なジュエリーを身に着けているのを目にすることが増え、メンズジュエリーへの関心が高まってきています。

男性らしさを司るファッションコードが緩み、従来の男性ファッションと女性ファッションの境界線が曖昧になり、男性がジュエリーにアクセスすることがますます自由になってきているように感じます。

ジュエリーは自己表現のためのものです。

ジェンダー、いわゆる社会的意味合いから見た男女の性区別に対する考え方は変わりつつあり、この多様性とインクルージョンの新時代は、ジュエリーデザインの世界にも顕著な影響を及ぼしています。

創作プロセスにおいてジェンダーの概念を取り除くことで、私たちを取り巻く流動的な世界を映し出す、まったく新しいカテゴリーのジュエリーが誕生したのです。

性別にとらわれないジュエリーデザイン


ここ数年、メンズジュエリーの進化は目覚しいものがあります。これは、あらゆる分野でジェンダーについて、生物学的な特性によってその人の社会的な役割や在り方を決められるべきではないし、必ずしも一致するものではない、という考えがより広く、より良く理解されるようになったことへの自然な反応だと考えられます。

ジェンダーは、「男性だから・女性だから」、と枕詞がついて「こうあるべき」姿として、それぞれが所属する社会や文化から規定され、表現され、体現されます。それは、服装や髪形などのファッションから、言葉遣い、職業選択、家庭や職場での役割や責任の分担にも及び、更に、人々の心の在り方や、意識、考え方、コミュニケーションの仕方にまで反映されます。

「第70回 性差:ジェンダーとセックスの違い」国際平和協力本部事務局(PKO)

ジュエリーデザインも、よりオープンマインドで、あらゆるものからラベルを取り除こうとする姿勢が必要に感じます。

ジェンダーが曖昧になるにつれ、デザイナーの中にも考え直す人が出てきました。もはや特定の性別のためにデザインしている場合ではありません。デザインは男女兼用であることが重要です。

実際に、男性と女性の両方を意識してデザインされることも多くなり、フェミニンなデザインでもマスキュリンなデザインでも、誰でも選択できるようにサイズの幅を広げて提供するなど、両方にアピールするためにデザインが微調整されています。

ジェンダーレスなデザインや考えが増えて、男性も女性も自分らしく自分が着たいようにジュエリーを身につけて、自分らしさを自由に表現できる幅が広がったら、みんなの幸せ指数も上がる気がします。

男性に焦点を当て、ファッションモデルやセレブリティのジュエリージュエリースタイリングの一端を見てみましょう。

メンズセレブやメンズモデルのジュエリースタイル


メンズジュエリーの最近のトレンドは、ブレスレットの重ね付けから始まり、ブローチを経て、今では特にレッドカーペットに登場する男性が本格的なネックレスや拳いっぱいのカクテルリングを身につけ、しかもそれが上品で個性的に見えることです。

ヒップホップは「モア・イズ・モア」の雰囲気を与え、大きな影響力と力を与えてきました。グッチ・マネ(Gucci Mane)、スウェイ・リー(Swae Lee)、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)などの男性ラッパーが、レッドカーペットでパールやクリスタルのネックレスを自信たっぷりに重ね付けし、このトレンドの勢いを増しています。

イギリス出身のミュージシャン兼俳優ハリー・スタイルズ(Harry Styles)がパールジュエリーを身につけて登場したときは相当話題を呼びましたし、

アメリカ出身のポップ・ロックバンドのジョナス・ブラザーズ(Jonas Brothers)のパールのネックレスのスタイリングもとっても素敵です。


🔽 ハリー・スタイルズ(Harry Styles)パールジュエリー


🔽 ジョナス・ブラザーズ(Jonas Brothers)のパールジュエリー


このように男性のジュエリーのスタイリングを見てみると、これまで言われていたような、いわゆる「男らしい」ジュエリーという概念に縛られることはないと気付かされます。

これまで男性が身につけるジュエリーと言えば、基本的な結婚指輪や大型時計、シグネットリングや革紐のネックレス、カフスなどに限る、というような古風な意見にはとらわれなくていいのです。

ジュエリーやファッションにルールはない!


ミレニアル世代の消費力とジェンダー認識


また、ミレニアル世代の消費力の高さも、デザイナーの考えを変える背景にあります。

ラグジュアリーとファッション業界を専門とする Claudia D'Arpizio は、Y 世代は消費全体の 30%を占め、Z 世代(1995 年から 2010 年生まれ)と共に過去 12 ヶ月のラグジュアリーの成長の85%を生み出したと述べている。

Gens Y and Z Are Buying Lots of Luxury Stuff After All: The New York Times

若いバイヤーが高級品の売り上げに影響を与えていることを示すレポートとともに、LGBTQコミュニティが拡大し、より可視化され続ける中、

アメリカで行われた2021年度のAccelerating Acceptance(受容の加速度)調査によると、多くの人が性別が2つ以上あること認識しており、トランスジェンダーやノンバイナリーの人々が今後も生活の中で目につきやすく、身近な存在であることを理解していることがわかりました。

Accelerating Acceptance 2021

非LGBTQアメリカ人が、LGBTQコミュニティが一つの均質なグループではなく、ジェンダーやセクシュアリティを超えた様々なアイデンティティを持つ多様なコミュニティであることをより理解しつつあり、

さらに、より多くの若い世代が従来の性別のラベルを拒否しており、2016年の調査で質問した18歳から34歳のうち20%が社会的に流動的、クイア、両性愛者、汎性的であり、12%がトランスジェンダーまたは性別不詳であると自認していることが示されています。

しかし、可視性の拡大には、受容のための新たな課題が伴います。

世論調査の驚くべき結果によると、LGBTQの人々は2021年に前年よりも高いレベルで差別を経験したと答えており、LGBTQの回答者の10人に6人が性的指向および/または性自認に基づく差別を報告しています。

2021年度の調査は、LGBTQコミュニティ全体の多様なアイデンティティと同様に、可視性と表現、特にトランスとノンバイナリーの人々に対する責任あるニュアンスのある描写を促進するための教育の機会や再度のコミットメントが必要であることを明らかにしています。

「女性的」「男性的」と分類するジェンダー規範:男性と女性がどのようにあるべきで、どう行動し、どのような外見をすべきか、という性別に基づいた行動を永続させるような時代遅れのルールを課した考えから脱却し、

ジュエリー業界も、ファッションや文化全体に内在するジェンダー規範の概念や伝統に疑問を投げかけ、ジェンダーに基づくジュエリーの概念そのものを現代に即して考え直し、修正する努力が必要です。

ジェンダーニュートラルなジュエリーコンセプト


ところで、このメンズジュエリーの人気は一過性のトレンドなのでしょうか?

近年、世界的にジェンダーやセクシャリティに対する考え方が急速に変化していることを考えると、トレンドから、より永続的なものへと変化しているように感じます。

すでに、多くのブランドが男性向けのフルコレクションを発表するなど、この変化に対応しているのがわかります。

しかし、この波は単に男性向けのジュエリーをより多く作るということではなく、ジュエリーから性別のレッテルを完全に取り除き、大きな宝石やステートメントピース、クラシックでかわいらしいジュエリーを身につけるのは誰か、という考えを揺さぶることなのです。

男性、女性、ノンバイナリー(男性でも女性でもない性別認識)を問わず、ジュエリーを愛するすべての人が身につけられるような作品を制作したり、身につけたいものを身につけやすい環境そのものを提供する、など、

ジェンダーニュートラルなジュエリーを提供することで、ジェンダーの固定観念の再定義を目指すことができます。

性別でジュエリーを決めるべきではないし、ジュエリーで性別を決めるべきではないのです。

コスチュームジュエリー市場と男女比


世界のコスチュームジュエリー市場は、長年にわたって高い需要があります。市場規模は、2027年には7.80%のCAGR(年間平均成長率)で成長し、597億ドルに達すると推定されています。

コスチュームジュエリー市場の分析によると、現状女性セグメントが最大の収益を上げ、今後もこの傾向が続くと予想されますが、男性用ジュエリーの需要も増加しており、さらなる進化を遂げています。

男性セグメントは、世界のコスチュームジュエリー市場の予測期間を通して最高のCAGRで成長すると予想される主な理由は、

  • 強い美意識を持つメトロセクシャル男性*の増加

  • 男性用ジュエリーへの受け入れの増加

  • ボリウッドやハリウッド俳優などのインフルエンサーによるセレブリティ文化の上昇

が挙げられます。

*『メトロセクシャル』の解説
メトロセクシャルとは1994年にイギリスのマーク・シンプソンが作った造語で、"metropolitan(都会人)"と"heterosexual(異性愛者)"の合成語である。メトロセクシャルを簡単にいえば「都会に住むお洒落な人」ということになるが、お洒落というよりは一歩突っ込んでファッションやスキンケアに気を使う男性をさす。ただし、ゲイや女装を趣味とすることとは違い、あくまでも男性としてのケアである。

日本語俗語辞書
Costume Jewelry Market by Gender


ジュエリーは、現代社会では誰もが身につけることを選択できるものであり、自己表現の手段の一つとして重要なものです。

しかし、「女性的なジュエリー」、「男性的なジュエリー」と2分類されていて、「性別に関係なく身につけられるもの」としていないことが問題になっています。

そもそも、人はなぜジュエリーを身につけるのか。を考えると、ジュエリーを身につけるのに性別は関係ないことに気づきます。

人はなぜジュエリーを身につけるのか?


ジュエリーは自己表現のためのもの

ジュエリーは自分らしさを表現するのに役立つと思っています。例えば、同じ洋服を着ていても、合わせるジュエリーで印象は変わります。それによって、気分も変わります。

ジュエリーを身につけることで、自分自身を表現することができるのです。

「華奢で繊細なジュエリーは女性が身につけるものであり、男性が身につけると何か変だと判断される」、などそんなステレオタイプに囚われることなく、人は自分を笑顔にさせるもの、力を与えてくれるもの、自分を表現できるものを身につけるべきです。

ジュエリーを身につけることは、性別に関係なく、個性を表現したり、人生の特別な瞬間を刻むのに最適な方法なのです。


ジュエリー界のハイエンドブランドも注目

ジュエリー界のハイエンドブランドもジェンダーニュートラルなジュエリーに注目しています。

ブルガリでは、同社のクリエイティブ・ディレクターであるルチア・シルベストリ氏が、幾何学的なB.ZERO1リングが性別の垣根を越えて売れていると語っています。

このブルガリのB.Zero1ロックジュエリーを皮切りに、ジュエリーの未来がますますジェンダーニュートラルになることを明確に示しています。1999年のデビュー以来、男女を問わず人気を博してきたブルガリの「B.ZERO」コレクションに、新たに加わったチャンキーなジュエリーは、スタッズの列がアイコニックなジュエリーに新鮮なエッジを与え、トゲのあるアティテュードを吹き込んでいるのです。また、ブルガリ初のユニセックス仕様となっています。

ティファニーは男性のためのエンゲージリング・コレクションを発表し、
ブシュロンはクリエイティブ・ディレクターとCEOの2人の女性が率いる会社ですが、男性のためのハイジュエリーを提唱し、現在ハイジュエリー・コレクションの50%を男性が購入しています。

性別に関係なく、気に入ったものがあれば身につける、という包括的なメッセージは明確です。


筆者が運営するジュエリーブランドthree x seven Jewelry(スリーバイセブンジュエリー)でも、エシカル素材で作られたジェンダーニュートラルジュエリーコレクションを展開しております。

 three x seven Jewelry ジェンダーニュートラルジュエリーコレクション

使用素材
⚫︎労働者の生活向上や労働環境の改善を目的にフェアトレードされた素材
⚫︎「紛争ダイヤモンド」や「紛争鉱物」ではない =「コンフリクト・フリー」の宝石類・金属など
⚫︎リサイクル金属:SCSグローバルサービスの100%リサイクル金属の認証を受けた金属(SCSグローバルサービス:グローバル・スタンダードに準拠した環境および持続可能性に関する第三者認証および規格開発の国際的な組織)

また、生物分解性、再生可能、ECO認証を得たパッケージを使用しており、売り上げの一部は、環境活動や社会問題の解決に取り組む組織に寄付されます。

ルネサンス期やマハラジャのジュエリー


実はファッションと同様、ジュエリーにおけるジェンダーレスのコンセプトは新しいものではありません。

皆さんは、ジュエリーがその昔は男性を飾るものだったことご存知でしたか?ルネサンス期の肖像画を思い浮かべると、そう言えばそうかと思い当たる方も多いかもしれません。

宝石が施された王冠やネックレス、ガードルなどは、王様や王子、権力者、戦士の特権でした。肖像画を見ると、ヨーロッパでは主に男性がジュエリーを身に着けていたのがわかりますし、また男女を問わず貴族がジュエリーを身につけて地位や権力をアピールしていました。インドではマハラジャ(王様)のジュエリーがマハラニ(王女)のそれを凌駕するのが普通だったのです。

今からは想像できないほどゴージャスな装いです。

『英国王ヘンリー8世の肖像』(1536年頃)
帽子に宝石をあしらっていたり、長いチェーンに宝石を付けたネックレスや指輪を身につけている
出典:アンティークジュエリー ルネサンス
イングランドの貴族・初代バッキンガム公ジョージ・ヴィリアーズ肖像画にも、
幾重にもなった真珠が飾られている

太陽王ルイ14世はダイヤモンドのボタンをあしらったコートを身にまとい、18世紀から19世紀にかけての貴族男性にはタイピンが欠かせませんでた。

1920年代、パティアラのマハラジャはカルティエに特別な依頼をし、5本のラディ(鎖)と首輪に2,930個のダイヤモンドをセットしたパティアラ ネックレスが完成した。ビルマ産のルビーも数個付いている。出典:Daily Times


つまり、男性のためのジュエリー自体は何も新しいことではなく、自己表現の自由に関することで、より強く、より魅力的にするためにジュエリーや装飾品を使っていました。

今は権力の象徴としてよりも自己表現のひとつへと変化しています。

今日の男性のジュエリーの大流行は、固定観念の崩壊とジュエリーのルールの解放であると感じます。

まとめ


世界で急速に浸透してきている「ジェンダーニュートラル」に対するマインドですが、これはファッションにおけるジュエリーとの間においても、必要な概念でしょう。

ジュエリーは性別によって分けられるものではなく、誰もが身につけることを選択できるものであり、自己表現の手段の一つとして重要なものです。

今では、権力や宗教上の意味合いで着けるよりも、毎日のファッションとして自分をより輝かせるために身につけるものとなっているジュエリー。毎日をよりハッピーにしてくれるジュエリーは、性別関係なく、現代を生きる人たちの強い味方となってくれるはずです。

Z世代(性別に関係なく成長したミレニアル世代以降)が次のラグジュアリー消費者層となり、メンズウェアとレディスウェアの境界がますます曖昧になるにつれ、ファッションの世界も変わりつつあります。

性別にとらわれないジュエリーは、きっとこれからも存在し続けるでしょう。

そして現代社会においては
生物学的性差 (sex) は文化的社会的性差 (gender)とイコールとは限らない
ということが浸透し、もはや話題にもならないほど当たり前のことになっていたらいいなぁと。思っております。



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