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天才少女の爪あと②

実際の芸能界にも" 共演者キラー "と呼ばれる俳優さんがいるようですが、北島マヤも間違いなくそれです。

前回に続きマヤと共演者たちについて書いてみます。

case3 : ユリジェス役の俳優
芸能界復帰を目指すマヤは、オーディションで大きな役をつかみました。

それが舞台「ふたりの王女」です。
王女オリゲルドを姫川亜弓が、マヤは天使のような王女アルディスを演じます。

今回のマヤの共演者は、アルディスを支える青年貴族、ユリジェス・ランスベルイを演じた俳優です。
この人、名前がありません。

この漫画の作者は、どんな小さな役でも登場人物にはたいてい名前を与えています。
この舞台の序幕にしか出ない役者もフルネームで紹介されているのに、マヤの相手役という大事な役どころの彼がなぜ名無しなのでしょう。不思議です。

「ふたりの王女」は大劇場で巨額の予算を投じられた豪華な舞台のようです。
漫画の中でも、稽古から初日のカーテンコールまでを実に700ページ弱にも及ぶ尺をとって丁寧に描かれています。それなのに名前がもらえない彼が不憫です。

そもそもこの舞台、マヤは彼が眼中にないようにすら見えます。ラストでは結ばれるふたりなのに。
マヤはほとんど亜弓さんしか見ていません
天才のマヤと、努力のひと亜弓さん。このふたりの関係の前には、他の役者など吹っ飛んでしまうのでしょうか。

作者とマヤから塩対応されたユリジェス。このイケメン俳優は終始そつなく演技しますが、唯一セリフを飛ばしそうになったシーンがあります。
アルディスの天使のような微笑みにみとれ、他の役者から「おい!」とこづかれて我にかえるのです。
やはりマヤは共演者キラーです。

case4 : 桜小路優さくらこうじゆう
マヤと彼を単なる共演者と呼べるほど、ふたりの関係は単純ではありません。
例えるなら「おかえりモネ」のモネとりょーちんのような関係でしょうか(異論は認めます)。

小説や漫画のヒロインは最初は優しい正統派好青年に惹かれることが多いですが、往々にして結ばれません。「キャンディ♡キャンディ」のアンソニーしかり、「風と共に去りぬ」のアシュレーしかり。ヒロインをかっさらうのは少しクセのあるダークホース的男性です。

この漫画におけるダークホースは速水真澄です。初登場からしてそれは明らかです。豪華な劇場で、花とフラグをしょってマヤとぶつかる初対面シーン。
一方正統派な桜小路は、マヤが番犬に襲われた時にぬるっと登場し、いつの間にか知り合っています。
最初っから作者の力の入れようが違います。

マヤの初めてのボーイフレンドと言えば桜小路で間違いないのに、その立場すらも"初恋宣言"をした里美茂に奪われてしまいました。
どこまでもついていません。

でも彼は頑張ります。マヤから台本読みの相手しかさせられなくても。読者から「ウザい」と思われても。

そして、知り合ってから何年も経ってようやくつかんだマヤとの初共演。
「忘れられた荒野」で、マヤ演じる狼少女を教育する青年学者の役です。
もともと才能ある役者ですから、マヤとも息ぴったりの演技をして舞台を成功に導きます。

しかし、彼の役者人生のゲージが上がるのに反比例してマヤとの関係が微妙になります。どんなに鈍くても感じてしまう、マヤと速水社長の間にダダ漏れている何か。桜小路は焦ります。

彼は、マヤさえ諦めることができれば役者としてもひとりの男性としても幸せになれたのではないか。そう思います。
そうすれば、バイクで事故ることもなかっただろうに。土産物屋でイルカのペアネックレスを買って、読者を「うわぁ…」と引かせることもなかっただろうに。

でもそれを許さないのが、マヤが魔性の女優たるゆえんなのかもしれません。
お大事に、桜小路くん…。


「番外編」に続きます。

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