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【読書日記2】 同志少女よ、敵を撃て


先日の記事で、私は直木賞や本屋大賞系の小説を好んで読む、ということを書いた。

それは事実であるが、それしか読まないということでは決してない。受賞歴に関係なく好きな作家さんはたくさんいる。

ただ、読んだことのない作家さんに興味をもつのが「◯◯賞ノミネート!」などとメディアに取り上げられることがきっかけであることも多く、自然とそのような方向性になるようだ。

第11回アガサ・クリスティー賞。
選考委員全員が満点をつけ、大賞受賞。

この賞始まって以来の快挙に、誰だ? どんな小説だ? と、心が躍った方も多いだろう。
2021年8月に受賞が発表され、同年11月に発売されたこの本を、私もようやく読むことができた。


著者の逢坂冬馬さんは、受賞当時35歳。
仕事のかたわら新人賞への応募や小説投稿サイトでの執筆活動をされていたようだ。

受賞から発売までの3ヶ月間で怒涛の改稿が行われたと思われるが、なんといっても満点での受賞である。投稿時点でどれだけの完成度だったのだろう。巻末の参考文献一覧を見てもその難度が想像でき、編集者の助けもなく一人でこの小説を書き上げられたことにただ驚嘆する。


この小説の舞台は、第二次世界大戦中のソ連。モスクワ郊外の農村で暮らす少女セラフィマが主人公だ。

16歳のセラフィマは、母親と一緒に狩猟で生計をたてていた。成績優秀な彼女はモスクワの大学への進学が決まっており、将来は外交官になることを夢みていた。

そんな彼女の日常は、1日にして地獄に突き落とされる。

余談だが、この作品が映画だったら私は開始10分でリタイアしたと思う。小心者の私は、映像ではホラーやバイオレンスなどの怖くて残酷なシーンを観ることができないのだ。
不思議と活字であれば読むことができるのだが、この小説はそれでも何度か薄目で読んだことを白状しておく。

生まれ育った村がドイツ軍に襲われ、村人と母親を殺されたうえ、味方のはずのソ連赤軍に家と母親の遺体を焼かれたセラフィマ。
呆然とする彼女に、やがて彼女の上官となる女性兵士が選択を迫る。

お前は戦うのか、死ぬのか!

『同志少女よ、敵を撃て』39ページより引用


ここでいう「戦うか死ぬか」は、生きるか死ぬか、の二択ではない。
死ぬのを覚悟で戦うか、それとも今ここで死ぬか、である。

前者を選んだセラフィマは、その女性上官イリーナのもとで厳しい教育を受けることとなる。
女狙撃兵として。殺人兵器として。

これから先のあらすじについて、残念ながら私の力ではうまく書くことができない。

世界史に残るほど過酷な「スターリングラード攻防戦」と「ケーニヒスベルクの戦い」をセラフィマがどう戦ったのか。彼女にとっての「敵」とはなんだったのか。
目を背けたくなるような展開の中でもページをめくる手を止めさせてくれない著者の筆力は圧倒的だ。

「怖そうだけど読んでみようかな」と思われた方は、なんとかエピローグまで読み進めてほしい。

そして、第二次世界大戦中のソ連に10代の女性狙撃兵が実在したこと、この作品の陰惨な場面は決してただのフィクションでないことを、私も心に留めておこうと思う。


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