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パラレルワールド

※これも一応ガラスの仮面ネタです。

「エロイカより愛をこめて」
という漫画をご存知でしょうか?

作者は "花の24年組" と言われた青池保子さんで、ガラスの仮面と同じ年に始まった長編漫画です。
あ、24年というのは平成ではなく昭和ですね。念のため。

少女漫画のカテゴリーに入る作品とはいえ、その範疇を大きくはみ出たスケールの大きな漫画です。

女性が描いたとは思えないほどの精密な武器や戦闘機、無骨で硬派な主人公をはじめ男性ばかりの登場人物、確かな考証に基づきながらもコメディとシリアスのバランスが絶妙なストーリー。
高校生のとき、どハマりしました。

クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐。
NATO軍の情報将校です。
「鉄のクラウス」の異名をとり、旧ソ連KGBをはじめとする東側諸国と情報戦、時には実戦を交えます。
舌をかみそうな名前ですが、ファンは皆スラスラ言えるはずです。

かたや、ドリアン・レッド・グローリア伯爵。
美しい美術品とエーベルバッハ少佐が大好きなイギリスの泥棒貴族です。

高校時代、この漫画で東西冷戦を学び、アルファベットのドイツ語読みも完璧に覚えました。

しかし。
ご存知のとおり、東西冷戦は1989年に終結しました。
少佐の永遠の敵であったはずのKGB(カーゲーベーと読みます)も解散しました。

東西冷戦はこの漫画の根幹をなすところです。
この設定がなくなれば、少佐の存在意義すらあやうくなる。
さて作者はどうするのか?

約10年の休載を経て、エーベルバッハ少佐はロシアの赤の広場に降り立ちました。
かつての敵である旧KGBのスパイ達と並んで。
冷戦時代ならばありえないシーン。
冷戦後の新しい世界情勢を土台とした新章のスタートです。

少佐や伯爵は年をとっていないっぽい容貌のままですが、この切り替えのおかげで、この漫画の中だけは冷戦が続くといったパラレルワールドに陥らずにすみました。
(でも冷戦時代のほうがはるかに面白かった…残念。この話は機会があればまた)

さて、ここからようやくガラスの仮面ネタです。

前にも書いたとおり、この漫画は雑誌連載時とコミックス版とでストーリーが違うことがあるそうです。
雑誌に載ったもののコミックスに収載されず宙に浮いたエピソードも数多くあるとか。

闇に葬られたエピソードの中では、登場人物たちはコミックス版とは違うストーリーを生きているのでしょうか…?

そして、いわゆる "サザエさん現象" 。

舞台「忘れられた荒野」初日。
あの台風の日ですね。
その日、自宅から電話で話している紫織さんが握っているのは、ダイヤル式黒電話の受話器です。
間違いなく昭和です。

それから1年経つか経たないか、くらいのはずの文庫版第24巻以降。

桜小路くんは携帯(ガラケー)を使い、自宅にはパソコンらしきものもあります。
テレビは地デジっぽいです。

大都芸能の社長室のデスクにもノートパソコンが置かれ、真澄さんはスマホを持っています。
マヤが携帯を持つシーンはありませんが、持っていることを示唆する描写は出てきます。

この数ヶ月の間に、日本に産業革命でも起きましたか?

このストーリー上の数ヶ月の間、実際には10年以上の長期休載がありました。
再開にあたり、作者は休載前と同じ時代設定のままで描くか、実際の世情に合わせるかを迷われたかもしれません。
結果、後者が選ばれ読者の突っ込みどころとなってしまいました。

しかし、携帯を持っているはずなのに、マヤと真澄さんが携帯で話すシーンは出てきません。
両思いとなってからも。
おかげですれ違いっぱなしです。

やはり彼らはパラレルワールドを生きているのでしょうか…。

「エロイカより愛をこめて」エーベルバッハ少佐。

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