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#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

第85回フリーワンライ 消しゴムじゃ消せない

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

お題:消しゴムじゃ消せない

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風に揺られる前髪を見上げ、そっと手でおさえる。
しかし手を離せば、また前髪は舞い上がる。
風の入り口となる窓が目の前にあるのだから、当たり前のことだ。

私は窓を閉めたくはないのだけれど、同乗者が寒そうに顔をしかめるものだから、仕方なしに窓を閉めた。

「そんなに寒い?」

私の問いに彼は首を

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過呼吸は君のキスで(フリーワンライ)

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
テーマ:過呼吸は君のキスで

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初恋はかなわない、という。しかし、それが本当かどうかは誰も知らないはずだ。もちろん、わたしも。

「新しいリップクリーム?」

前の席に座る乙葉がパックジュースを机の上に置きながらわたしにそう尋ねた。

昨日買ったばかりのリップクリーム。まだ高校生だから化粧はしなくていい、といわれるけれど何もしないのはなんとなく味気ない気

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古本屋で雨宿りを

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
お題:雨宿り

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 春が過ぎ、夏にさしかかる前。梅雨、というのが浅香は苦手だった。雨の匂いは好きだが、実際に降られると足は濡れる、かばんは濡れる、プリントなんかを入れようものなら無残な形になる。

「雨の日は閉じこもるに限る!」

浅香は窓の外を一瞥した後、カーテンを勢い良く閉めた。今日は休日だが、両親はでかけており、部屋の中には彼女だ

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第52回フリーワンライ ひとりでいる理由

伸ばした手
偶然、3回続けば必然
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

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僕は、いつからか一人だった。
いや、最初から一人だった。

記憶というものは本当に不思議で、
覚えているはずのことを忘れていたり、
忘れたとばかり思っていたことを覚えていたり――忘れたいと思っていることをずっと覚えていたりする。

だから、君が僕に笑ってくれた時、体の中で何かが音を立てた。

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