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ワンダーランドの手記

ーーー此処は暮れ泥むトワイライトに照らされた小さな部屋で、寧ろそれは地下室と呼ぶべきかもしれない。けれどこの僕には珍しく暖色で書き留めたいひかりが机をぼおと包むので、やはり此処は未だ地上だった。これは終わってゆく世界で、いつか海に漕ぎ出したぼろぼろの小舟は、先頭を波を踏んで歩いた馬のあとを追うようにじわりじわりと沈んでいった、馬のきれいなたてがみが塩水で固まった様を僕は見た。でもどうすることもできなかった。世界はそういう風に進むことを選んでいた。ワンダーランド。草むらの五月の繁りに、僕等身を投げ出して、鴎が手紙を咥えて毒に咽ぶのを見ていた。そう、そしてそれが僕からの手紙だった。穴が空いた。ある日、地面に無数に穴が空き始めた。女の人などは皆怖いこわいと言ったけれども、そんなものはこのワンダーランドの抱える黒い暗渠の一部にも満たない。仮面のことを覚えている?僕等はモノクロームの仮面をひとつだけ、何ヶ月もかけてみんなの父の葬儀の為に作った。音楽を聴きながら、僕は墓の周りをぐるぐるとステップを踏んで歩いた、それは衛星に近い動きで、僕は宇宙にも行くことができた、チケットはあった、でも君を選んだ。しろい暗雲が垂れ込めた。君はそれをスケッチする。ワンダーランドは死に満ち満ちてひかりを放っていた。僕等は此処で生まれ、此処で死ぬ。太陽の色の名前は自分で選ぶ。そうだ部屋の話だったね。この小さな部屋には机とベッドと無数の紙しかない。紙には君の描いた偶像がある。生け贄を差し出そう、ワンダーランドの美しい終わりに、辞書を引くように、儀式とはそういうものなんだ。葬式をしよう、僕等だけで。モノクロームチントクールの味がした。

君の描いた偶像

おたすけくださひな。