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一人で組み立てるのはたいへんだから

 夕方帰宅するとエレベーターホールの脇に大きな段ボール箱が六つ無造作に置かれていた。北欧に本社のある家具店から届いた荷物だった。この店で売られている組み立て式の家具は、デザインもそれほど悪くないし、値段も手ごろなので木寺はよく購入している。
 以前は同じ社宅に住んでいる同僚たちとレンタカーを借りて店頭へ出向いていたが、大きな箱をマンションの各階まで運ぶのが面倒くさくて、最近はこんなふうに通信販売を利用することにしていた。
 何度も店頭で見ているし、ネットのカタログもしっかりしているから、現物を見ないまま購入することにたいして不安はない。
 今日届いたのは高さが三メートル近くある巨大な書棚で、壁一面が蔵書で埋まった様子を想像した木寺は満足そうに頷いた。
「問題は」
 息を切らしながら大きな箱を次々に部屋の中へ運んでから、木寺は腕を組んだ。
「組み立てだな」
 ソファやサイドテーブルくらいならまだしも、この書棚一人で組み立てるのはなかなか面倒くさそうだった。
 ポケットからスマートフォンを取り出し、メッセンジャーに入力を始める。
――今日このあとって時間ある?――
 そう書いて送信ボタンを押した。
――ありますよ――
 メッセージを送った先は二つ下の階に住む後輩の能雅で、部署こそ違っているものの、妙に気の合うところがあって、よくいっしょに遊んでいる。
――本棚を組み立てたいんだけど、手を貸してくれないか?――
――いいですよ。すぐ行きます――
――ありがとう。よろしく――
 木寺はスマートフォンをポケットへ戻すと、冷蔵庫から取り出した牛乳パックにそのまま口をつけて飲み始めた。
 ガタン。金属製の玄関ドアが大きな音を立てる。
 牛乳パックを手にしたまま木寺は玄関を覗いた。
「ん?」
 三和土に手が二つ転がっている。どうやら新聞受けから投げ込まれらしい。
「おいおいおいおい」
 木寺は玄関の手を両方とも拾い上げて、ダイニングへ戻った。テーブルの上に置くと二つの手は恥ずかしそうに指先をモジモジとさせている。
「あいつは、そういうところがそそっかしいんだよなあ」
――悪いけど、手だけじゃなくて体も貸してくれないか。本棚の組み立てなので――

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