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必ず連絡が来る

illustrated by スミタ2022 @good_god_gold

 配属されたばかりの新人たちを見ながら宅羽は分厚い眼鏡をかけ直した。
「ここはね、社内のトラブルを最終的に解決する部署なの」
 そう言いながら片手で室内を紹介するような仕草を見せる。
「何かトラブルがあると、いろんな部署があれこれと対処しようとするんだけど」
 三人の新人は黙ったまま宅羽をじっと見つめている。
「とどのつまりは必ずここに回ってくるから」
 宅羽はしかたがないとでも言いたげな顔をして軽く肩をすくめた。
「課長、井塚専務から連絡です」
 デスク一つ離れたところから部下の汐樋渡がひょいと首を伸ばす。
「とどのつまりです。四階フロアの排水口に、とどが大量につまっているそうです」
「ほらね。とどがつまると必ず連絡が来るのよ」
 宅羽はにっこりと笑ったあと真剣な顔つきになって、部屋の中に向かってパンパンと両手を二回叩いた。
「さあ、みんな。それじゃ行くわよ。ちゃんと網を持ってね。あと、クーラーボックスも忘れないで。ほら、あなたたちも行くのよ」
 新人たちにそっと顔を近づけた宅羽は、低いけれどもはっきりとした声で言った。
「こういう場合、だいたい原因は嘘から始まるの。駄ボラならまだいいんだけど、どの部署でも誰かの大ボラをそのまま放置しておくと、とどになっちゃうのよ」
 そうして、何かを諦めたようにゆっくりと首を左右に振った。


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