壺の国
illustrated by スミタ2022 @good_god_gold
三十年以内に我が国は鎖国する。
此の政策が発表された当時はまだ子供だったこともあり、此は冗談なのだと思っていたが、年々、日に日に各方面での準備が整えられるに連れ、どうやら此は冗談ではなく本当に政府は鎖国をする積りだったかと、比嘉隆も漸く理解したのだった。
封鎖される国境には、此の先何者も出入りできぬよう高い壁が設けられることが決まった。海に囲まれた島国の国境は全て海中にある。領海基線から沖合にきっちり十二海里の位置に巨大な鋼鐵の板が次々に並べ差し込まれると、軈て海は分断され、魚類の行き来すら困難になった。
勿論、鋼鐵で遮られたのは海だけでない。政府は鋼鐵の壁を何処までも高く高く継ぎ足し、遂に領空をも遮断した。よもや鳥も航空機も此の壁を越え来ることはない。
何故莫大な費用を投じて国全体を巨大な鉄壁で囲い鎖国したか。何の為に人の出入りを禁じたのか。比嘉は何度も首を捻ったが、むろん答えは解らず仕舞いであった。
此の儘では、何れ此の国で育つ者は外来世界を一切見ることなく、此の国だけが唯一の世界と信じるようになるだろう。
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