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男たちは強制する

illustrated by スミタ2023 @good_god_gold

 駅前のバスターミナルで自分をぐるりと取り囲んだのは、まちがいなくその筋の男たちだと井間賀にもすぐにわかった。やたらと派手なアロハシャツを羽織って大仰な金色のネックレスを何本も掛けている男の横には、黒々とした入れ墨を見せつけるようにジャージの袖を目一杯まくり上げている痩せた男が立っている。
 細い縦ストライプの入った高級そうなスーツを着てサングラスをかけている年配の男の後ろには同じくスーツ姿だがこちらは派手なだけの安物をラフに着ている若い男が数人並び、黒いキャップを目深に被っているヒットマン風の男には一切の表情がなかった。逆に典型的な和装を身に纏った大柄な男の目は異様な鋭さを帯びている。大物からチンピラまで勢揃いだ。この十人ほどの男たちだけで、その筋の格好をぜんぶ揃えた展覧会が開けそうだった。
「なあ、お兄さん」
 ジャージの男は井間賀のすぐ前に立って上半身をくいっと捻ると、下から井間賀の顔を見上げるようにして言った。
 やっかいなことになってしまった。井間賀は首の後ろにつうっと汗が垂れ落ちるのを感じた。ここまであからさまに悪そうな集団も珍しい。きっと映画か何かの撮影に向かう悪役俳優たちなのだろうと物珍しげに見ていたら、一人と目が合ってしまったのだ。
「時間あるか?」
 ジャージは顔を左右に揺らしながら聞く。
「すみません、用事があるので」
 こんな連中に関わったら終わりだ。井間賀は慌てて男から目をそらし、まるで改札口で待ち合わせをしているかのように駅へ視線を向けた。
「ちょっとだけでええんやけどなぁ」
 和装の男が柔らかくねっとりとした口調で言う。でっぷりとした見かけによらず声は高かった。
「いや、あの、すみません」
 井間賀はできるだけ自然に見えるようにぺこりと頭を下げ、その場を立ち去ろうとした。
「おお、待てや」
 歩き出そうとした井間賀の目の前にアロハ男が両手を広げて立ち塞がる。ジャラジャラと鈍い金属音が耳に届く。アロハは首だけではなく腕にも金色のチェーンやら数珠やらを何重にも捲いていた。
「俺たちが時間くれって言ってんだよ」
「え、あ、はい」
 井間賀の体が強張った。時間はあるかと聞かれただけで、時間をくれとは言われていない。けれども、うっかりそう答えようものなら、何をされるかわかったものじゃなかった。
「お兄さんに見せたいものがあるんだよ」
 アロハは顎の先で井間賀の後ろを指した。釣られてつい振り返ると安スーツを着た若い男が二人、並んで立っている。
「お時間をいただけますか?」
 高級スーツが微かに首を傾けた。サングラスに隠された瞳にどんな色が宿っているかはわからないが、丁寧な言い方がかえって恐ろしかった。
「あ、えっと、少しなら」
 そう言った瞬間に井間賀は後悔していた。本当はきっぱりと断るべきなのだ。曖昧な態度を見せたらどんどんつけ込まれるに違いない。それでもこの集団を相手に毅然とした態度を保つのは難しかった。結局、人間は暴力に弱いものだし、彼らはどう見てもいざとなれば暴力に頼る男たちだった。

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