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【絵本レビュー】 『てん』

作者:ピーター・レイノルズ
訳:谷川俊太郎
出版社:あすなろ書房
発行日:2004年1月

『てん』のあらすじ:


お絵かきなんて大嫌い!苦しまぎれに描いたのは、小さな小さな<てん>ひとつ。そのちっぽけな<てん>にかくされた大きな意味を知って、ワシテは変わり始める。水彩絵の具と紅茶で描かれた、色とりどりの美しい絵本。

『てん』を読んだ感想:

「お絵かきなんて大嫌い!」
この言葉に惹かれて手に取りました。私も絵が描けなくて悩んだ子供の一人でした。でも私の小学校はある美大の付属校で、図工の時間には大学から先生や実習生が来て、特に絵画に関しては厳しい評価がされました。毎週宿題にデッサンが出され、クラス中もしょっちゅう風景画を書かされましたが、私はみているイメージがどうしても紙に表すことができず、いつももどかしい思いをしていました。私はワシテの先生のような人には残念ながら会わなかったので、結局小学校を卒業するまで絵を描くことが好きにはなれませんでした。

子供の時に先生や親から受けた何気ない一言ってとても重要なんだと改めて感じさせられた一冊でした。その子のやる気を伸ばすだけでなく、その子が他の人に対してどう接するかというところにまで影響すると思うと、ますます子供たちに対する私自身のアプローチの仕方に気をつけなくちゃなと考えさせらるのです。

そうしたら思い出したのが、私の書道の先生。先生はいつでもまずいいところを褒めてくれます。時には「おおっ、こりゃあ俺より上手いぐらいだ!」なんて言われることもあるので、図に乗りやすい私はすっかりうっとりしてしまうのですが、そこへ最後に「ここはもうちょっとだから直してみようか」なんて注意されてもがっかり具合は大したものではありません。気分はすでにウキウキなので、「かんたん、かんたん」とまた数枚書き直してしまいます。

先生が褒め上手であったことに気づいたのは、かなり大人になってから。特に自分で書道を教えるようになってからなんです。初めて教室を開いた時に、私が先生と一緒にしていた時のことを思い出して気づいたのですが、あの先生がいなければ今私は書道をしてはいなかったと思うと、先生の存在の大きさとありがたさが身にしみるのです。そして私も今、特に子供達に対してはまるで祭りの呼び込みみたいに褒めています。できてないところを指摘するのって、いいところを見つけるよりずっと簡単なんですね。改めて、先生ありがとう。


『てん』の作者紹介:

ピーター・レイノルズ(Peter H.Reynolds)
1961年カナダ・トロント生まれの絵本作家、イラストレーター。『てん』(あすなろ書房)、イラストを担当した『ジュディ・モード』シリーズ(小峰書店)『ちいさなあなたへ』『っぽい』(共に主婦の友社)など、作品は多数。米国マサチューセッツ州在住。


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