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目を引くデザインと確かな導線づくりが広げる、精神の健康へのアプローチ

10/10 世界メンタルヘルスデー

ノルウェーで目にするまで、世界メンタルヘルスデーという日があることを、私は知りませんでした。

しかも10月10日にメンタルヘルスデーに関わるイベントに参加したから知ったとか そういうことではなく、10月10日を過ぎてから、たまたま訪れた図書館で知ったのでした。

図書館には、世界メンタルヘルスデーのキャンペーンで余ったグッズやフライヤーが「ご自由にお持ちください」という形で置いてありました。
なんだろう?と思って見ていると、図書館の職員さんもわざわざ「どうぞ持っていって」と言ってくれて。

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↑図書館のメンタルヘルスに関する情報コーナー。下の段は子ども向けの本。

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↑余ったらしいグッズ:自転車のサドルカバーと、ストレス解消用のスクイーズクッション。

ポスターや小さなパンフレットのデザインがとても素敵だったのと、軽く目を通してみると、とってもやさしいメッセージが書かれていて。ノルウェー語の勉強にもなるので、これは良い!と思って、片っ端からもらえるものをもらってきました。

こういう形でメンタルヘルスについてさりげなく伝えることができるセンス、すごいぞ!!😍 最高じゃないか!!🤩 と思ったので、記録しておきたいと思いました。

誰にでも関わる精神的な問題を人々はどう捉えているか

ノルウェーに限らず、北欧は全般的にメンタルヘルスに関する発信が多いのは事実です。

1番の理由は冬場の日照時間の短さ。11月〜12月は太陽が昇らない時間が増え暗い時間が多くなるので、鬱っぽくなってしまう人、鬱までいかずともなんとなくやる気がなくなってしまう人が増え、自殺率やアルコール依存度も上がります。

日本よりはるかに人口の少ない北欧の国々(ノルウェー🇳🇴 543万人、フィンランド🇫🇮 551万人、2020年)で人的資源は貴重なので、国としては自殺に対する対策にも力を入れるようになった模様。いや本来は国とか人口に関係なく人的資源は貴重なのだけど、世界全体で国力という観点で比較するとそういう側面もある、という意味です。

それだけ精神を病むことが社会的問題として大きいにしても、やはり「メンタルやられてることは特別ではない、恥ではない」ことが、明確なメッセージとして伝わっている気がします。

国の対策としてどんなことをやっているのか、ノルウェーの友達にお願いして調べてもらいました。

ノルウェーが政府として取り組んでいる対策は、次のような内容だそうです。(私が友達から聞いたのと、自分で調べた範囲なので認識違いもあるかもしれません。)

1. 24時間対応相談ラインの開設および周知
いわゆる、いのちの電話&チャット。誰もがいつでもアクセスして相談できる。相談窓口は例えばこんな感じ。
● Mental Helse hjelpetelefon 116 123(メンタル・ヘルセ・イェルペテレフォーン)

● Kirkens SOS 22 40 00 40(シルケンス・SOS) ←教会によるいのちの電話
sidetmedord.no ←チャットによる相談が可能

2. 緊急時の駆け込み場所の周知
精神的につらいときに最初に行くべきは、fastlegen(ファストレーゲン)。いわゆるホームドクター・かかりつけ医・GPのところ。ノルウェーは住所に応じてホームドクターが割り振られる仕組みなので、怪我をしても病気になっても病気かどうかを確かめるためでも、必ず最初に自分のホームドクターの元で診察を受けます。割り振られたホームドクターが嫌な場合は替える権利もあります。

次が、legevakten(レーゲヴァクテン)。Local emergency room・時間外緊急医療対応所、という感じ。
地域の保健室、みたいなイメージなんでしょうか、指を切って血が止まらない場合にも手当てしてもらえるようなところだそうです。
その次、命に関わる場合は113へ電話。つまり、Medical emergency・救急車を呼ぶことを意味します。もちろんケースバイケースなので必ずしも救急車が来るわけでなく、救急車が必要でない場合は適切な機関へそのままケースが引き継がれます。

「精神的にきつすぎてもうダメだ、生きていけない...」と思ったときに、救急車を呼ぶ発想になるか...? 救急車なんて呼んだら怒られる気しかしないと私は思ったのですが、ノルウェーではどうせより適切な支援につないでくれるから救急車を呼ぶのもOKなんだという認識に、ちょっと驚きました。

それから、Psykisk helse- og rustjeneste(シーシスクヘルセ・オ・ルスシャーネステ、ホントは日本語では書けない)。ドラッグ中毒を抱える人がアクセスできる施設と聞きました。そこに行ってもいいそうです。

あとは民間や非営利団体でメンタルヘルスに取り組んでいる組織にも助けを求めることができます。

さらに、子どもの場合は学校で相談できる仕組みが整っています。資格を持った心理カウンセラーが学校に数人いて、ど〜んな悩みでも相談できます。また保健師さんに当たる立場の方も学校にいて、最近ちょっとあの子気になるな、心配だなと先生が思ったら保健師さんやカウンセラーと連携しながら子どもが適切な助けを得られるように支援するようです。

日本の学校にもほとんど同じ仕組みがあると思います。
ノルウェーではどれほど機能しているのか気になったので「誰かがカウンセラーに相談に行くことを、クラスのみんなは知っているの?」と友達に尋ねたら「まぁみんなじゃないけど、知ってる人は知ってるし、相談に行ってるからといって別に誰も気にしてない。実際相談に行ってた友達もいたし。」と言ってました。それくらい気軽に相談できるものなんだということがよくわかりました。

日本のキャンペーンはどんな感じ?

「世界メンタルヘルスデー」で検索してみると、厚生労働省のページはこんな感じでした。

1. 著名人による発信
これは効果的なんだと思います。
「あ〜、有名なあの人も、自分が知っているあの人も」という感覚を人々に伝えることができる。
「遠くにいると思ったあの人も悩むんだ、なんだか近くなった気がする。そうか、良かった。」
でも、割とそれに尽きている感じはある。
もしくは、芸能人やスポーツ選手はいつだって自分より過酷な状況にある、だとすれば自分の悩みなんて些細なものだ…と逆のメッセージを受け取る人もいるかもしれないな、と意地悪くも思ってしまった...すみません。

2. いのちの電話の情報提供
つらいときは、相談窓口に電話しよう。うん、大事なメッセージ。間違いない。
ただ電話番号はサイトに直接書かれているわけではなくて、一度専用のページに飛んでいかなければならない。

じゃあ結局、どうすればいいの?
いやいや… 気づいたときにはもう病んでるんだよ、気づく前にできることがあるなら困ってないわ。
知らない人に電話するくらいなら...このまま消えてしまうほうが楽かも。
私たちが病まないために普段からできることって一体なんなの?

今この瞬間、本当にきつい人たちからは、そんな声が聞こえてきそう。(ひたすら意地の悪い見方ばかりしていてすみません。)

キャンペーン側がそういう声にどう答えるかは知らないけど、今の発信からはこんなメッセージも受け取れる。
「メンタルヘルスを保つ対策は人によって違いますからねぇ。そんな個人的なことにまで責任を持てませんので。日頃からどうすればいいかは自分で考えて実行してください。」
はい、ごもっともなのです。
でもちょっと捻くれた見方をすれば、冷たく突き放された感じを受けなくもない。だからなんだか、救われた気はしない。
本当にきついとき、人は自分に何ができるかじっくり考える余裕なんてなくて、とにかく手っ取り早く“答え”だけが欲しくなるから。

具体的にどんなメッセージが書かれているかというと

ノルウェーでもらってきたグッズのメッセージはどんなものか。日本とはちょっと違う気がします。

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↑メンタルヘルスをより良く保つための5つのアドバイス

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↑ 5つのアドバイス
1. 社会的な絆を結ぼう:
誰かに一緒に散歩に行くか尋ねてみよう、日曜の夕ご飯に誰かを誘おう、テキストメッセージよりも電話をかけよう
2. 活動的でいよう:
計画を立てよう、職場にはエクササイズを兼ねていこう、できれば自転車でね
3. 周りをよく見よう:
職場までの道中に新しい道を探索してみよう、日常の些細なことに気を向けてみて、例えば今日最初のコーヒーはどんな味だった?
4. 学び続けよう:
習得するまで探求し続けよう、趣味を見つけよう
5. 他人を気にかけよう:
知らない人に微笑みかけよう、誰かが困っていたら手助けしよう

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↑ メンタルヘルスデーの説明、助けを求めることができる具体的な番号、SNSのページなどが書かれている

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↑ キャンペーンのハッシュタグは # spør mer(ask moreの意。もっと人に、もしくは専門家に質問しよう、尋ねよう、ということだろう。)
メンタルヘルスに関する本をまとめたコーナー。

薄い本を1冊借りて、友達の力を借りながら勉強がてら眺めてみました。日常的な不安に対処するための具体的な12のワークを載せた本でした。

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ワークは、抜粋ですが次のような内容です。
「朝起きたときに考えるのはどんなこと?1分間で書き出してみて。」
「思考をストップしてそれ以上考えないようにするために具体的にどんなことをするか、挙げてみよう。例:寝る、リラックスする、瞑想する、精神薬や睡眠薬などの薬を飲む、アルコールやドラッグを使う。それらは短期的・長期的にみてどう効果的か、書き出してみよう。」
「ポジティブな言葉に置き換えてみよう。」
「あなたの思考パターンを観察してみよう。」

こういったワークは日本語でもわかりやすいものがたくさんあると思います。

ただなんというか、ノルウェーはいちいちおしゃれ感を出してくるのはさすがだよね〜😆 と、日本人の友達と一緒に感心してしまいました。
やはり手に取りやすいデザインが、こういう社会的な問題への敷居を低くしている側面はあると思います。

それと、発信されているメッセージがシンプルでやさしい。
メンタルを健康に保つこと以前に、人生を楽しむってどういうことかを教えてくれている気がします。😊

友達を大切にしようって一口に言っても、どう大切にすればいいかがわからない人もいる。
でも大丈夫、まずはあなたから「ご飯を一緒に食べない?」って誘えばいい。ちょっと恥ずかしいけど、今日はテキストメッセージじゃなくて電話して声を聞いてみたらいい。そうやって気にかけることから、人を大切にするってことにつながっていくから。そしたらいつの間にか、自分にとっての幸せがどんなことかわかってくるから。

どんな人の人権を守る意識が伝わる社会でも触れたけれど、やっぱり相手に歩み寄ろう、真摯に向き合おうとする社会の姿勢が、ノルウェーは素晴らしいなと私は感じています。

ただ社会でなく個人レベルで見ると「ノルウェーは人に関わろうとしない冷たい人たちが多い」と認識しているノルウェー人は多いので(笑)これまた面白いところだなぁと思っています。これも追い追い探求できたらいいな。

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