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2_シンガポール下見旅行②

初日はとても眠かった。
フライトでほとんど寝れなかったから。だから、クラシックで素敵なフラートンホテルの豪華なベッドでお昼寝したり、散歩したり、広いバスタブにつかったり、なんだか半分夢みたいにシンガポールの風景を見ていた。

本当にこの国に住むなんて実感はなく。
そして、その日はなんだか、ご飯を食べるところもあまり上手に探せなくて、ぶらぶら歩いていて見つけたセブンイレブンでサンドイッチとおかゆを買うだけの夕飯になった。
シンガポールにもセブンイレブンがいっぱいある。でもおにぎりはなくて、その代わりにチキンライスやおかゆがあって、ローカライズされている。

店員さんは、日本のように買ったご飯を温めてはくれず、客側に置いてあるレンジでセルフでやる方式のようだった。
たかだかコンビニで、しかも日本発のよく知っているチェーンであっても、お金の支払いに手間取り、レンジさえもうまく使えない歯がゆさ。

知らない場所に来るのは楽しいけれど、こんな小さな事さえ少し緊張感がある。

その日はぐっすり眠り、翌日はオーチャードエリアのグランドハイアットへ。全10日間弱の滞在で、残りはオーチャードエリアのScotts Roadのグランドハイアットと、ちょうど向かいにあるロイヤルプラザに泊まる。まだこの国のエリアの位置関係はわからず、夫がタクシーに乗りドライバーと英語でやり取りをするのを、横でなんとなく見ているだけ。
夫が「こちらの方角には何がある」と街のことをいろいろと説明してくれるけれど、方向感覚が全然つかめず、頭に入ってこない。

オーチャードは銀座のような場所だった。
CHANEL、GUCCI、HERMES…その他のラグジュアリーブランドのショーウィンドウがこれでもかというぐらい煌びやかに並ぶ。
華やかなショッピングモールにはなじみのファストファッションブランドも。UNIQLO、ZARA、H&M、Forever21…。

そして、コンビニやドラッグストアもどこにでもあって、「あれが買いたい」と思えばそこから100m以内で手に入る。そんな感じの街。

これまでに旅行で、ニューヨークやパリ、香港など、世界の大都市に行ったことがあるけれど、その中で一番東京に似ている気がした。
クリーンで、何でも買える、即物的な資本主義の最先端の街。

ただ、街を行き交う人たちの多様性は全然違う。
シンガポールは華僑の国だと聞いたことがあって、私は来る前はそう思っていたのだった。
確かに中華系の人口が70%くらいらしい。でも、マレー系、インド系の人たちもいて、シンガポールは多民族国家なのだ。
オーチャードロードを歩いていると、さまざまな人がいることに気づく。肌の色も、服装も。

日本と同じような今どきのトレンドの服を着ている中華系の女の子もいれば、スカーフを頭に巻いたイスラム教のマレー系の女の子もいる。インド系の人は、どちらかと言えば年配の女性のほうがサリーを着ていて、若い女の子は普通の服を着ていることが多いみたい。

そして、聞こえてくる言語もとても不思議だった。
私たちが家族で日本語を話しながら歩いているように、それぞれのファミリーはそれぞれの言葉を使って話している。
でも、たとえばちょっとぶつかってしまったら「Sorry」と言うし、可愛い子だねと息子に話しかけてくれるのは英語だし、お店での店員さんとのやり取りも英語になる。
家族での言葉と外での言葉が違って、外で使う共通語が英語という感じだ。

そして、私は基本的な英語ですら、会話ができないことにあらためて気づく。お店の人が言う簡単なことさえ聞き取れず、きょとんと立ち尽くすまま。
そして、私はカタカナ英語で、お店の人は中国語のなまりのある英語だったりして、お互いに聞き取れなかったり…。
でも、みんな優しくて「Are you from Japan? KONNICHIWA!」とか言ってくれるのだ。私はなんで自分が日本人だと、他の人にわかるのかよくわからないけれど、ジャパニーズイングリッシュのせいなのかな。
グランドハイアットの隣の古めかしいショッピングモールFar East Plazaのダンキンドーナツのお兄さんは、私が日本人だとわかると、なかなか英語では理解しない私に、「フタツカウトヤスイ」とか日本語で教えてくれて、お金を出すときにもたもたしていたら、小銭を一緒に数えてくれた。

夫が仕事に行き、ホテルの部屋にいるのに飽きた息子が騒ぎ、私は息子をベビーカーに乗せてオーチャードの街をうろうろする。
ベビーカーで困っていたら助けてくれる人が多いし、子どもに優しく話しかけてくれる人もいっぱいいる。街はきれいで、怖いなと思うこともない。

でも、知らない街でどこでご飯を食べればいいかさえわからなくて、私は少し途方にくれてしまった。
ひとりだったら、思い切ってローカルフードのレストランに飛び込んでみたかもしれないし、おしゃれなカフェを楽しめたかもしれない。
でも1歳半の息子が食べられるものは限られていて、私の英語力はもっと限られている。

結局私は、「ISETAN」と「TAKASHIMAYA」の看板が並んでいるところに向かった。オーチャードロードには、伊勢丹と高島屋があるのだ。しかも隣同士で。まるで東京のように。
高島屋には日本と同じようにデパ地下があって、お好み焼きが売っていた。おぼつかない英語でどうにかお好み焼きを買う。少し時間がかかるよと言われたことを、なんとか理解して。
翌日は、伊勢丹のレストラン街にあった天ぷら屋さんに入り、英語で「小さな子と入れますか?」と聞いたら、日本人の店長さんに「どうぞ」と言われて、ほっとした。そして甘いお醤油をからめたご飯を喜んで食べる息子と天丼をシェア。

せっかくの海外で、日本食ばかり食べている自分がちょっと情けないけれど。でも、日本食を食べたいと思えば、いつでも食べられるということに、安心し、感激もしたのだった。

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