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アジアビジネス入門67「令和の中小企業論」@アジア人材エコシステム(2)

外国人材に円安是正の「変動為替ボーナス」


 先日、ある畜産業の経営者を外国人材受入れの関連でヒアリングして対応の素晴らしさに驚いた。技能実習生、特定技能外国人とは月1回ヒアリングを行いながら、仕事や生活などに関する様々な意見、要望などを聞いていることに加え、最近は円安の影響で母国への送金が目減りするなど悩みを抱えている状況も見受けられるため、ボーナス支給時に為替変動分を緩和するための制度を実施しているという。
 厳しい経営環境の中で、前向きに頑張っている中小企業の経営者は魅力的だ。外国人材受け入れをテーマに各地の経営者からヒアリングしていると本当にそう思う。
 ヒアリングにあたり、参考にしている本がある。関満博・一橋大名誉教授の著書「日本の中小企業」(中公新書)である。同著は2017年(平成29年)12月25日発行だ。
 アマゾンの書籍案内では次のようにPRしている。
 <日本経済を支える数多くの中小企業。だが、近年は人口減少や、中国・アジアとの競争などがあり、かなり厳しい状態に追い込まれている。起業は減り、既存の企業も承継に苦しんでいる。なぜ、そのような事態に陥ってしまったのか?今後の展望はあるのか?経営学者が現場を徹底的に見て回り、課題と展望を論じる>

起業少なく事業承継できず減少する中小企業


 2017年初版の「日本の中小企業」を一読し、バブル崩壊、アジア通貨危機、リーマン・ショック、東日本大震災と困難が続く中、中小企業の経営者の奮闘ぶりがみごとに描かれていた。著者の関氏は、1973年に東京都庁の東京都商工指導所という中小企業の経営診断指導機関に入り、45年にわたって中小企業との交流を重ねてきただけに、中小企業に対する温かいまなざしを感じる。同著には、WING(岩手県北上市)の創業社長である高橋福巳氏が隣接する花巻市起業化支援センターで独立・起業し機械金属工業の分野で発展軌道に乗せていることや北海道北見市の「環境大善」の創業社長の窪之内覚氏が牛の尿を原材料に活用した消臭剤「きえーる」を商品化したことなどが生き生きと描かれている。一方で、中小企業、とりわけ製造業の起業はほとんどなく、事業承継ができずに事業所がどんどんと減っていることに問題意識が向けられている。

コロナ禍に加えて人材不足が深刻化


 同著の出版後、時代は令和(2019年)に入り、2020年、21年はコロナ禍に見舞われた。そして現在、急激な円安と人材不足により、中小企業の置かれている状況はますます厳しくなっている。同著には私のテーマである外国人材受入れについては触れられていないが、言うまでもなく、人口減少により、地方を中心に日本の人手不足は深刻化している。それに伴って外国人労働者は増加し、2023年10月現在、約205万人を数える。今年6月には人材育成と人材確保を目的とした育成就労法、そして改正入管法が成立した(施行は3年以内)。コロナ禍で一時期、入国できなかった技能実習生ら外国人材は復調の兆しを見せている。

「外国人材活用」の多元連立方程式


 関氏は、日本の中小企業について1985年以前は「対米輸出」の関心と「汗の量」をパラメーターとする一元一次方程式の時代とし、1992年以降は「中国・アジア」といったグローバル要素に加え、「高齢で、豊か」「IT」「環境」の重大性が高まる多元連立方程式の時代と定義している。この多元連立方程式に最近では「外国人材活用」の要素は欠かせなくなった。中小企業の経営者は外国人材を受入れ、育成する視点を持つことが「令和の中小企業論」に求められる。


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