シリーズ:米国のミャンマー人脈② スーチー氏見捨てぬ上院トップ 毎日新聞論説副委員長 及川正也

(記事は2018年9月の取材時点の内容です)

ミャンマー西部ラカイン州の少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の武装集団に対するミャンマー治安部隊の掃討作戦開始から1年が過ぎた2018年8月27日、国連人権理事会が設置した国際調査団が、ミャンマー国軍のミンアウンフライン総司令官を含む軍幹部らに対して「虐殺」「人権犯罪」「戦争犯罪」の容疑で捜査と訴追を求める報告書を発表した。国際刑事裁判所(ICC)に問題を付託するよう要請している。これに対し、ミャンマー政府は同国当局が調査に同意しておらず、「ミャンマーには人権問題に関し責任ある枠組みが存在する」と主張して拒否した。

9月3日にはロヒンギャへの迫害問題を取材していたロイター通信のミャンマー人記者2人が国家機密法違反で禁固7年の判決を受け、国際社会は「民主主義を認めぬ判断だ」と反発している。

ロヒンギャ問題をめぐるミャンマーと国際社会の対立が先鋭化するにつれ、ノーベル平和賞受賞者でもあるアウンサンスーチー国家顧問兼外相への批判が高まっている。ミャンマー情勢が混迷する中、米国連邦議会でその存在を際立たせている上院議員がいる。この30年近く、民主化指導者のスーチー氏を一貫して支援してきた与党・共和党の上院トップ、ミッチ・マコネル院内総務(76)だ。

孤高の擁護者マコネル院内総務

「議会での25%の軍人配分条項がある結果、アウンサンスーチー氏を本当のリーダーにする(憲法の)条項改正は不可能だ。つまり彼女は軍隊の行動を指揮する権限をなんら持っていない。ロヒンギャに対する残虐行為は紛れもない事実だが、問題は、彼女(の権限)では制御できない問題に対して彼女が責任を負うのかということだ。だから、私は彼女が何ら影響を行使できることのない問題で彼女を非難するような提案に加わるつもりはない」

調査団報告書発表の翌日の8月28日、議会内での記者会見で、マコネル氏は、スーチー氏の責任にも言及した報告書に関する記者の質問にこう答えている。報告書は、スーチー氏について、軍や治安部隊の作戦を強く批判せず、「誤ったストーリー」を広げ、ラカイン州での証拠隠滅を監督し、独立調査を妨害した、と指摘している。報告書は「大虐殺」(Genocide)の責任の一端は、スーチー氏にもあるという内容だ。

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