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運河に思いを馳せて



夜の日本橋で小さな船に乗り込み、川を巡るクルーズに出かけた。日本橋川から隅田川、神田川へと進み、再び日本橋川に戻るひととき。水面から眺める都会の夜景は、橋やビル群が光の装飾をまとい、まるで別世界のようであった。その風景に魅了されながらも、ふと江戸時代の日本橋の光景を思い浮かべた。



江戸の運河は、今のように夜景を楽しむ存在ではなかった。当時の水路は、陸路が未発達だった時代において生活と経済を支える大動脈として機能していたのである。地方から江戸へと運ばれる物資――灘の酒樽や石垣用の石、米や木材など――は、隅田川や神田川、日本橋川などの水路を通じて江戸の町に供給されていた。夜の静かな川面に浮かぶ船を見ながら、かつての活気に満ちた運河の風景を重ね合わせ、流通と暮らしを想像したのである。

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