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小酒井不木「変な恋」

 前回更新してから、1年以上が経過してしまった。実は書こうと思っていた小説の著作権が切れていなかったり、面白いと思ったら既に紹介した作家だったりといった事が続き、なかなか更新できなかったのだ。正直、もう見つからなかったらどうしよう、とも思ったのだが、文豪達のことを信じて重い腰を上げて探したところ、やはり見つかった。今回は、小酒井不木「変な恋」を紹介する。ちなみにカテゴリーとしては、ミステリー小説に入ると思われる。

あらすじ
 ニューヨークに、グレージーという宝石商が居た。彼の所に来る客の多くは盗んだ宝石を売りに来ていたが、彼は分かった上で買い取っていた。盗品と分かっていながら収集した証拠がなかったこともあり、幸いにして警察には捕まっていない。そのような彼が、ある女性に恋をした。


それでは、推しポイント3点!
推しポイント1. 騙し取った金額がえげつないグレージー

 作中に「彼の一生涯に取り扱った宝石は一千万円以上の高に上った」という部分がある。彼とはもちろん、主人公グレージーのことだ。今の金銭感覚で言えば、宝石商が一千万円以上なのはあまり驚きがない。しかし、この小説が書かれたのは1926年。今の貨幣価値に戻すと、大体279億円になるようだ。いくら宝石という高額商品を扱うにしても、えげつないと言わざるを得ないだろう。
参考文献
レファレンス協同データベース「対象10年頃の1円は現在の何円に相当するのか。また、この当時の10万円はどのくらいの金額になるのか知りたい。」(2023年2月10日14時26分閲覧)
▼大正10年頃の1円は現在の何円に相当するのか。また、この当時の10万円はどのくらいの金額になるか知... | レファレンス協同データベース (ndl.go.jp)



推しポイント2. ドキドキするクライマックス

 高飛びしようとするグレージーと女性だが、2人の思惑は根本的な方向性から違っている。詳しく書くとネタバレになるが、どう話が動くのか読んでいる方もドキドキしてしまう。また、クライマックスの鍵と言っても良い点について、読み返すと作中の前半できちんと触れられている。ただ、さらりと書かれていることもあり、個人的には気づかなかった。読み返してから「やられた!」と、思ってしまう人が私以外にも居るはずだ。


 

 未解決の謎を提示して、読者に考えさせながら終わるタイプのミステリーではなく、あっさりと全ての情報を開示して終わる種類の話だ。そのため、そのまま閉じてしまいそうになるが、内容に個人的には引っかかりを覚えてしまう部分がある。違和感を無視しても良いとも思うものの、妄想を膨らませ甲斐がありそうに感じる。あまり書くとネタバレになるため、具体的な点に言及できないのが悔しい限りだ。


 最後になったが、小酒井不木という小説家は医師でもあったようだ。私自身、最近まで知らなかったのであまり多くのことは語れないが、小説家でありつつ医師であると言えば、コナン・ドイルが真っ先に思い浮かぶ。医学知識に基づいたミステリー小説が好みなら、一読してみると面白いはずだ。皆様の読書が、より豊かなものとなりますように。

青空文庫 小酒井不木「変な恋」図書カード:変な恋 (aozora.gr.jp)

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