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【恋物語】蝉時雨

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【恋物語】蝉時雨/第四章 -終-

【恋物語】蝉時雨/第四章 -終-

僕にはもう既に彼女の色がべったりと張り付いているのだろう。
真っ直ぐに見る瞳を失って、彼女の音の方に漂って、触れたら消えてしまう事も恐れず。
きっと恐れる脳味噌が溶けて無くなっていたのだ。

一方彼女は正反対で。馬鹿な僕の向こう岸で、真っ直ぐ澄んだ瞳でこちらを見ていたのだとしたら。

「よっちゃん……」
小春は僕を抱きしめて浅い息をする。
脳味噌の溶け出した後の僕を。
出会った時から今まで、ずっと

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【恋物語】蝉時雨/第三章⑶椿色の花火

【恋物語】蝉時雨/第三章⑶椿色の花火

僕を離れて行った彼女のことや、今までの気持ちを、この公園で溢れるままに小春に話した。
僕はできるだけ細やかに回想する。

高校の卒業式が終わり、当時の彼女との帰宅途中。
「写真撮ろうよ!」
白いマフラーを巻いた彼女が言い出した。
これが最後の写真になるなんて思ってもみなかった。

帰宅後、彼女からの連絡は一切無いまま。
一ヶ月後に入学式を迎えたのだが、音信不通だった彼女が急に会いに来た。本当に急だ

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【恋物語】蝉時雨/第三章⑵ 火傷とシーグラス

【恋物語】蝉時雨/第三章⑵ 火傷とシーグラス

沈黙の後、今度は小春が話しはじめた。

「入学式のあの日、貴方と目が合って、思い出したの。
ずっと胸の奥の抽斗に了ってあった色が蘇ったように」
「それって、どんな色?」
彼女は左下に目線を落として少し沈黙した。
蝉時雨と雨が容赦なく降る。
「半透明の緑色。質感はシーグラスだった。」
「今はちがうの?」
「あんまり訊かないでよ」

金曜の夕方ということもあってか少々店内が混んできた。
ここはお酒の提

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【恋物語】蝉時雨/第三章⑴雨喫茶、追憶

【恋物語】蝉時雨/第三章⑴雨喫茶、追憶

『キスは色恋だよ』

大学時代の友達の結婚祝いを渡しに行った帰り道。
十六時。助手席に小春を乗せて、車で雨の八月を走る。
先週のあの言葉はたまに僕の頭の中にふらりと現れる。ここ最近はずっとそんな感じだ。

「君との思い出で一番古い記憶があってさ」
「入学式でしょ?
職員室の前で目が合った話したよね」
「いや、それよりもっと、前なんだ。」
彼女はさっきコンビニで買ったアイスティーをひと口飲んでから、

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【恋物語】蝉時雨/第二章⑶ 雪景色とあの夢の続きのような

【恋物語】蝉時雨/第二章⑶ 雪景色とあの夢の続きのような

あの悪い夢の所為で中々落ち着かない。
胸の奥に夢の跡が残ったままぼんやりと寝室から出る。
僕は思わず目を細めた。

雪の光だ。
キッチンにある窓から小さな街を見下ろす。
空と地上の間は粉雪で煙っていた。

高台にあるが故に階段が面倒だが、景色だけは良かった。
街中の物件と比べれば利便性は劣れど、僕はこの家に一目惚れをしてしまったのだ。

このキッチンの窓は色々な景色を見せてくれる。
この窓から朝陽

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【恋物語】蝉時雨/第二章⑵ 悪い夢

【恋物語】蝉時雨/第二章⑵ 悪い夢

春一番が吹いた今年二月。

嫌な夢を見た。
その夢の世界で、小春は夜中、酷く泣いていた。
車で猫を轢いたらしい。

珍しく電話が掛かってきたかと思ったらそのような内容で、電話越しに話を聞く僕の心臓も嫌な跳ね上がり方をして、彼女の元へ向かう途中にも動悸が止まなかった。

事故があってすぐに取り敢えず停めたというコンビニの駐車場に僕も車を停めて、彼女の車のドアを開けた。
彼女は靴を脱ぎ、体育座りの様な

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【恋物語】蝉時雨/第二章 ⑴小春日和

【恋物語】蝉時雨/第二章 ⑴小春日和

昨年の十一月頃。僕と彼女が二人で会うようになって三ヶ月が経っていた。
この頃僕は、一度も彼女の名前を呼んだことが無かった。名前を呼ぶと、何だか、あの子の柔らかい部分に触れてしまう様な気がしたから。

紅葉が終わりかけ、落ち葉を踏む音と同じくらい小さく、季節を言い訳にしてその柔らかい名前を呼んでみた。
「小春ちゃん」
すると彼女は、小春は、しゃがんだまま表情ひとつ変えずに、一瞬だけこちらを見て返事を

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【恋物語】蝉時雨/第一章 色恋

【恋物語】蝉時雨/第一章 色恋

駅の裏にある公園の前で、僕は車を停めた。
もう終電は終わっているし、此処は田舎の古い町。
道は細くて辺りの街灯はほとんど無い。

彼女の話が途切れる度に、蝉時雨がタイミングよく降り始めるような、妙な感覚が今日一日付き纏っていた。

窓を開け、運転席で煙草に火を着ける僕の左腕に、彼女の背中がもたれかかった。
「あとちょっと」
文庫本の左側が大分薄くなっているので、
きっとラストシーンを読んでいるとこ

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