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事業を、つなぐ。つぐ。つづける。

人生にも事業にも終わりがあります。

この記事をお読みの経営者の皆様は、ご自身の事業の終わりをどのような形で迎えたいか考えたことがありますか?

子供のように愛を注いで育てた事業ですから、誰もがその事業の終わりは想像したくないもの。

ですが人間には寿命がありますので、事業を永遠に続けていくためには誰かに事業を承継するしかありません。

事業承継の方法は大きく3つ。

①親族内承継
②従業員承継
③M&A

この話の中では、これら3つの承継方法について、それぞれのメリットデメリットのほか、経営者としての想いの承継についてお話ししていこうと思います。


事業を承継するとは

経営者の方なら、特に創業者の方ならわかることだと思いますが、自分の事業は子供と同じ。

事業もスタッフも、会社の名称もロゴも何もかもが、自分の子供のように愛おしく思います。

事業がうまくいかない時は「俺の子供なんだから大丈夫」

事業がうまくいったと時は「やっぱり俺の子供だ」

そんなものです。

そんな自分の事業を、自分以外の人間が経営するはそもそも本望ではないはず。

ですが自分が永遠に育てていくわけにいかないのは、子供と親の関係と一緒です。

いつかは自分の手を離れていく日が来る。

その日にどう考えるか。

「せめて幸せになってほしい」

成功してほしい、お金持ちになってほしいなんて言わないから、ただただ健康でいてくれればいい。

事業として継続していってくれることを第一に考えるものです。


事業承継の現状

中小企業が日本の経済や社会を支えていると言っても過言ではありません。

2021年度「中小企業白書」によれば、非1次産業における小規模企業が84.9%となっており、中規模企業を加えると99%以上が小規模・中規模企業となっています。

具体的に見てみると、下表の通り、2016年において359万社となっています。

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2020年度「中小企業白書」

さらに中小企業の経営者の高齢化が進んでおり、社長の年齢分布も60代以上の割合が上がってきています。

60代以上の割合は、2013年度は80.5%だったのに対して、2018年度は81.7%に上昇しています。

特に80代以上に絞ると21.6%から28.1%に上昇しており、後継者がみつからずそのまま年齢を重ねていると考えられます。

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2020年度「中小企業白書」

高齢化が進んだ結果、事業承継の傾向も変わってきています。

平成28年に中小企業庁が開催をした事業承継を中心とする事業活性化に関する検討会(第1回)によれば、以前は親族内で事業を承継することが大半を占めていましたが、それが現在では親族以外の第三者に承継を行なっています。

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2020年度「中小企業白書」

上表の通り、経営者の在任期間が長いケースであれば親族内の事業承継が多く、一方で、在任期間が短かいケースだと親族外での承継により引き継ぐことが多いことがわかります。

その中でも親族外の承継のケースでは、M&Aによる事業承継の割合が高まっています。

また、経営者の意識も変化してきており、60代以上の経営者のうち50%超が廃業を予定していると答えています。

事実、中小企業の数も減少してきており、実態に即している状況となっているといえます。


事業を承継する方法のメリットデメリット

親族内承継

親族内承継とは、主に子供など親族に事業承継する方法のことです。

中小企業の場合、経営者の手腕が存立基盤そのものになっていることが多く、その資源を活かせる人材を後継者に選ぶことが重要です。

現在の中小企業環境の中においても、優先的に候補として挙がってくるのがやはり子供です。

親族内承継も、近年の承継手法の中では「古くさい」という不名誉なレッテルを張られがちですが、決して劣っている承継方法ではありません。

有名な星野リゾートの代表者星野佳路さんも4代目として活躍されており、ファミリービジネスの強みについて研究されています。

星野佳路のファミリービジネス研究会:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)

<メリット>
・従業員承継や第三者承継に比べ、従業員や取引先の関係者に受け入れられやすく、銀行など資金提供者の支援を得やすい
・準備期間を長く確保できるため、長期的な後継者教育が可能
・財産や株式が分散しないため、所有と経営の一体的な承継が可能

<デメリット>
・後継者に経営者としての能力が不足している場合、後継者をどのように育てるか
・後継者以外の親族との間で資産や遺産をめぐるトラブルが起こる可能性がある

また、親族内承継の割合が落ち込んでいることも課題として挙げられます。

これは子供側の、職業選択の自由への意識の高まりや安定した生活の追求など、多様な価値観が浸透していることが少なからず影響していると感じます。

これだけ将来が不透明なVUCA(ブーカ)な時代においては、子供のことを考えると、自分のような苦労は子供にさせたくないという経営者の苦悩をお聞きすることも少なくありません。


従業員承継

自社の従業員や役員に事業承継を行う方法が「従業員承継」です。

中小企業のうち中規模の企業では、親族であることより、リーダーシップがある、経営能力が優れているなどといった点を重視して後継者の選定を行っている傾向が見られます。

上記のような子供に家業の苦労を継がせたくないと思われる経営者が選ぶ手法として良く活用されます。

<メリット>
・経営者としての実力があり、優秀な人材を社内から選んで後継者に据えることができる
・自社の事業や業界について精通している人物を選定でき、事業の利益好転も期待できる
・自社で長期間働いてきた人物であれば、現在の経営方針や人事制度などを大きく変更せずに引き継ぎが可能

<デメリット>
・親族や取引先などの関係者の理解と同意を得るために時間がかかることも
・社内で権力争いが起こる可能性が

東京商工会議所による「事業承継の実態に関するアンケート調査」によると、自社の従業員を後継者候補に想定している企業は、借入金・債務保証の引き継ぎや株式の譲渡を課題に抱えている場合が多いそうです。


M&A

株式譲渡や事業譲渡等(M&A)により承継を行う方法で、M&Aなどを活用して事業承継を行う事例は増加傾向にあります。

その一因として考えられるのは、

・中小企業における後継者確保の困難が背景にある
・中小企業のM&Aなどを専門に扱う民間仲介業者が増えた
・国の事業引継ぎ支援センターが全国に設置された

ということが考えられます。

これは、近年の成長著しい業界としてM&A仲介会社がトップランカーに名を連ねることからもわかりますね。

<メリット>
・親族や社内に適任者がいない場合でも、候補者を広く外部に求められる
・買い手は資金力のある企業なので、経営の安定が見込める
・現経営者は会社売却の利益を得られる

<デメリット>
・労働環境など希望の条件を満たす売却先を見つけるのが困難
・経営の一体性を保つのが難しい

その他、内部統制が取れていないなど問題のある企業の場合、相手と同意まで至ることが難しくなります。

中小企業においては、内部統制などほとんどない企業の方が一般的で、未払い残業であったりこういった問題によりM&Aがとん挫することは少なくありません。

社外への引き継ぎを成功させるには、本業の強化や内部統制体制の構築により、企業価値を十分に高めておく必要があるでしょう。


経営者の想いを承継する

事業承継の方法についてのメリットデメリットは上述の通りですが、ここでは少し承継させる側と承継する側の感情面でのお話をしたいと思います。

親族内承継

子供が承継するパターンについて考えてみましょう。

まず創業者の方から考えると、手塩にかけた子供が、同じく手塩にかけた事業を承継してくれるのだから、経営者にとってまたは親にとってはこれほど嬉しいものは無いでしょう。

自分の大切にしてきたモノ同士が、一緒に未来を創っていってくれるというのだから、これほどうれしい承継方法はないかなと思います。


一方、事業を承継する側はどうでしょうか?

私も父親から事業承継した二代目経営者として考えるのは、子供に事業を承継させる最大のメリットは、後継者のその圧倒的な責任感かと思います。

もちろん人により考え方は千差万別ですから、責任感のない二代目後継者もいらっしゃいます。

ですが、やはり親から承継したものは他人から承継したものとはわけが違う。

その圧倒的な責任感のもと事業をまい進させていくわけですが、もう1つの感情があります。

「親を超えたい」という感情です。

この感情が原動力となります。

親が作った歴史と自分が作っていく未来を想像するとき、二代目後継者は身震いをするものです。

「親に褒めてもらいたい」

この感情は何歳になっても変わらないのではないかなと思います。


従業員承継

例えば社内のナンバー2的な立場の従業員が承継していくパターンです。

社長の右腕としてCOO(最高執行責任者)の役割をこなしてきた方が承継されるのを私も何度か経験しています。


何らかしらの理由で子供への承継はあきらめた創業者がこの方法を選択されるケースが多いですが、長年苦楽を共にしてきた信頼できる従業員に承継できる嬉しさはまた一入(ひとしお)でしょう。

従業員は家族みたいなもんですから。

家族以外の人間に「自分の思いが伝わった」と感じる瞬間は、時に家族へ承継させる喜びを超えるかもしれません。

一方、事業を承継される従業員側からしても、家族以外の自分に大切な事業を任せてくれたという喜びは代えがたいものがあると思います。

たいていの場合、大きなプレッシャーと責任感を感じながらも、後継者様も先代とは違う形で事業を飛躍させていくパターンが多いです。


親族内承継の場合は、失礼ながらその経営者としての才能や力量ではなく「子供だから」の一点だけで承継されるケースも少なくありません。

ダメダメ長男と優秀なナンバー2の従業員がいた場合、どちらが事業を承継するケースが多いかといえば、残念ながらダメダメ長男であることは実感するところです。

それを時として、ダメダメ長男ではなくナンバー2を後継者として選択される創業者もいらっしゃいます。

その時のナンバー2の方のプレッシャーと同時に湧き上がる躍動感といいましょうか、何とも言えない感情は本人にしかわからないでしょう。


ただ従業員承継、特にCOOとしてとても優秀な方が承継して安心できるかといえばそう簡単でもありません。

やはり経営と実務は違うということです。

このあたりの知識を得たい方は下記の記事をお読みください。

企業を成長させる3人の役者たち|横溝大門 | 公認会計士/税理士|となりのブレイン|note


M&A

M&Aで事業承継しようとお考えの創業者は、先述の親族内承継や従業員承継と、そもそも考え方が違います。

それは年齢であったり、事業を通じて自分がどのように生きていきたいかという価値観の問題も含まれます。


大切な事業をアカの他人に売るなんて、事業に対する思い入れがないのか?

と思われる経営者もいらっしゃいますが、決してそれだけでもないなと感じる出来事がありました。

弊社がM&Aのお手伝いをさせて頂いた年商2000万円程度の小さな水道工事関連の事業をされた経営者のお話です。

その経営者は、従業員承継で先代から20年前に事業を承継された方で、当時は売上規模も数億円ありましたが、その経営者が承継された後、時代もあり徐々に事業を縮小され現在の規模までしぼんでしまいました。

その方は、大切な事業を承継させていただいた先代への想いもあり、自分の代で事業を閉めざるを得なくなってしまっている状況を悔いておられました。

事業を再起させたくても、自分ももう70代。

子供もいるが、こんなに小さな事業を継がせるわけもいかず、長年ついてきてくれた従業員も同じく70代であり、もう承継させる力も残っていない。

そんなとき、とあるM&A仲介会社からFAXが入ります。


私もその後に、M&A仲介会社からの紹介でその承継のサポートをすることになりました。

私が最初に感じたのは「こんなに小さな事業、売れるわけないだろうな」

恥ずかしい話です。

その後、とある中堅規模の水道関連の事業を展開される会社様とのマッチングが実現します。

その中堅会社が新分野として参入したかった技術とパイプを持っていることを知り、声をかけてくれました。

その後、色々ありましたが、なんとその売上規模2000万円の会社を無事に承継してくれることになりました。

株式譲渡契約日、事業を責任をもって承継された経営者の涙が忘れられません。

「これで先代に報告ができる。こんなに嬉しいことはない。」と号泣されました。


M&Aと聞くと、とてもドライな印象で、事業が何の色もなくお金で売られていくような印象をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、M&Aの現場ではそうでもありません。

M&Aにおいても、創業者の想いをきちんと「継ぐ」ことは可能なのです。


M&Aにしても、ほかの方法にしても、創業者にもその後の人生がある。

その後の人生をどのように生きていくか。

残された人生をどのように生きていきたいか。

単純なメリットデメリットだけではなく、あなたの人生について、生き方について、まずは考えてみてください。


経営お役立ちコンテンツ「となりのブレイン」

いかがでしたでしょうか?

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今回は、事業の飛躍に必要な要素のうち、番外編として事業承継についてご説明させていただきました。

今後も色々な角度から事業を飛躍させる仕組みについてお話していきますので、よろしけばフォローをお願いします!

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