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「Fridaynight to Sunday」のคิวさんの逝去に際して

タイを思い出すときに、
自然と頭の中に流れてくる曲がある。
Fridaynight to Sundayという歌手の
「ห้องนอน(ホンノーン)」(=寝室)という曲。

これを聞くと、
タイのいいところばかりを思い出してしまう。
嫌なこともあったはずなのに、
もうそんなことは
どうでもよくなってしまっている。

タイの好きなもの。
あれもこれも、思い出したらきりがない。
この曲を聴くたびに、
出会ったものの細部まで思い出すことができる。

今タイにいない僕を、日本に帰ってからも
タイとつなげておいてくれた。
日本にいる僕は、この曲を介して、
すぐにタイに飛んでいけた。

そうやってこの曲を聴きながら、
日本でタイを旅する日々が、
これからも続くと思っていた。

しかし去年の11月、
この曲を残して、
ボーカルのคิวさんは亡くなった。
亡くなったあとにタイの友人に聞いた。
うつ病による自殺だったという。

僕は今、「ห้องนอน」を改めて聞いて、
僕の寝室には、
あの頃のタイのあれもこれもまだあって、
もうないのはその歌声だけ。
何を見ても思い出してしまうのだ、
その歌声を。

まだ、本当は、
戻ってきてほしいけれど。いつまでも、
これじゃいけないと思っているから。

僕は祈る。
信念を宿して、一直線に伸びていく歌声。
その歌声が雲雀になって、
天へ昇華し、
一筋の優しい光を降らす星になっていたら…

まだ、彼は今も
地上に歌声を届け続けているにちがいない。
だから僕はこれからも、
その歌声を聞いて、タイへ飛んでいくのだ。

夜をなかなか連れてこない初夏の夕暮れ。
南の空に一際輝く一番星が
うんと頷いたあと、
ハミングしてくれたように見えた。

2020年5月8日

最後に改めて、คิวさんの御逝去に際して、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。


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