ドラえもんやクレしんの3Dアニメはなぜイマイチなのか

クレしんの新作映画が色々と話題です。

実はドラえもんやクレヨンしんちゃんなどの作品と3Dってめちゃくちゃ相性悪いと思うんですよね。

そもそも、3Dアニメのメリットというのは、
・キャラ造形が安定する
・複雑な造形やディテールを持つものを動かしやすい
というものです。
メカやダンスにはめっぽう強い一方で、キャラクター作画には工夫が必要になります。

そして3Dアニメのデメリットとして、
・指先や髪の毛など、細いパーツの動きが大変
・アセット(モデル)を増やすのが大変なので、服装差分や表情パターンが限られる
・魚眼や広角などの嘘パースが使いづらい
など、総評すると『作画に比べて、自由度で劣る』と言えます。

過去のドラえもんやクレヨンしんちゃんの映画で素晴らしい部分のひとつは、作画の良さや演出(カメラワークやアクション)の自由度の高さから生まれるハイクオリティな映像だと考えます。

これは、キャラクター自体の造形が現代の基準ではかなり単純なことに起因するものです。単純故に動かしやすく、アニメーターさんはキャラの造形を合わせることに割く時間や意識を動きに充てることができます。

しかし、3Dだとこの魅力が失われています。

まず、作画について。
ドラえもんで顕著ですが、画面をリッチに見せ作画を良く感じさせるテクニックとして『動かせる場所を増やす』という技法があります。
ドラえもんの唇、のび太たちの髪束などに始まり、高速アクションのシーンでは唇が風に煽られ歯茎が露出する演出が多用されています。髪や唇を動かすことで、画面全体の動きが増え、華やかに見えます。

これが、3Dだと難しいです。
まず、3Dは髪束や指先が苦手です。多くの場合、作画での補助やその動きを手付けする手間を必要とします。
ですので、ドラえもんやクレヨンしんちゃんなど、元々の造形が単純なものを3D化すると非常に画面を盛るのが難しくなります。

物理演算で髪束を動かすことを考えた方がいるかもしれません。
残念ながら、アニメと物理演算は相性が悪いです。ゲームでは同一のレベル(ステージの意ですが、今回は同一の物理演算が適用されるひとつの空間として考えてください)内にある建物やキャラクターをカメラが撮影し、画面として出力します。(プリレンダムービーはこの限りではありません)その空間内の重力や風はリアルに演算され、プレイヤーから見える形に落とし込まれます。
対してアニメは、同じ空間にいる場合でもカットによって見栄えのためにキャラクターの位置を変えていたり、実は少し巨大化していたり、様々な"嘘"をついています。物理演算は演算なので、物体のサイズや位置が変わると結果が変化するため、結局人の手による修正を要します。

本筋に戻ります。
3Dの大きなデメリットはもうひとつ、カメラワークに大きな制限がかかることが挙げられます。
カメラワーク、と表現していますが、実際にはカメラと言うよりは人体のサイズと言うべきかもしれません。
例えば、人が画面の奥から手前に走るシーンがあるとしましょう。このとき、ダイナミックに見せるために奥にある腕や足を小さく、手前にある腕足を大きくする手法が様々なアニメで見られます。
これを3Dで再現するには、モデルの改変が必要になります。シーンごとにカメラとの距離や画角が変わるため、多くの場合1点物になります。(ジョジョ6部のOPなどに見られる手法です)

クレしん新作の予告映像で、しんちゃんが砂漠を走っているシーンがありますが…実に3Dのデメリットを詰め込んだ、迫力のないシーンに感じます。

これらの理由から、ドラえもんやクレヨンしんちゃんなどの作品と3Dアニメは相性が悪いと私は考えます。
個人的にはこれらの作品はやはり2Dで観たいですね。

まぁ映像云々以前にストーリーが…とも思いますけど、アニメ制作ではストーリーと映像は工程が完全に独立しているので、今回は映像に限ったお話にしました。

とはいえ…ここ数年クレヨンしんちゃんの映画は見ていなかった私がまんまと乗せられているのでプロモーションとしては成功なのかもしれません。
ビジネスとクリエイティブはバランスが難しく、一定の成功まではビジネスの力に大きく依存し、巨大な成功にはクリエイティブが求められます。

今回のクレヨンしんちゃんはビジネスは強いですがクリエイティブはイマイチでした。
次回作…素直に3Dクレしん2が出ても観に行かないとは思いますが、モーレツ!オトナ帝国を超えるような作品がいつか生まれると嬉しいですね。

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