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【AshiraseCOO就任記念対談・後編】視覚障がい者の方の未来をより豊かにしていく、新モデル発売に向けた想い

2024年6月17日付でAshiraseに取締役COOとして香山由佳が就任しました。

前編では、香山のこれまでのキャリアや、Ashirase入社の経緯について、視覚障がい当事者であしらせスタッフの西川がインタビューしました。

後半は代表の千野も加わって香山や西川のジョイン以降のお話や、あしらせ新モデル発売に向けてそれぞれが目指したいあしらせとの未来についてお話ししています。

千野歩(ちの わたる) プロフィール

千野の話している様子

2008年本田技術研究所に入社。電気自動車や自動運転の研究開発に従事。2018年SensinGood Labという任意団体を設立し、「あしらせ」の開発を開始。2021年4月、Ashiraseを創業、代表取締役CEOに就任。

パニックだらけの体験会

西川:前半では、香山さんにあしらせ入社までのお話を伺いましたが、ここからは入社後のお話をお聞きできたらと思います。
香山:私がジョインした2023年1月は、ちょうど3月の先行発売モデルを発売する直前だったので、まずはCS(カスタマーサクセス)の構築から始めました。
当時、発売前に屋外での歩行体験イベントを開催したのですが、イベント開始してから30分以上経っても、誰も外に出て体験を始められないという衝撃的なことが起こったのを今でも鮮明に覚えています。
その時は、ただ歩行体験してもらうのではなく、実際にユーザーさんの手元に届いた後の流れも確認させていただくため、箱からあしらせデバイスを取り出して、アプリの登録をしてもらうところから体験を始めたんです。
私もボイスオーバー(iPhoneの音声読み上げ機能)の操作をよくわかっていなかったので、ユーザーさんのスマートフォンをお借りして操作して変なことになったらどうしようとパニックになりました。

千野:これまで体験会では、あしらせのスタッフがセッティングまで準備して、体験される方には靴を履いてもらうところからやってもらってたんですよね。

香山:アプリのアカウントを登録して、デバイスとアプリをペアリングするまでの最初のステップが、ここまで大変なのか、このままではサービスインできないと正直絶望しました。
開発の段階では、歩いてる間の価値検証は十分できていたのですが、ユーザーさんの手元に届いてからが本当のスタートであって、価値を届けるにはまだまだハードルがあるということがよくわかりましたね。

ユーザーさんとの共創から生まれるプロダクトの改善

香山:でもそこからのあしらせチームは「ユーザーさんの立場に立って、一からシミュレーションしていこう」と決めて、爆速でアプリや利用に関わる導線など、とにかくすべての課題を改善していったんです。
「これを改善しないことにはサービスが成立しないよね」とチーム全員が意識できたのは大きいですね。
みんながちゃんとユーザーさんを見て、課題に気づいた時にはしっかり向き合う。これがあしらせに脈々と流れている文化ですよね。

西川:たしかに、みんなとても前向きでラーニングしていく組織ですよね。僕もAshiraseで働きながら実感しています。

香山:あと、あしらせが本当に恵まれてるなと思うのは、とても熱心にフィードバックをくださるユーザーさんが多いんですよね。
先行発売モデルを発売してから、この1年間で30回以上アップデートを繰り返したのですが、ほぼすべてにおいてユーザーさんの声をもとに開発してきたんです。
検証のために何度も何度も歩いてくださった方もいらっしゃいますし、応援してくださる方が本当に多いので、やっぱりその声にしっかり応えていかないとなと思っています。

新しい視点からの参加、視覚障がい者が直面する就労のハードル

香山:そういった中で、西川さんには当事者として今年の5月からジョインしてもらっていますが、やはりより早く課題に気づけるようになりましたよね。
西川さんご自身の視点と、いろんな方の視点からもご意見いただけるので、社内で悩むことがあれば「すぐ西川さんに聞きにいこう」と。
何より、クリティカルな局面で大きく間違わずに進める安心感があります。

千野:西川さんと僕は2年くらい前から知り合いなんですけど、やっぱり当時から西川さんは、前職でのご経験もあってナビゲーションやアクセンシビリティ(障がい者が便利に使える機能・設定)についてすごく詳しかったですよね。

西川:千野さんと僕が同い年なのでめっちゃ親近感が沸いて、その当時から、いつか何か一緒にやれたらいいですねって話していましたよね。

千野:やっとここでご一緒できましたね。

香山:「スタートアップ×当事者」みたいなところで働かれている視覚障がい者の方は、他にもいらっしゃいますか?
西川:視覚障がい者は就職すること自体ハードルが高いので、スタートアップで働いている方はなかなか聞かないですね。
就職に関するハードルでは、視覚障がい者向けの技術やツールが追いついていないことと、もう一つは社会的な理解が原因にあると思います。
先ほど香山さんがおっしゃったように、視覚障がい者と関わったことがない方も多いと思うので、皆さん何を話していいのか、どう接していいのかわからない。何ができて、何ができないのかということも想像がしにくい。だから、視覚障がい者も職場でのコミュニケーションに困ったり、キャリアも積みづらかったりするのではないでしょうか。
「スタートアップで頑張ろう」とか「自分で起業しよう」という機会がある人はやっぱり少ないなと感じますね。

千野:西川さんは、もともとあしらせにはどんな印象を持っていましたか?
西川: 2年前に試作品の段階で体験した時は、「振動でナビゲーションするんだな」ぐらいで、その時の自分の生活には必要ないかなという印象でした。
ただ、体験した時には気づかなかったのですが、日常的に使いはじめてみて、あしらせはアプリだけでもめちゃくちゃベネフィットがあって、かゆいところに手が届く機能がいっぱいあるなと思いました。開発スピードにも感動しましたね。
それもあってか、あしらせの会社全体に対するユーザーさんのロイヤリティーがめちゃくちゃ高いなと。
これまで視覚障がい者に対するサービスって、世の中的にちょっと置いてけぼりでそもそも新しいサービス自体が出てこなかったり、出てきても改善スピードがゆっくりだったりということを感じていました。
僕たちが抱える課題に見向きもされないことも多い中で、視覚障がい者に特化したサービスをこんなに真剣に考えてくれる人たちがいるというだけでも、涙を流すぐらい嬉しく思っています。
だからこそ、ユーザーの声をどんどん取り入れて改善してくれる姿勢が、あしらせの魅力なのかなと思います。

千野:今後も継続させないといけないですね。

千野、西川、香山の3人で話している風景

新モデル発売に向けて


千野:最後に、2024年秋に新モデルが発売になりますが、それぞれのポジションでこれからやっていきたいことを話していきましょう!

西川:まずは、これからユーザーさんがさらに増えていくことを見込んだCSの体制づくりを重点的に行なっています。
あとは、あしらせという製品とその技術は、視覚障がい者の未来をより豊かにする可能性を大いに秘めてると思っているので、どういう使い方をすればより生活が豊かになるのか、いろんな見え方の立場に立って、当事者の視点から発信・提案をしていったり、ユーザーさんにヒアリングしたりして、企業価値や製品価値を上げていきたいと考えています。

千野:僕としては、新モデルをしっかり販売していくことに加えて、あしらせでの移動を軸に、その周りの活動も豊かにしていけるといいなと思っています。
歩行や移動については、その前後にさまざまな目的がある。その目的がちゃんと達成できている状態とできていない状態では、人の暮らしの豊かさって全然変わるんだろうなと思うんです。だからあしらせでは、移動を軸にしながら、その周りの活動も豊かにしていきたい。
視覚障がい者向けのビジネスでは市場の課題を多く感じる一方で、こういったやりがいも感じています。

香山:新モデルを出すまでのこの1年強、「本当にユーザーにとって価値があるもの」を突き詰めて開発してきたことは、あしらせメンバー全員自負していると思います。
もちろんまだまだ改善するポイントや課題は山のように残っているのですが、お客さんの行動や気持ちの変化につながるサービスになってきているので、次のモデルでより多くの方に使っていただければと思っています。
よく当事者の方から言われることが2つあります。それは「会社つぶれないでね」ということと、「知ったときにはすでにサービスが終了していて大変残念だった」です。
やはりこのマーケットでのビジネス化を実現していくには、既存の延長線上だけではなく、新しい考え方も取り入れて、より多くの方に届けられること、そしてビジネスとしてちゃんと成立する仕組みを作っていく必要があると思っています。
それが新モデルで求められるフェーズだと思うので、AshiraseのCOOとして、まずは一人でも多くの方にあしらせを届ける。そこにしっかり向き合っていきたいです。