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ロマンスカーの旅

小田急ロマンスカーGSEがデビューしたのは2018年3月。
「赤い!カッコいい〜」と電車好き兄弟が注目したのは言うまでもない。

その年の6月末、小学校の開校記念日のお休みがあった。
土日にかかる平日。一泊できるな。
これはちょうどいい。GSEに乗ってみよう。それも先頭車両の展望席に!

平日の午前中出発ならたぶん空いているはず…思った私が甘かった。
ごめんなさい、ロマンスカー。
あなたの人気を見くびっていました。謝ります。

新宿駅窓口でようやく手に入れた展望席(窓側)の一席は、4年生の兄にしよう。
弟はブーブー文句たれの介になること間違いなしなので、「ロマンスカー弁当」を予約しておき、車内で兄弟の席に届くっていうお楽しみがあるのはどうだろうか。
ロマンスカーの形をしたお弁当箱はかっこいいし、家に帰ってからも遊べるし、これは我ながらいいアイディアと自画自賛。

長男を展望席に、次男と夫と私は展望席のすぐ後ろの一般席に座った。
小柄な長男の姿は、私達の席からは微かしか見えない。
長男の隣には、展望席の大半を占めた団体ツアー旅行のお一人、年配の女性が座っていた。

新宿駅発車間際に、長男のお隣さんに夫と挨拶に行く。
私たちすぐ後ろにおりますので、何かあったら…と声をかける。
いいのよ、いいのよ、何年生? 電車好きなの?
やさしそうな方でよかった。よろしくお願いします。

展望席は前方と左右が大きな窓。
とにかく明るい。サンルームのよう。
16席だけの贅沢な景色を、この日、長男は味わった。

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大学の4年間、小田急線で通学した。
中高6年間をのんびりした宗教系女子校で過ごして飛び込んだ新世界。
入学前から若干身構えてはいたけれど、想定外のことが次から次へと起こり、笑ったり悩んだり泣いたり悩んだりの繰り返しで、知らなかったことをたくさん知った4年間だった。
小田急線に家族で乗ると、そのころの青くさかった自分を思い出す。
それを子ども達にじっと見られているような気分に、一瞬だけなってしまう。自意識過剰も甚だしいのだけれど。

ロマンスカーは私のくだらない回想など全く気にもとめずに、駅をすっ飛ばしてビュンビュン進んでいく。
この爽快感。
長男は展望席で楽しんでいるかな、と背伸びをして前方を覗き込む。
自分専用デジカメで、車窓からひたすら撮影しているのが見える。


「お母さん、お弁当がきたよ」
次男の前には、可愛らしいロマンスカー弁当が客室乗務員さんから届いた。長男の分も届いているのがここから見える。

「もう、食べていいの?」
嬉しそうな次男。かわいいお弁当箱!帰ってから遊べるね。

長男は大丈夫かしら?
お隣の方にご迷惑かけてないだろうか?
あ、食べてる食べてる。
お隣の方は、団体さんみんなで、うちの子達のと違う種類のお弁当を食べている。予約購入のサイトにのっていた幕の内弁当だ、美味しそう。

私と夫は新宿駅構内で買った軽食。
「お母さんたち、このお弁当じゃないんだね」
そうなのよ、次男。ああ、お母さんも、もうちょっと駅弁チックなのものにすればよかったなと軽く後悔。夫はさっそくの昼ビール。


「お母さん、これ、空っぽ。ごちそうさまでした」
長男が空になったロマンスカー弁当箱を渡しに来た。
大丈夫?困ったことは起きてない?
「大丈夫、大丈夫。すごくいい景色。オレ、いっぱい写真撮ったよ!」

展望席に座ってみたいという次男、長男としばしの交代。
お隣の方を横切らせていただく時は
「すみません、失礼します」って言うのよ…と次男を送り出したら、え?もういいの?すぐ戻って来ちゃったけど(笑)

「ぼく、やっぱりここでいい」
次男は夫の隣にちょこんと座る。お父さんの隣が落ち着く1年生。
自分の展望席に戻る長男。


終点の箱根湯本駅ホームで、長男のお隣の方に、夫とお礼を伝えに行った。
「電車に詳しくって、たくさんお話聞かせてもらえたわ。ありがとう」
す、すみません!うるさかったですよね!!
「ありがとうねー、ぼくたちー!」
ニコニコしながら手を振ってくださったその方と、私達は次に乗る登山鉄道も実は同じなのだ。

お隣の方とどんなお話したの?と長男に聞くと
「うーんと、小田急のこといろいろ。車両のこととか……」
ひぃ、またマニアックな内容を…と心の中で思っていたら
「お母さん、オレ、ちゃんとおばあちゃん相手だから分かりやすくしたよ。それにおばあちゃんは反対側にいたお友達といっぱい話していたよ。だから大丈夫だよ」

長男、君はすごい。頼もしいよ。夫とふたりで笑いあう。
初対面で年齢がかなり上の方にも、物怖じしないで話しかけられること、自分が興味ある分野について、相手のことを考えながら話せること、いつのまにかそうなったのかな。すごいなぁ。


「今度はあれに乗るんでしょー!行くよぉ!!」
色違いのリュックを背負い走っていく兄弟に引っ張られて、私達は次の箱根登山鉄道乗り場に向かった。

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