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【エッセイ】野良猫を見つけた

野良猫を見つけた。
まだ昼と呼ぶには早い時間。
お隣さんの倉庫で、ごみ袋を敷布団にしてぐっすりと眠っていた。
十分ほどかけて、買い出しから帰ってきた頃には、あの子の姿はもうなかった。

あの子は今も気ままに生きているのだろうと思った。
寝床を選ばず、飯を選ばず、行く先をも選ばない。
生きるという目的のためだけに、日々を気ままに生きているんだろうと。

無職の生活を続けてから、おおよそ一年が経つ。
今は人とある程度話せるようになったし、傷病手当をもらい終えた辺りから就活にも取り組むようになった。
少し前まで低迷していた執筆のモチベーションも回復し、次のコンテストに向けて作業を始められている。

だが、すべてが順調になったというわけではない。
虐げられた過去の記憶が事あるごとによみがえり、憎悪の気持ちが噴水のように湧き出てくる。
また同じ目に遭うのではないかと交流を恐れ、些細なことですら許せずに刺々しい態度を取ってしまう。
「俺に生きる意義はやはりないのかもしれない」
「死にたければ勝手に死ねばいいと言われても仕方ない」
それらが、今の自分に対する正直な感想。

他人よりも腑抜けているという劣等感。
人並みに生きなければならないという焦燥感。
いくら頑張っても這い上がれないのかもしれないという不安。
胸中でぐちゃぐちゃに渦巻いていたそれらが、あの子の気持ちよさそうな寝顔を見てから、いつの間にかすっと消えてなくなっていた。

あの子に大それた使命はない。
今も気ままに日々を過ごし、今も生きることができている。

俺も同じように歩めるかもしれない。
朝に起きて、夜に寝て、三食食べて、歯磨きをして、軽く運動をして、汗を風呂で洗い流そう。
やりたいことをやって、頑張れるときにできることを頑張ろう。

それでも、日々を生きることができる。
神さまは、こんな生き方をする俺を許してくれるだろうか?
今度、神社に挨拶しに行ってこようかな。

心のわだかまりを取り除いてくれた見知らぬ野良猫さん、ありがとう。

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