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星色Tickets(ACT1)_SCENE2
//背景:演劇サークル部室_夕方
恭司「というわけで明日までに役者が必要なんだけど、誰か心当たりはないか?」
ところ変わって、演劇サークルの部室……になる予定の部屋。より細かく言えば、旧校舎二階。
すもも「いやいや……え、冗談でしょ?」
廊下に反射した夕陽が室内を仄かに照らし、どことなくムーディな雰囲気が漂う部室に、場違いもいいところの調子外れな声が響く。
すもも「あの、難攻不落の藤沢さんを攻略したっていうの?」
恭司「ああ。役者を見つけたら、脚本として参加してくれるってさ」
すもも「はへぇ~」
恭司「なんだよ。天変地異が起こったみたいな顔して」
すもも「だって天変地異なんだもん。そもそも会話に応じてくれただけでも奇跡なのに、加えて、参加を表明したときた。これは今年度モモさん史上最高の衝撃ですよ」
恭司「一週間前に新作アイスを食べたときも、今年度最高の衝撃とか言ってなかったか?」
まぁ、常に最高が更新されるのはいいことだ。それだけ毎日充実してるってことだし。
恭司「お前、俺のこと応援してくれてたんじゃないのか」
すもも「いやぁ、正直なところ、このままふたりで駄弁るのが日課になって、徐々に本来の目的を忘れていくのかなぁなんて」
すもも「……まさかそんなこと思うわけないよ! まったく失礼な!」
恭司「っ! いや、お前がな?」
いきなり勢いよく立ち上がるもんだから、びっくりして不整脈打っちゃったよ。
すもも「ほんっと、きーくんの毎日の努力をなんだと思ってるんだか!」
恭司「だから、お前がな? てか、誰視点でキレてんの?」
すもも「……ふぅ。とまぁこんな感じでどうかな? 役者試験合格?」
そう問いかけてくる彼女は、つい今までの剣幕なオーラを一転。普段通りのぬくぬくしたオーラを纏っており、その変化はあたかも大女優……
恭司「合格もなにも、オーディションを開始した覚えはないんだけど?」
なんて言うのもおこがましい二流芝居だった。声量がちょっと変化した程度で、あとは眉根がちょっと寄ってたかなって感じ。
すもも「なんだよー、つれないきーくん。ふんだっ」
恭司「俺はお前のテンションについていけねぇよ……」
人心地がついたところで、彼女の紹介といこう。
――青海すもも。
俺の幼なじみにして、副部長(予定)にして、副監督(予定)にして、雑務全般(予定)の、数少ない……というか、現段階では唯一、演劇サークル入部が確定している人物である。
ポジティブに言えば、エキセントリック。ネガティブに言えば、クレイジー。
要するに、すももの言動はまるで予測がつかない。
その最たる例は、中学生の頃から彼女が愛用しているカチューシャだろう。
すもも『髪を伸ばしたいから、カチューシャをつけはじめたんだ』
そう言った彼女がショートヘア以外の髪型になった姿を、俺は一度も見たことがない。
隣の家に住む俺が一度も見ていないんだから、すももがロングヘアだった期間は一秒たりとも存在しないのだろう。
では、何故カチューシャをつけているのか。
恭司「突然だがすもも。お前はなんのためにカチューシャをつけてるんだ?」
すもも「だって、髪を伸ばそうと思ったら前髪が邪魔になるじゃん?」
恭司「けど、一回だってロングになった試しがないじゃないか」
すもも「だって、髪長いと面倒じゃん?」
恭司「お前、たった二言で矛盾してるって自覚してるか?」
すもも「もちもち」
こいつ、絶対可愛さで人生イージーゲーム化してる類の女の子だよな。
すもも「きーくんや。人生は二律背反なのじゃぞ」
恭司「唐突になんの話だよ……」
そんな哲学的な返答は求めてないんだけど。
時折、コミュニケーションが成立しているのか怪しくなるが、こう見えて人脈が広いのがすもものすごいところである。
すもも「それできーくんのほうは役者にあてはあるの?」
恭司「いいや、これっぽっちも」
すもも「ふむ。一難去ってまた一難ってやつですな」
まさしくその通り。このままでは藤沢確保まで漕ぎつけない。
すもも「よし、モモさんにまかせんしゃい。無所属の何人かに話を持ち掛けてみるよ」
けど、すももの人脈の広さに頼ればあるいは……
恭司「ありがとう。助かるよ」
すもも「どういたしまして。それで万一全員ダメだったらどうする?」
恭司「そうならないために、今から校舎を駆け回る。で、それでダメなら、いつもより早く朝の勧誘をはじめる。それでもダメなら……藤沢に土下座するしかないかな」
すもも「相変わらずすごいバイタリティだなぁ」
すもも「けど、きーくんのカッコ悪い姿は見たくないんで、モモさん、全霊を尽くしてがんばるよっ!」
恭司「ありがとな、すもも」
すもも「ふふん、当然のことをしているまでよ。なにしろ次期副部長だし」
恭司「現副部長いないし、総部員ふたりだけどな」
付け加えるなら、そもそも正式な部とも認められていない。最低でも部員が四人いないと、部として認められないんだ。
一見、絶望的な状況だけど、実は応援してくれてる人が三人もいる。
この部屋を提供してくれた担任教師と、俺のわがままに付き合ってくれる幼なじみと、俺の懇願に応えてくれた鬼才。……三人目はついさっきだけど。
彼女たちの期待に応えるためにも、こんな序盤で計画を頓挫させるわけにはいかない。
俺は、なんとしても最高の演劇を作り上げなきゃいけないんだ。
あの日交わした約束を叶えるために……
………。
……。
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