見出し画像

星色Tickets(ACT1)_SCENE4

//背景:校門_朝

恭司「演劇に興味ある人いませんか~! 初心者でも大歓迎! 今ならレギュラー入り確実だよ~!」
女子生徒1「おはおはきっしー。今日も朝から精が出ますなぁ」
恭司「おはようございます福原先輩。入部希望……ではないですよね」
女子生徒1「受験がなければねー。力になりたいのはやまやまなんだけどさー」
女子生徒1「っと、一分一秒が天下の分け目だからわたしはこれで! ファイトだよきっしー!」
恭司「はい。先輩も勉強頑張ってください」

頭上で燦々と輝く太陽にも負けない眩しい笑顔を振りまきながら、福原先輩は生徒玄関に駆けていく。

福原先輩は去年の夏頃、早々に家庭部を退部し、以降は勉学に心血を注いでいる。

うん、その勤勉な姿勢は俺も後輩として見習わなきゃな。来年の夏くらいから。

隼人「よっす恭司。朝からお疲れさん」
恭司「おはよう萩原はぎわら。お前は既に野球部のエースだから論外」
隼人「朝から冷てぇな!?」

年中構わず坊主頭がトレードマークの野球部エース、萩原隼人はやとは、風宮学園に入学してからはじめてできた友人だ。

今年も去年に引き続き同じクラスで、幸か不幸か、席は前後の関係にある。

隼人「……って、あぁ部員勧誘ね。朝からご苦労さん」
恭司「野球部辞めて転部してきてもいいんだぜ?」
隼人「悪いな。俺は過去も未来も、愛すのは野球だけって決めてんだ。悪いが、ジュリエットは愛せない」

もっとも幸か不幸か判じかねるのは萩原の方で、俺にしてみれば幸運でしかない。

何故なら、萩原は世にも珍しい戯曲に理解のある見識高い坊主だから。

……いや、坊主と戯曲に因果関係なんてないけどさ。

恭司「お前、ロミオと競う意味わかってて言ってんのかよ。ジュリエットが毒薬飲んだから自分も毒薬飲もうとか普通思わないだろ」
恭司「けど、ロミオは本気でそう思っててさ、追放されてジュリエットと会えない世界で生きるのは拷問だ、なんて言うんだぜ? 他にも恋は盲目っていうから逆転の発想で闇に身を潜めるとか――」
隼人「はいはいストップストップ! 悪い、トンボ掛けしなくちゃだからこの辺で」
恭司「ああ、そりゃ悪いことしたな」

つい熱が入ってしまった。

恭司「朝から汗だくになって周囲の女の子に引かれないよう、軽くボディケアしとけよ。お前の隣の早川さん、たまに苦虫を噛み潰したような顔してるから」
萩原「くっそ! 野球部なんか入るんじゃなかったよ畜生っ!」

吐き捨てるように言って、萩原はグランドめがけて一直線に駆けていく。いやお前、ロミオがジュリエット愛すくらいに野球を愛してるんじゃなかったのかよ。

しかし、甲子園という野球児なら誰もが一度は夢見る頂を本気で目指す友人の姿勢は輝かしく……

すもも「雑談もほどほどに、勧誘に力を入れなはれ」

ぺちんとビラ束で頭をはたかれ、俺は視線を北東にあるグラウンドから、西にある体育館……ではなく、幼なじみに向ける。

すももはジトっと目を細めていて……結構本気で怒ってるなこれ。

恭司「いやでも、フレンドシップって大切じゃん?」
すもも「だとしても限度があるよ。今のきーくんは、握手会でついでにサイン色紙渡して、さらにそのついでにCDにサインしてるようなもんだからね、傍から見れば」
恭司「なにそれ。ファンサ過剰すぎだろ」
すもも「ブーメラン発言! 自覚あるならやめんしゃい!」

ビシッと指代わりに差されたビラが、いい塩梅に空気を孕んで破裂音のような音を生み出し、一時、生徒玄関付近の注目が俺とすももの一点に集まる。

おお、なるほど。これがすもも流集客術。

恭司「やっぱり持つべきものは幼なじみだな」
すもも「なんだか事態が予期せぬベクトルに進んでるような……」
恭司「演劇サークルはじめました~! 今なら初心者でも主役確約! 早いもの勝ちだぞ~!」
すもも「その謳い文句、スーパーのタイムセールみたいだからやめない?」

うん、思った。けどさ、他にいい感じの謳い文句が浮かばないから仕方ないじゃん?

男子生徒1「おはよう恭司。お前、また――」
すもも「おはよう中谷くん! 今日も髪つんつんだね! イケてる! はい、さいなら!」
男子生徒1「お、おう……じゃな青海」
すもも「うん、また教室で! ……ね? 簡単でしょ?」
恭司「すもも……お前ってクラスメイトをおざなりに扱う冷たいやつだったんだな」
すもも「きーくんは臨機応変って言葉を学んだほうがいいよ……」

それから友人との挨拶を軽く済ませ、無所属のような気がする大人しい子にターゲットを絞って勧誘していると、またもすももにビラ束で頭をはたかれた。理不尽である。

恭司「なんで叩かれなきゃいけないんだよ」
すもも「さっきから女の子ばっかじゃん! 男女平等! 男の子も誘いんしゃい!」
恭司「いやお前だってさっきから女の子ばっか――」
すもも「わたしは女の子だからいいの!」
恭司「男女平等とは?」

そんなこんなで、俺とすももは今日も朝から部員勧誘に励む。

かれこれ一か月くらい活動に励んで入部希望者はゼロだけど、今日こそは入部希望者が現れると信じて……

少女「……」
恭司「ん?」
少女「っ……!」
すもも「どしたのきーくん?」
恭司「いやなんか強い視線を感じて……」

職員室前の花壇あたりから見られてる感じがしたけど……

恭司「……気のせいか」

屈んで身を隠すなんて無意味なことするわけないもんな。

恭司「演劇に興味ある人いませんかー? 今なら入会特典で、あの風見学園の聖母こと、あげは先輩とのお茶会券をプレゼントしちゃいます!」
すもも「嘘つきはめっ!」

いや、あの先輩なら頼めばやってくれると思うぞ。

………。

……。


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?